19話 ルームメイトの嫌いなモノ —花音Side
「うへ……何これ~……」
「え、玉ねぎだけど?」
入学して一週間。いつもの夕飯。
すっかり2人で食べるのに慣れてきた頃に、葉月が初めて、私が出した料理に渋い顔をした。サラダに入れたオニオンスライスを口に入れた時だった。
「味や~」
「美味しくない?」
「これだけいい~」
ポイポイとそれだけ私のお皿に置いていく。綺麗にそれだけどかして、サラダは美味しそうに食べている。
美味しいけどな。置かれた玉ねぎを口に運ぶ。ドレッシングもこれに合うモノ作ったんだけど……。
チラッと葉月を見ると、生姜焼きと一緒に炒めた玉ねぎはしっかり食べていた。
「葉月、そっちは大丈夫なの?」
「うん? んふ~これ美味しい~」
あ~んと口に入れて、美味しそうにモグモグ食べている。
ということは……生の玉ねぎが嫌いなのかな?
それだけ頭に入れて、その日の夕飯を終えた。
□ □ □
あ、これ。
学園からの帰り、皆でスーパーに寄っている。もちろん食材を買いに。
だけど、私はあるところで目を奪われた。
イチゴ味のプリン。新商品。
「あーこれ美味しいよね」
「舞、食べたことあるの?」
「最近だよ、これ出たの。あたし、イチゴ味が好きだからさ! ちゃんとチェックしていますとも!」
「そうなんだ」
でも美味しそう。是非味を確かめて、自分でも作れるようになりたい。
「私はチョコ~」と隣にあったチョコ味のプリンを取って葉月はカゴに入れていた。入れすぎて東雲さんに怒られていたけど。舞も1つ買うために手に取っている。
私もこれ食べてみよう、と1つ手に取った。
寮に帰って、すぐ葉月はチョコ味のプリンを食べていた。私は自分のイチゴ味のプリンを冷蔵庫にしまう。あとで食べよ。
今日は先に夕飯にしようか、でもお風呂も捨てがたい。うーんと少し考えて、お風呂を先にした。
お風呂の準備を整えて、食材はあと炒めるだけにしておく。必要なものは切って、調味料も分量を量っておいた。今日はエビのバター炒め。簡単で美味しい。お味噌汁だけは先に作っておく。
準備をしている間に、先にお風呂に入っていた葉月が上がってきた。じゃあ交代、ということでゆっくり私もお風呂に浸かる。ん~やっぱり湯船に浸かるのは気持ちいい。あったまる。
さっぱりして、お風呂から上がった。
さてさて、じゃあご飯にしますか。と、さっき用意しておいた食材を取るために、冷蔵庫を開けた時だった。
……ない。
え、ない。
さっき買ったプリンがない。
嫌な予感が……。
パタンと冷蔵庫を閉じて、部屋に向かった。
ガチャとドアを開けて、ガラスのテーブルの前でクッションの上に座っている葉月が視界に入る。また髪乾かしてない。
それよりも……。
葉月が口にしているものに視線がいった。
「……葉月、何食べてるの?」
「うん? プリン」
パチパチと目を瞬かせ、首をコテンとしながら、ニッコリ笑っている私を見上げてきた。手には私がさっき買ったイチゴ味のプリンを入れているカップが、しっかり握られている。もう片方の手でスプーンを使い、それを口の中に入れていた。
「さっき、自分の食べてたよね?」
「花音、食べないからいらないのかと思って」
あとで食べようと思ってたの。いらないのは冷蔵庫に置いてないの。
こっちの気も知らないで、あ~んと葉月は最後の一口を口に入れた。
その瞬間、私の中で一つの決心が固まった。
キッチンに戻って、まな板と包丁を用意する。自分が食べる用にと買っておいた玉ねぎを取り出した。
――――
「むー」
案の定葉月は膨れている。サラダに玉ねぎを入れているからね。
「これ、いい」
と、私のお皿に入れようとしたから、そのお皿をサッと避けてあげた。目を丸くしている。
「だめだよ、葉月。食べようね?」
「だって、これ美味しくない」
「体にはいいんだよ?」
それでも入れようとしたから、また避ける。にっこり笑って葉月を見た。
「食べようね?」
「いや」
「今日は絶対食べてもらうから」
「い、いや」
「さっき私のプリン食べたんだから、ちゃんとこれも食べようね?」
「い、い……いや……」
「た・べ・よ・う・ね?」
ニコニコと畳みかけると「うっ……」っと少し怯えた感じで見てきた。
それに手をつけるまでに時間がかかったけど、食べ終えるまでは、ジッと笑みを崩さないで葉月を見てあげた。途中でちょっと泣きそうになってて、目尻に涙を溜めている。ちょっと可愛い。
全部食べ終えて、そこで初めて私はスッキリしたから、葉月の頭を撫でてあげたよ。
この日から、葉月は私の買ってきたものに絶対手を出さなくなった。
よしよし。
お読み下さりありがとうございます。