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198話 それを提案したのかな? —花音Side※

 

「……今なんて、舞?」

「だからさ! 景品に生徒会メンバーとデートとか握手とか、そういうのをつけてあげればいいんだよ! そうすれば絶対もっと参加者出てくるって! ほら、会長や他の先輩たちも全員人気あるじゃんか!」


 冬休み明け、予定している総合コンテストを生徒たちに告知したんだけど、思ったより参加者が少なくて、皆でどうしようかと悩んでいた頃、舞が部屋に戻ってきたと思ったらそんなことを言いだした。


 景品にデートって……よく知らない人とデートするってこと? それって景品になるのかなぁ。先輩たちは人気あるからデートしたいってなるかもしれないけど……でもなぁ、私と舞もその内に入るわけだよね?


 私、知らない人とデートするのはちょっとなぁ。私とデートしたいとか言う人いるわけないと思うけど、でも可能性があるのもなぁ。


 難色を示していたら、目の前の舞はうんうんと満足そうに頷いていて、聞き捨てならないことを話しだした。



「さっすが葉月っちだね! そんなことを景品にするとか、考えなかったよ!」



 ――これ、葉月の提案なの?


 思わずニコッとしてしまうと、目の前の舞が何故か「ひっ!?」と悲鳴をあげている。


 結局、葉月が突然泣いた時から会えていない。


 心配になって何度か部屋に行ったけど、一花ちゃんが申し訳なさそうに首を振っていた。予想はしてたし、仕方ないとは思う。元気になったなら、うん、よかった。


 だけどね、その提案はどうなの?

 それってつまり、私が誰かとデートしても問題ないってことだよね?


「…………舞?」

「は、はい!」

「それ……葉月が言ってたの?」

「そそそそうだね! さっき部屋に行って、葉月っち参加しないかなぁって誘ったら、そんな返事が返ってきて!」


 へー、ふーん、なるほどー……葉月はさっぱり私のこと全く意識してないね。


 クリスマスパーティーの時にキスしたことも、今はもう綺麗さっぱり忘れてるってことかな? あれは葉月にとっては全く気づくことではなかったと。一花ちゃんが鴻城(こうじょう)家史上一番の鈍感だって言ってたのは過言でもなんでもないと。


 ニコニコニコと舞につい笑っていたら、舞が寒そうに腕を摩っている。部屋の暖房効いてるけど、どうしたんだろうね? ああ、それよりも。


「あのね、舞?」

「ははははい!」

「デートを景品にするのってどうなんだろうね? 舞だったら、知らない人とデートしたいかな?」

「おおお仰る通りです!」

「じゃあ、それ以外で考えよう?」

「へっ!? いや、でででもさ、このままじゃ参加者少な――」

「それ以外の方法はいくらでもあると思うの。景品っていう考えはいいと思うから、東海林先輩たちにちゃんと相談しようね?」

「は、はい!」


 何故か正座して背中をピンと張っている舞がそう返事してくれたから、うんうんとこっちも満足だよ。


 さて、葉月の方もどうにかしないとね。ちゃんと会って、そういう提案を今後舞にしないように言わないと。本当、どうしてくれようか。


 まあ、絶対葉月ならコンテスト当日に何か面白そうとか言って、何かしらしてくると思うから、その時に捕まえてみよう。うん、そうしよう。


 その後、先輩たちに景品の話をしたら、意外にも乗ってきてくれた。なるほど、中等部の時にそういうのをやったんですか。しかも葉月が無理やりやったんですね。


 デートとかはさすがにという話にもなって、握手と写真撮影に収まった。


 そう告知すると、会長たち目当ての人たちの参加者が殺到して、なるほど、葉月の思惑通りにはなったね。会長たちは人気あるから、それでも嬉しいんだろうな、皆。これで参加者の件はクリアできたから、良かったとは思う。



 □ □ □



 そして当日。


 会場の設置も業者さんに頼んでたから、結構な賑わいを見せている。先輩たちの最後の思い出には丁度いいかな。舞が企画してくれてよかったかも。


 生徒会メンバーもクイズとか障害物レースとか参加するけど、私は今回辞退したよ。先輩たちにやっぱり楽しんでもらいたいから、裏方に徹しようと思って。


 さて、それでは、とクイズが始まりそうな時に、私は違う障害物レースの会場に足を運ぶ。葉月が何かしそうかなっと思った場所がここだったから。


 ゴール付近の壇上裏に来てみたら、葉月の姿は見当たらない。……うーん、きっとこのくす玉に何か仕込むかなと思ったんだけどなぁ?


