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16話 失礼な人 —花音Side※

すいません、次の葉月視点と重なりますが先にこちらを投稿します。一応※印つけておきます。

 


「え、待ってるけど?」

「ううん、先エントランスホール行ってて。葉月と東雲さんともそこで待ち合わせたでしょ?」


 入学式が終わって、さあ後は帰るだけ……なんだけど、担任の先生に確認事項があるからって言われた。


 それにしても、入学式は緊張した。あんな大勢の前で話すとか、緊張しない方がおかしいよ。でも壇上で葉月を見つけたら、かなりホッと安心してしまった。あの無邪気な笑顔、安心する。それで噛まずにちゃんと最後まで原稿読めたよ。良かった。


 クラスでは席がクジ引きだった。意外すぎる。名前順じゃないんだね。おかげで舞と席が前後になったから良かった。舞も葉月や東雲さんと同じように、庶民の私でも普通に接してくれるから嬉しい。


 実は少し絡まれたんだよね。クラスの男子に「庶民のくせに星ノ天に通うなんて」って言われて、舞がキレて黙らせちゃった。もう感謝しかない。


 ただ舞の「花音は葉月っちのルームメイトだよ」っていう脅しはどうかと思ったけど。それで怯んじゃった男子もどうなんだろう? 葉月、本当に中等部で何をやったの? あの怯え方半端なかったよ?


 それが聞こえた周りの生徒も怯えていたから、当分クラスで絡まれるとか無さそうだけどね。葉月の名前でこれだけ効果が出るとは思わなかった……まさかクラスが違くてこれだけ助けられるとは、葉月にも感謝しかないよ。


 そんなトラブルも少しあったけど入学式も無事に終わったし、葉月がお菓子とか好きそうだったから、帰ってクッキーとか焼いてみようかなと思っていたら、先生に呼び止められてしまった。舞には先にエントランスホールに行ってもらって、すぐ追いかけようと思った……んだけど……。



「……どこだろう……ここ……」



 先生の特待生の確認事項聞かされて、ホールに向かおうとしたら迷ってしまった。朝のホールから教室に向かう時は人の波に乗っかっていった感じだったから、よく道を見てなかった。この学園、広すぎる。


 多分、こっち? と進んでも進んでいる気がしない。じゃあ、こっち? と思ってもホールのホの字も見当たらない。所々案内板みたいな標識あるから、それを頼りに進んでも一向にエントランスホールの文字は現れない。


 こ、この年になって迷子になるなんて……もう詩音を怒れない……。


 どうしようと思ったところで、思い出したのはやっぱり葉月の顔。昨日寝る前に番号交換したんだった。あ、でも呆れるかな……迷子だから迎えにきてほしいなんて……でも……。


 シンと静まり返る廊下。誰もいない。少し不気味にも感じてきた。


 ごめん、葉月、頼ってばかりで……って思いながら葉月に電話してみる。


 コール音が鳴る。

 出ない。

 コール音を鳴らし続ける。

 出ない。


 き……気づかない、とか? ど、どうしよう……。

 切ることも出来なくて、鳴らし続けた。で、出ないかな。やっぱり自分で……。


『もっしも~し?』


 不安でいっぱいになった時に葉月の声が電話口で聞こえた。一気に安心感がやってくる。


「ご、ごめんね、いきなり電話して」

『大丈夫だよ~? どうしたの~?』

「それが……恥ずかしいんだけど……今どこにいるか自分でも分からなくて……葉月たちはもうエントランスホールにいるの?」

『ん~ん。今向かってるとこ~。舞は~?』

「私が担任の先生と話があったから、先に行ってもらったの……どうしよう……」


 こんなことなら、舞とも交換しておけばよかった。全然頭になかった。


『花音、そこから中庭来れる~? 私たちもホール行くより中庭の方が、近いんだよね~』


 え、中庭? 少し辺りを見渡してみると、中庭と書かれているプレートを見つけた。こっち……? そこに迎えに来てくれるって葉月が言ってくれたから向かうことにする。一旦電話を切って、足を動かした。


 中庭、中庭……そこまでに着くまでに迷わないように、プレートを確認しながら進んでいく。

 そこにいけば葉月が迎えに来てくれる。そう思うと不思議と安心できた。


 少し進むと窓ガラスから中庭らしきものが見えた。あそこかな? 進んだ先に、中庭に出る渡り廊下が見える。違う校舎と繋がっているみたい。外の空気がフワッと顔に当たった。


 ここ……だよね? 辺りをキョロキョロしてみる。まだ葉月は来ていないみたい。でもここに迎えに来てくれる……はず。あれ、誰か向こうから来る?



