185話 クリスマスパーティー
「え~いいじゃん、制服で~」
「うるさい! 文句を言うな! さっさと着ろ!」
今日はクリスマスパーティーがある。
つまり、花音と会長のイベントがあるわけで。
いっちゃんが張り切っているわけで。
そして無理やりドレスを着せられようとしているわけで。
「ねぇ、いっちゃん。私はこう思うわけです」
「ゴタゴタ言ってないで、さっさと着ろ! もう時間がないんだよ!」
「まあ、いっちゃん。パーティーは逃げないよ? 落ち着きなよ」
「何でお前が落ち着いてんだよ!?」
「だからさ~無理に着る必要はないわけでね。男子だって制服じゃん。女子だって制服でもいいわけだよね?」
「めちゃくちゃ浮くんだよ!? 女子全員がドレス着てくるんだよ!?」
「じゃあ、前例になろうじゃないか!」
「……本音を言え」
「ドレス嫌いです」
思いっきり溜め息をつかれたよ。だって~動きにくいじゃ~ん。私は動きやすい方が好きです!
プイっていっちゃんから顔を逸らしたら、頭に拳骨飛んできて、胸倉掴まれて凄まれたよ。
「……とっとと着ろ」
「何でそんな着せたがるの~? 私がドレス嫌いなの知ってるくせにさ~」
「ただでさえ目立ってるんだよ、お前は。これで制服でいってみろ。周りに人が寄り付かなくなって、安心してイベント見れないだろうが」
めちゃくちゃ自分本位だったね、いっちゃん。
「でもさ~いっちゃん。私は確かに目立ってるけどさ、今更じゃない? それにイベントは私、興味ないから見ないよ?」
「お前を1人に出来るか!?」
「だからね、いっちゃん。今日はいっちゃんの手の届く範囲で大人しくしていてあげるよ」
「お前がそれを言って、そうなったことが一度でもあるのか!?」
「ない!」
「断言してるんだから、言う事聞けよ!?」
「あ、ほらいっちゃん。遅れるよ? じゃ、この制服ということで」
「無視をするな!? って本当に時間がないな……くそっ……仕方ない」
ふっふ~。これは私の勝ちですね。ずっと駄々こねてましたからね!
というわけで私はドレスを着ないで、パーティー会場に向かいましたよ。途中、車の中でいっちゃんが恨みがましそうに見てきたのは言うまでもない。「大人しくしておけ」って百回は言われたよ。
今回のイベントはホールでのダンスなんだって。つまり2人っきりじゃないんだよね。他の生徒も全員いる。それだけ? って聞いたら、それだけだって返されたよ。それの何が面白いのか全然分かりません!
会場に着いたら、生徒でごった返してた。全学年の生徒がいるからね。こんなに学園生いたんだな~って思ったよ。お、あれは舞とレイラじゃないの?
「葉月っち!? なんで制服なの?」
「ドレス嫌い」
「簡潔だね!?」
「何やってますのよ、一花。これは由緒正しき伝統なんですのよ? ちゃんと正装させないでどうしますの?」
「お前、もういっぺん言ってみろ……こいつにドレス着せるのが、どんだけ大変か分からせてやるからな……」
「ひっ!」
「一花一花ストップ! めっちゃ怒ってるじゃん。葉月っち、何したのさ?」
「駄々こねました!」
「堂々と言うことじゃないんですけど!?」
だって事実だし。
それにしても皆、綺麗に着飾ってるね。メイクもばっちりだし。でもレイラのメイクは濃すぎると思うけど。気持ち悪くなってる。
さて、舞がいっちゃんを宥めてる間に……逃げますか! せっかくの会場だもんね! 知らない会場探索は必須でしょ!
ということで、ソソソっと人混みに紛れましたよ。
「あれ? 葉月がいませんわよ?」
「はっ!? 早速か!?」
「え~!? 行動が早すぎる!! 葉月っち、どこいったの~!?」
遠くでいっちゃんの嘆きが聞こえるけど気にしません! スタコラさっさと会場に入りましたよ。それに今日のいっちゃんはドレスだからね! 動きにくくていつものようにはいかないから、追いつかれるのはそんなすぐじゃないはずさ!