 そう思っていたら、だんだん「チューチュー」という動物の鳴き声が聞こえてきた。慌てて身を隠してみる。


 ソロっと気づかれないように、その鳴き声の方を見ると、案の定、葉月が箱を持って楽しそうにこっちに来ていた。


 ……うん、あれネズミさんが入ってるんだね。やっぱり何かしようとしていたか。予想通りに来てくれて、内心ホッとしながら笑ってしまった。


 でもよかった。あの時より葉月の顔色は随分良くなっているから。あんな風に辛そうに泣いていたとは思えないほど、元気そう。


 その葉月はやっぱりくす玉に目をつけたらしい。足元にネズミさんが入っている箱を置いて、頭上の玉をロープで引っ張って下げだした。


 きっと、あの中にネズミさん入れるんだろうなぁ。あれは優勝した人が引っ張る予定だから、そんなことになったら可哀そうだよ。


 静かに葉月に近づいていく。絶対私がいるってなったらすぐ逃げると思う。ここ最近の学園でもそうだもの。わざと葉月の教室の方を通ってから生徒会室に行くと、私に気づいた葉月はすぐ逃げだしていた。


 ……あれ、私が気づいてないと思ってるけど、気づいてるからね? そして少し落ち込んでいるからね?


 だから絶対逃げられないように近づいて、葉月の制服を少し掴んだ。


 目の前の葉月はロープを引っ張るのに夢中なのか気づいてないね、これ。どれだけこれに夢中になってるんだろう。さすがにこれだけ近づいたから、気づいてほしいんだけどなぁ。


「何してるの?」


 夢中になっている葉月に後ろから声を掛けると、やっと気づいたのか、不思議そうにこっちに振り向いてきた。そして私が掴んでいる服の裾に視線を落としてから、また目を丸くしながらゆっくり私の顔を見てきた。


 きょとんとした顔、可愛い――ってそうじゃないね。


「その手を離そうね、葉月?」


 パチパチパチと数回目を瞬きながら私を見てくる。何で私がここにいるのかって考えてるのかな? その前に、今やろうとしていることをやめようね?


「その手を離そうね?」


 再度ニッコリしながらそう言うと、パッと手を離してくれた。うんうん、勢いよく玉が元の位置に戻っていくね。


 その様子を見上げてると、掴んでいた服がピンと張った。視線を葉月に戻したら、一歩私から離れている。よかった、掴んどいて。


「葉月は逃げるからね」


 予想通り逃げようとしたね? そう告げると、葉月が納得したのかポンと手を叩いていた。思わず苦笑しちゃったよ。それって肯定してるじゃない。


 ああ、でも。

 近くで見るとやっぱり顔色はいい。


 一花ちゃんからは元気だって聞いてたけど、やっぱり自分の目で見て安心したかった。


「……良かった」


 思わず呟いたら、葉月は驚いたのか目を大きく開けている。


 心配してたんだよ。先生も来たし、一花ちゃんも顔色悪かったし。何かあったんじゃないかって思ってたから、元気そうで良かった。


「葉月が元気そうでよかった。寮で会った時以来だから……」


 不思議そうに首を傾げてきた。そのきょとんとした顔を見ると、何でもなかったんだと思えて、また安心するよ。


 それにしてもさっきから全く返事がない。声、聴きたいんだけどな。そんなに私と話すのも会うのも嫌なのかな?


「……もう話をするのも嫌になったかな?」


 そうなったら、もう嫌われてるってことで悲しいんだけど。


 でもそうじゃないみたいだね。また驚いている様子だもの。


「……そうじゃないよ~? ただ、なんでここにいるのかなって思ってただけだよ?」

「葉月は絶対何かするだろうなって思って、少し見張ってみたの」


 嫌われてないなら良かった。なら本題に入れる。


 私が言ったことが当たっていたのか、露骨に視線を泳がせ始める葉月。


「や、やだな~花音~。私はね、不具合を確かめてただけだよ~?」

「そっか。じゃあ、そのネズミさんたちはなんだろうね?」


 さっきから足元の箱から「チューチュー」ってネズミさんが叫んでるよ? あのくす玉に入れようとしてたんでしょう?