「あ? 何やってるんだ、お前?」



 向こう側から歩いてきた男の人に声を掛けられてしまった。


 背は高め。少し目つきがキツめの男性。だけど星ノ天の制服を着ている。大分着崩しているけど。ネクタイゆるゆる、シャツもダランと出ている。……ここの生徒の人?


 近付いてきて目を窄め、ジロジロと見られた。そんなジロジロと見られても困るんだけどな。


「えっ? あ、その……」

「あ~もしかしてあれか? 俺を探していたのか?」

「……はい?」


 なんでそうなったの? というか、あなたは誰? 初対面ですよね?

 訳が分からないことを言われて戸惑っていたら、また理解不能のことを言われた。


「悪いな。今日は完全オフだ。また違う日にしてくれ」

「……は?」


 ポカンと口が開いてしまった。意味が分からない。何をこの人は断っているの? 何か勘違いしているのかな?


「あの……私はただ友達とここで待ち合わせてしてるだけで……」

「あ? お前、俺のファンだろ?」

「……はい? 違いますけど……?」


 また訳の分からないことを言われた。ファン? あなたの? 何で? 知らない人のファンになるなんて芸当、私は出来ないんだけど。でも目の前の人は目をパチパチとさせている。これは……驚いてるの? 本当、何で?


「……お前、俺の顔知らねえの? ここの生徒なのに?」

「知りませんけど?」


 葉月みたいに有名な人ってことかな? でも私だって今日葉月が有名だって知ったばかりだし、あなたのことは初めて見たし、知らないモノは知らないし。正直に答えただけなのに、どうしてそんなジロジロと見てくるの? 一体、何?


「な、何なんですか……?」

「……そういや、今日入学式だったな。お前、新入生か?」

「そうですけど……」

「なるほど、だから俺を知らないってか」


 目の前の人は何故か納得した様子。それにしても、新入生だから知らない? あなたは新入生じゃないの? 今日、上級生は休みのはずだけど……というか、この人何なの? さっきからお前お前って……。


「だとしても、何でお前はここにいる?」

「だ、だから……友達とここで待ち合わせしていて……というかさっきからお前お前って、何なんですか? 失礼だと思うんですけど……」


 つい言い返してしまった。だって失礼だと思う。それにさっき言ったこと聞いてなかったの? でも彼はまたパチパチと目を瞬かせていた。


「何だ? 名前でやっぱり呼ばれたいのか? やっぱり俺のファンじゃねえか」

「……すいませんが、何でそうなるのか分かりません……」


 知らないって言ってるのに、どうしてそうなるの? しかも誰も名前で呼んでほしいなんて言ってないのに……葉月、早く来ないかな。さすがにイライラしてくる。だけど、彼はお構いなしに話しかけてきた。


「まぁ、いい。それで? その友達とやらはどこにいる? なんでこんなとこで待ち合わせてるんだ?」

「そ、それは……その……」


 い、言いたくない。迷ってるとは言いたくない。でも彼は「はっきり喋れ」と催促してきた。し、仕方ない。なんで初対面の人に言わなきゃいけないのか分からないけど……。


「っ……エントランスホールへの行き方が……分からなくて……友達が中庭の方が近くにいるから……それで……」

「なんだ。お前迷子か」


 バッサリ言われて、さすがに恥ずかしくなった。そうだけどっ! 確かにそうだけど! そんなすっごい呆れた目で見ないでくれませんか! 仕方ないじゃない、この学園広すぎるんだもの! 初見で迷わないで済む方法があるなら教えてほしいくらいです! 「そうならそうと早く言え」じゃなくて!?


 恥ずかしくて少し頬が熱くなっているのがわかったけど、彼はいきなり踵を返して、顔だけこっちに向けてきた。な、何……?


「ついてこい」

「……は?」

「エントランスホールだろ? こっちからの方が早い」

「い……いや、あの。だから、友達が迎えにきて……」


 え、え? もしかして案内してくれるってこと? で、でも葉月が迎えに来てくれるから必要ないんだけど……戸惑っていたら「めんどくせえな」って頭を掻きながら呟いて、その人はまた近付いてきた。


 何? って思ったのも束の間。あっという間に体を持ち上げられて、その人の肩に担がれてしまう。思わず悲鳴をあげてしまった。なななな……!?


