17話 攻略対象者との出会い
「あ? 何やってるんだ、お前?」
ぶっきらぼうな感じで花音に話しかけている男。
鳳凰翼。
鳳凰の名は良く知られている大財閥だ。様々な業種で知られており、この国の経済の一端を担っているといってもいい。私たちお金持ちの中でもかなり有名である。
その息子が星ノ天学園高等部の生徒会長だ。今は3年生。高身長で顔はイケメン(らしい、私にはよく分からないけど)。男子、女子ともに人気がある。何故かって?
「えっ? あ……その……」
「あ~? もしかしてあれか? 俺を探していたのか?」
「……はい?」
この自信過剰なところがいいらしいよ。全部が自分中心に動いていますっていう感じ。いっちゃん曰く『俺様キャラ』というらしい。全く分からないけど。
というか、変わらないね。何でいきなり、「自分を探している」になるのか分からない。まあ、初等部から追い掛け回されていたのは知っているけどさ。今日入学式よ? そしてあなた、寮長に入学式の事任せてたでしょ? あなたが今日ここにいるなんて、新入生誰も思ってないんだけど。さっき教室で「翼様、今日は来られてないみたい」って声が聞こえてきたからね。
「悪いな。今日は完全オフだ。また違う日にしてくれ」
「……は?」
先輩。思い込み激しいよ。花音が完全に置いてけぼりだよ。いっちゃんは目を輝かせてるけどさ。これもゲームにあった展開なのだろうか?
「あの……私はただ友達とここで待ち合わせてしてるだけで……」
「あ? お前、俺のファンだろ?」
「……はい? 違いますけど」
パチパチと目を瞬かせて花音を見ている先輩。花音も首を傾げている。そりゃそうだ。花音にとっては初対面なんだから。
「……お前、俺の顔知らねえの? ここの生徒なのに?」
「知りませんけど?」
誰もが先輩の顔知ってるわけじゃないでしょうが。花音以外にもあなたの顔をまだ知らない外部生いっぱいいるよ。今日入学したばかりなんだから。
花音をジロジロと珍しそうに見ながら考え込んでいる先輩。花音がオロオロしだしたよ。
「な、何なんですか……?」
「……そういや、今日入学式だったな。お前、新入生か?」
「そうですけど……」
「なるほど、だから俺を知らないってか」
やっと気づいたか。遅いよ。
「だとしても、何でお前はここにいる?」
「だ、だから……友達とここで待ち合わせしていて……というかさっきからお前お前って……何なんですか……失礼だと思うんですけど……」
おお! 花音が言い返した! やる~! せんぱ~い。確かに失礼ですよ~。初対面の人にそんな上から目線なんて~。
「何だ? 名前でやっぱり呼ばれたいのか? やっぱり俺のファンじゃねえか」
「……すいませんが、何でそうなるのか分かりません」
私も分かりません。
「まぁ、いい。それで? その友達とやらはどこにいる? なんでこんなとこで待ち合わせてるんだ?」
「そ、それは……その……」
「あ? はっきり喋れ」
「っ……エントランスホールへの行き方が……分からなくて……友達が中庭の方が近くにいるから……それで……」
「なんだ。お前迷子か」
「っ!」
「はぁ……そうならそうと早く言え」
先輩はそう言うとクルリと踵を返し、顔だけ振り向かせた。
「ついてこい」
「……は?」
「エントランスホールだろ? こっちからの方が早い」
「い、いや、あの。だから、友達が迎えにきて……」
「はあ……めんどくせぇな」
「は……? きゃあ!?」
先輩はガシガシと頭を掻いて、花音に近づいたと思ったらいきなり持ち上げて肩に担いだ。
いやいやいや、何してるの先輩? セクハラ? それ、セクハラじゃない? 花音の悲鳴可愛いけど。
「ちょっ……!? 何するんですか!? 降ろしてください!」
「俺が案内してやるっていうんだ。光栄に思え」
「はい!? 何が光栄!? ちょっとっ!? どこ触ってるんですか! 降ろして!」
「ガタガタぬかすな。迷子のくせに。その友達にも自慢できる」
「なっ!? あなた、さっきから何言ってるの!? いいから降ろして!」
さすがの花音もパニック状態みたい。え~これ助けた方がよくない? なんか可哀そうに思えてきたよ?