 ああ、逃げちゃだめだからね。と思って、ギュッと服を掴む手に力を込めたよ。また1歩下がろうとしたんだもの。


「あ、あはは~。迷子じゃないかな~。そ……それより花音? そろそろこの手放してくれないかな~?」

「そうしたら、すぐ逃げるよね?」


 今すぐ逃げ出そうとしてるの分かってるからね? それにちゃんと私、葉月に確認したかったの。


「あのね、葉月。どうしても自分で確認したかったの。舞から聞いたんだけど……」


 ニッコリと笑って葉月に向き合う。葉月は予想外のことを言われたからか、首を傾げて不思議そうに見てきたよ。


「参加賞と賞品の話、葉月の案だよね?」

「うん? そだね~」

「その中にデートの賞品あったんだけど、あれ葉月の案なんだよね?」


 舞がそう言ってたんだけど、本当に葉月がそう言ったのかな?


 ついつい葉月に近づいていくと、後退るように葉月も下がっていくから全然近づけなかった。え、え? と戸惑っているのが伝わってくるけど、ちゃんと確認したかったの。どうなのかな?


「あ、あの……花音?」

「な~に、葉月?」

「ななな何をそんなに怒っているのか、さっぱり分からないけどね?」

「怒る? どうして?」


 怒る? 何を言ってるのかな? 私はただ“確認”をしているだけだよ? 


 その答えを聞きたくてニコニコしてたら、何故かコホンとわざとらしい咳払いをしだす。


「な、なるほど……」

「何がなるほどなの、葉月?」

「賞品の案をもっと違うのにすればよかったんだね!」


 ……あれ? 気づいた? デートの案を出したのが少しショック受けてたって、わかったのかな。


 思わず自分がきょとんとしてたら、葉月が自信満々なように人差し指を立てた。何で指?



「デートじゃなくてキスの方が需要あるよね!」


「…………はい?」



 全く違うことを考えてた。

 しかもその答えに自信があるのか、うんうんと頷きながら「これが正解でしょ?」とでも言いたげの様に笑っている。


 つまり、葉月にとってはキスをしていいって考えてたわけだ。私が誰とキスをしていいと思ってるわけだね。そうなんだ。まったく私が葉月を好きだって微塵にも思ってないわけだ。


 なるほどなるほど。クリスマスに私がキスしたことなんて、綺麗さっぱり忘れているって確定ということだね。


「ねえ……葉月?」


 にーっこりと笑って葉月を見たら、小さく「ひっ!?」と悲鳴をあげた。自分でも思ったより冷たい声になっちゃって驚いたよ。


 だけど、今後絶対そんな考えを持たせなくないんだよね。


「そういうの、賞品にするのはどうかと思うんだけどな?」


 何故か固まっている葉月に、今度こそ近づいて顔を覗き込む。


 私、葉月以外とキスもデートもする気ないの。


「あのね、葉月……生徒会の人たちだって、そういうのは好きな人としたいに決まってるよね? 好きでもない人としたくないよね?」


 絶対嫌。その人がどんなにイケメンでも優しくても、私が好きなのは目の前の葉月だから。


 ちゃんと理由を言うと、葉月が呆けたように口をポカンと開けてから、「なるほど」と言いたそうに1つ頷いてくれる。これは伝わったかな? まさか自分だとは思ってはいないだろうけど。


「それもそだね」

「うん、そうだよね。だから今後はそういう案は控えようね? 舞が乗り気になって大変だったの」

「うん、いいよ~」


 うん、よしよし。分かってくれたみたいだね。これで今後こういう提案を葉月がすることはないでしょう。


 もしこういうのがきっかけで、私の好きな人が違う人だって思ってほしくもないし。


「それにね……」


 そっと服を掴んでいない手で、近くにある葉月の頬に触れると、ぎょっとしたように葉月はまた驚いている顔になってる。


 少しでも、気づいてくれないかな?