「ちょっ……!? 何するんですか!? 降ろしてください!」

「俺が案内してやるっていうんだ。光栄に思え」

「はい!? 何が光栄!? ちょっとっ!? どこ触ってるんですか!? 降ろして!」

「ガタガタぬかすな。迷子のくせに。その友達にも自慢できる」

「なっ!? あなた、さっきから何言ってるの!? いいから降ろして!」


 意味が分からない!! 本当、何なのこの人は!? 思わず叫んで抗議しても全く降ろしてくれない!! それに本当、どこ触っているの!? そこお尻! これセクハラ!


 でも、彼は私を担いでどんどん進んでいく。中庭が遠ざかっていく。


「降ろしてってば!」

「あーうるせえ。黙ってろ」


 黙ってろじゃないんだけど! グッと彼の肩に手を置いて離れようとしても全然ビクともしなかった。何で全然人の話を聞かないのよ! 何が自慢!?


 エントランスホールに着くまで何度も抗議したけど、彼は「何をそんなに怒っているか分からん」とか「全員が俺にこうことされたがるんだが」って意味分からない事ばかり言ってきた。怒るに決まっているでしょう!? 知らない人にいきなり担がれて、しかも体触られて! やめてって言っても聞かないんだから!



「え、花音!?」



 ホールについて、待っていた舞が私に気づいて近づいてきた。「ああ、あれが友達か」って呑気なことを口にしている。イライラが募ってしまう。けど彼はやっと私を降ろしてくれた。


 「え、え? 何、これ? どういうこと?」って隣に来た舞が困惑しているのがわかったけど、もう気にしていられなかった。


「なんだ、その眼は?」

「……普通です」

「お礼の一つも言えないのか?」

「……感謝の一つもしていませんから」


 なんでお礼言わなきゃいけないのよ。散々降ろしてって言っても何も聞かなかったのに。もう冷めた目で、こっちを訳わからなそうにしている彼を見ることしか出来なかった。私とは逆に、隣の舞は少し興奮気味。


「あの、あの! 名前、聞いてもいいですか!?」


 舞、名前なんか聞いてどうするの? 聞く価値もないんだけど。どうして少し頬が赤いの?


 舞に名前を聞かれた彼はフッて口角を上げていた。


「明日から嫌ってほど聞かせてやるよ」


 ……やっぱり意味分かんない。というより、もうこの人と関わりたくないんだけど。舞は嬉しそうにしてるけど、ごめん、分かんない。最後に舞の頭にポンっと手を置いてから、彼は来た道を戻って消えていった。


「やっば! やばやば! 何アレ!? 超イケメンじゃん! 花音の知り合い!?」

「……全く知らない」

「あ、あれ? 何か怒ってる? ていうか、なんでこっちから担がれて来てんの? 教室、違う方向なんだけど?」

「知らない……」


 もう、さっきまでの彼の言動、行動。全てがイライラとさせてくる。怒ってるのが伝わったのか舞が「え、あ、そういや2人まだ来てないんだよね。連絡してみよっか」って東雲さんに連絡してくれる。……どうしてくれよう、この怒り。



 少しして葉月と東雲さんがホールに来た。また興奮気味に舞がさっきの彼のことを話している。でも私は怒りを沸々と滾らせていた。ホント……ホント最悪……話を聞かない。横暴。意味不明な発言。


 イラ~っとしている時に、急に頭にフワっとあったかい手が乗ってくる。顔を上げると、困ったように葉月が笑っていた。


「葉月……」

「花音。よしよ~し。よくわからないけど、嫌な思いしたんだよね? 怖かったね~」


 怖くはなかったけど……ものすごく嫌だった。でも不思議とニコニコと笑っている葉月を見てると、さっきまでのイライラが薄れていく。


「もう大丈夫だよ~。だから笑って~? 可愛い顔が台無しだよ~?」

「かわ……もう葉月……からかわないでよ」


 ああ、もう。またからかう。ふふって笑って葉月は頭を優しく撫でてくれた。すごい気を遣わせてる。こんなんじゃダメだな。だから私も笑顔になって口を開いた。


「でもありがとう、葉月。ごめんね、あの勝手な人に連れてこられちゃって、葉月たちには遠回りさせちゃったね」

「大丈夫だよ~」


 不思議だな。葉月の大丈夫を聞くと安心する。さっきまであんなにイライラしてたのに。


 うん。あの人にはもう会わなければ問題ないし、もう忘れよう。


 葉月が今日のご飯のことを聞いてきて、皆で食べることになった。あ、あれ? そういえば東雲さん静かだな。どうしたんだろう? 目が合ったら、何故かキラキラした表情で見つめられたけど、え、葉月? 放っておけ? い、いいのかな。葉月がそう言うからいいか。



 ちなみにハンバーグを作ったら、舞まで美味しいって言ってくれた。少し自信がついたかも。


お読み下さりありがとうございます。

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