考えていたら、先輩は花音を担いでさっさとホールの方に向かってしまった。いっちゃんの方を見ると歓喜に震えてるし。
「な……生スチル……感動……最高……」
大丈夫、いっちゃん? 単語しか出てきてないよ? いつもの喋り方忘れてるよ?
その後、舞の方から連絡がきて、感動に打ち震えているいっちゃんを連れてホールに向かった。
□ □ □
「いや、マジあの人かっこよかった! なんなのあのイケメン!?」
「なんなの、あの人……ホント、最低……」
ホールに着くともう先輩はいなくなってた。舞は先輩に会ったみたいだけど。花音はというと俯いて怒りに震えているっぽかった。舞と花音の状態が完全に真逆だ。
「ねぇ、葉月っち? 一花どうしたの? 朝と全然違うんだけど」
いっちゃんはまだ感動に打ち震えていてプルプルしている。いっちゃん? いい加減こっちの世界に戻ってきて?
「ほっといていいよ~。たまにこうなるだけだから」
「ふーん。いや~でも、ホント葉月っちたちにも会わせたかったな~! あんなイケメン私初めて見たよ! あの人、先輩かな? もしかしたら葉月っちたちは知ってる人かな?」
「かもね~」
「名前知りた~い! あの去り際もかっこよかった! 名前聞いたら「明日から嫌ってほど聞かせてやるよ」って言ってくんだもん~! やばかった~! あの不適な笑顔!」
舞、それ、かっこいいの? 全然魅力を感じないんだけど。それよりさっきから小さい声でボソボソ言ってる花音が怖いんだけど……。
「花音~?」
「……人の話聞かない……何あれ……誰がファンよ、誰が……」
こっちはこっちでどこか違う世界に入ってるっぽい。先輩。あなた攻略対象者なのに第一印象最悪じゃん。いっちゃんが感動してるから、ゲーム通りだとは思うけどさ。よく知らんけど。
私は花音の頭に手を置いて、優しく撫でる。そしたら、やっとこっちを向いてくれた。
「葉月……」
「花音。よしよ~し。よくわからないけど、嫌な思いしたんだよね? 怖かったね~」
「……ん」
「もう大丈夫だよ~。だから笑って~? 可愛い顔が台無しだよ~?」
「かわ……もう葉月……からかわないでよ……」
はい、顔赤くなりました。可愛いです。でもさっきの怖い顔より全然いいよ。
「でもありがとう、葉月。ごめんね、あの勝手な人に連れてこられちゃって、葉月たちには遠回りさせちゃったね」
「大丈夫だよ~」
花音がやっと笑ってくれた。うんうん、やっぱりこの笑った顔がいいですね。先輩を勝手な人呼ばわりしてるけど、先輩ファンには聞かせられないや。でもこのまま違う話題に持って行こう。また怖い顔させちゃうからね。
「花音、今日のご飯な~に?」
「え? 考えてなかった……帰りにスーパー寄ってく? 昨日の分しか食材買ってないもんね。葉月は今日何食べたい?」
「え~ちょっとちょっと? それ、何の話? あたしにも聞かせてよ~! さっきから一花が全然反応しないからつまんないんだよね~」
舞が静かだと思っていたら、いっちゃんに構ってたらしい。お~い、いっちゃん戻ってこ~い。
何度話しかけてもまだプルプルしてるいっちゃん。プルプルモードと名付けよう。これはもうだめだ。
「舞、放っておこ。そのうち戻ってくるよ」
「え? これはどこかに行ってるの?!」
「多分? それより舞は何食べたい?」
「え? 待って葉月? 舞にも?」
「花音のご飯はおいしいよ、舞」
「え~何々?! 花音の手料理!? 食べた~い! 花音、料理できるんだ!?」
「え、えー……まあ、1人増えても2人増えても同じかぁ……」
「じゃあ、このまま皆で食材買って帰ろ~。花音の料理は最高だよ~舞~」
「うっわ~楽しみ~!」
「ちょちょっと、2人とも……あんまりハードルあげないでぇ……」
放心状態のいっちゃんを引っ張って、渋る花音を引き連れて、私たちはスーパーに向かいましたとさ。
ちなみにハンバーグ作ってくれた。めちゃくちゃ美味しかったよ。
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