裏方の方に回ってみる。こっちには何があるのかな~?
あ、でも、
花音には会わないようにしないとな~。
舞たちと一緒じゃなかったから生徒会メンバーと一緒かな? あれ、でも舞も生徒会メンバーなんだけども、なんであそこにいたんだろ?
なんてことを考えながら歩いてると、ドンッと曲がり角を曲がって、人にぶつかってしまいました。
そして、さっき考えたことを後悔したよ。だってこれってフラグっていうらしい。いっちゃんが言ってたもん。
「……葉月?」
目の前にはあれ以来会っていない花音がいたから、フラグを回収したらしい。
※※※
約1カ月ぶりの花音はまあ、それは綺麗だった。
ドレスアップしてるせいもあるかもだけども、それはそれは綺麗だった。
思わず声も出せずに固まってしまったよ。
花音も固まってたけど。
しかも首には私があげたネックレスつけてるし。
このドレスにも似合いました。
「…………」
「…………」
さすがに沈黙。
ど、どうしよっかな……さっき会わないようにしようって思ってたから。普段も姿少しでも見えたら逃げてるし、さすがに会うのはまだ早すぎる。
それに、いっちゃんも追いかけてきてるはずだし――
「桜沢? 何してる、いくぞ?」
奥から会長の声が飛んできた。
花音が思わずそっちを振り向いてるから、チャンスだと思いましたよ! 助かったよ、会長! 人生で初めて会長に感謝するよ!
花音は私と会長を交互に見てきて、戸惑ってる様子だ。思わず苦笑しちゃったよ。
さっさと行きなよ。
今から会長とダンスでしょ?
「花音?」
私が呼ぶと、ビクッてしながらこっちに視線を戻してきた。
「行きなよ……会長待ってるよ?」
「っ……待って、私っ!」
「私はいっちゃんから逃げなきゃいけないからさ~。悪いけど先行くよ?」
「まっ――!」
花音が何か言う前に、逃げ出した。
来たところを逆戻りして逃げ出した。
思ったより元気そうだったな。
最後に会った時より顔色も良かったし。
舞が言ってた通りかも。
このまま、
ずっと離れてれば、
花音は前みたいに笑えるようになるはずだから。
「葉月っ! 見つけたぞ!」
あ、いっちゃんに見つかった! やっば! そして、いっちゃん! その形相はそのドレスに合っていませんよ!!?
だけど、舞が前方で待機していて、後ろからきたいっちゃんに捕獲されたよ! 舞! なんで裏切ったのさ! って、うん? 今から生徒会の仕事いくの? いってらっしゃい。
いっちゃんに捕獲された私は、ズルズルと首根っこ掴まれてホールまで連れてこられたよ。当然周りからは白い目で見られましたけどね。
「いいか、お前は絶対大人しくしてろよ。ここから動くな。騒ぐな。黙ってろ」
「いっちゃん、喉乾いた」
「はぁ……わかったわかった。ってことでレイラ、お前水持ってこい」
「んなっ!? わたくしは小間使いじゃありませんわよ!?」
「じゃあ、お前がこいつ見張るのか?」
「仕方ありませんわね! 取ってまいりますわ!」
変わり身の早いレイラが持ってきた水を飲んでると、生徒会メンバーが出てきて挨拶が始まったよ。遠目で見ても花音は綺麗だった。
「じゃあ、わたくしはこれで」ってレイラがそこを離れていったけど、ダンスの相手を探しにいったらしい。相手見つかればいいね。
曲が流れてきて、生徒会メンバーを中心に踊り始める。
花音の相手はもちろん会長。
生徒会のメンバーが動く度に、周りの生徒が黄色い声を出していた。
いっちゃんはもう鑑賞モード。
でも、いっちゃん、本当にこれだけなんだね。今回のイベント。
音楽が流れる。
会長と花音が踊ってる。
花音が笑ってる姿が見えた。
久しぶりに見た。
会長のそばだと花音は笑える。
思わず嬉しくなって、笑みが零れた。
だけど、心臓はギュッとなって、
苦しくなって、
いっちゃんの邪魔しないように、風に当たろうとバルコニーに足を運んだ。
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