「私だって、好きな人以外とそういうことしたくないんだよ?」


 ゆっくり親指を葉月の唇に触れさせた。柔らかい感触が指に伝わってくる。私がしたいのはこの唇。実はさっきからもう心臓はバクバクいってる。


 だから、葉月。葉月に他の人とキスしてもいいって思われるの、嫌だよ。


「だめだよ。もうあんな提案しちゃ……ね?」


 この口から、他の人とって言わないで?

 それで平気だって言わないで?

 他の誰でもない葉月に、私は好きになってもらいたいんだから。


「かかか花音? わわわわかったから。すすす少し離れようか、ね?」

「…………本当にわかった?」


 さすがに動揺しているのか、ものすごく声が上擦っている。友達同士でこういう風に唇に触らないから、それは変だって気づいたかな? 


 コクコクコクと葉月は何度も頷いていた。


「わわわかった! 大丈夫だよ! 今度は違うことにするからね! あ、ハグだったら大丈夫だね! それぐらいだったら景品として十分すぎるくら――」

「うん、分かってないね」

「すいません! もうこういう景品関係は考えません!」

「それがいいね。葉月はもう考えないようにね?」

「はい!」


 全く分かってなかった。本当、口を開くと余計なことをしそう。


 しっかり釘を刺すと、何度も何度も縦に首を振ってるから、私が何かを怒ってるとは思っているみたいだね。今はそれでいいか。


 ああ、そうだ。


 頬に触れてた手をそこからどかして、今度は葉月の手をぎゅっと握る。また分からなそうにその手を見てきたけど、葉月にまだ釘を刺しておかないと。


 にっこり笑って、その手を持ち上げた。きょとんとしている。


「葉月もだめだよ? 好きな人以外とやったら」

「うん?」

「こういうことだめだよ?」


 持ち上げた葉月の手に唇を触れさせた。


 柔らかい指の感触と温かさが唇に伝わってくる。

 さっきから心臓はバクバクしてたけど、さらに鼓動が早くなった。

 幸せな気持ちで溢れてくる。


 絶対、今の葉月はこういうことされるとは思ってないだろうな。

 だけど、他の人とキスしてほしくないから。


 ゆっくり唇を離して、葉月を見ると、呆けたようにまた口をパカっと開けていた。


 クリスマスのこと思い出してくれたかな?

 その顔見れたから、いっか。


「こういうこと……だめだからね?」


 ふふって笑って、釘を刺す。でもきっと分かってないと思う。まだポカンと呆けているもの。


 少し楽しくなって、そのまま体を反転させてから、葉月の腕に自分の腕を絡ませた。


「じゃあ、皆のところに戻ろうか、葉月」


 突然ハッとしたように、私と絡まれた腕を交互に見てくる。


 それもまた楽しいな。こんなに葉月のことをあたふたさせているのが自分だっていうのが楽しい。もっと色々と私のこと考えてほしいから。


「一花ちゃんに届けなきゃね。それとも部屋戻ってくる? それだったら放していいけど? でも葉月は戻ってくる気ないもんね?」


 返事がない放心状態の葉月を少し強引に引っ張って、皆がいる場所に戻っていった。ちょうど一花ちゃんがいたから葉月を渡したよ。


 だけどまだ放心状態なのか、口を開けて私を見ていた。


 うんうん、少しでも何でキスされたとか考えてね? 少しでも、私が葉月のこと好きかもって思って?


「あ、花音! どこ行ってたのさ!? 次、障害物の方だからね!」


 クイズをしている会場裏に行ったら舞に怒られた。


 でも段々さっき自分が葉月にしたことを実感してしまって、思い出してその場に蹲っちゃったよ。「え、え!? 一体どうしたの!?」と慌てる舞の声が頭上に降ってきたけど、ごめん、今無理。


 冷静になったら、また葉月にセクハラしてる。もう疑いようのないくらいに。葉月が鈍感だから訴えられないだけで、ああ、もう、私何やってるんだろう。


 だけど葉月だって悪い。あんなされるがままになるなんて。


 あれ、でも嫌がられなかったな?

 少しは期待していいってこと……?



 なんて都合のいい考えも浮かんできて自己嫌悪と、あと葉月の指にキスした時の幸せな気持ちが入り混じって、そのまましばらく、慌てる舞をよそに1人内心悶えていた。

お読み下さり、ありがとうございます。

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