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164話 お弁当イベント

 


「お弁当イベント?」

「そうだ。2人でお弁当を食べるんだ」


 いつもの中庭。お昼休み。

 いっちゃんと2人、花音のお弁当を食べています。



 退院して数日。学園にはすぐ復帰した。

 帰ってきた私に対して、クラスメイトのあの白い目といったらなかった。でも皆が一斉に「「「平和だったのに」」」ってハモった時は面白かったよ。皆、シンクロ率高いね。期待に応えねばと、教室中の机と椅子を全部ひっくり返してあげたら、皆が皆、遠い目をして乾いた笑いを口にしてたよ。いっちゃんに蹴り喰らったけども。


 花音はあれから一緒には寝ていない。


 一緒に寝た次の日の朝、やっぱり顔真っ赤にして「無理……限界……」って蹲ってしまったんだけどね。何が無理で限界なのか分かりませんでした。でも、花音が一緒に寝ようって言ったんだけどね? はて?


 まぁ、ハグと甘えるのは未だ健在ですけどね。食後に甘えてくるようになったよ。可愛いんだけどね。


 でも、ふと思ったんだよ。これ本来会長にやってあげた方が良くないかな? まぁ、会長と一緒に暮らしてるわけじゃないからね、出来る訳じゃないけども。


 それで思ったんだよね。これは、あれかな。私の『発散』とも似てるのかなっって。


 会長に甘えられない分、私で代わりをしてるんじゃなかろうかと。私を心配してる気持ちもあるだろうけども。私も小さい欲で代わりに満たしているからさ。


 だから、好きにさせておこうと結局放っておいてますね。花音の好きにすればいいよ。それで満足するなら、いっか。


 そして、いっちゃんの新しいイベントの知らせがきましたよ。


 でもさ、いっちゃん。今更お弁当なの? それに会長はもう花音のお弁当食べてるよ?


「訳が分からなそうなお前に教えてやろう」

「お願いします」

「花音のお弁当は確かにもう会長は食べている」

「そうだよね」

「だが、それは生徒会メンバー全員だ」

「ほうほう」

「つまり、今まで2人きりでは食べていないんだよ!」

「あっそう」

「お願いしますと言ったのは誰だ!? もう少し反応しろよ!!」


 いや、それだけかって思ったんだもん。


 ブロッコリーを口に放り込んでモグモグすると、いっちゃんが悔しそうにこっちを見てきた。あんまり私が反応しなかったからだね! それ、可愛いよ、いっちゃん!


 って、あれ? いきなりスッと立ち上がったよ。


「という訳だ、葉月」

「何がという訳なのか、分かりません」

「行くぞ、ついてこい」


 え……? えっ? ええっ!? まだお弁当食べてるんだけど。


「いいから、いくぞ」

「いや……いやいや、いっちゃん。まだこれ食べてない……?」

「今からイベントなんだよ」

「ええ~……いいよ、いっちゃん。私はこれ食べてるよ~」

「だから、お前を連れて行くんだが?」


 はて? なんでそんなニンマリしてるの?



「そうすれば、お前、弁当食べれなくなるだろ?」



 ……意地汚い! 意地汚いよ、いっちゃん! 反応薄かったからって、そういう報復してくるなんて! やだよ! これ食べるんだもん! まだ卵焼き食べてないんだもん!!


 私が一瞬ガーンとした顔をしたら、いっちゃんが満足そうに頷いていたよ。逃げ出そうとした私の襟首をいっちゃんに掴まれて、ズルズル引き摺られてしまいましたとさ。


 でも、引き摺られた状態で食べてやったけどね。

 それを見た周りの生徒が、奇異な目で見てきたことは言うまでもない。



 所変わって生徒会室のドアの前にいます。


 やっぱり、ご都合主義なのか、ちゃんとドアが少し開いてたよ。中には花音と会長がいますね。いっちゃん、さすが時間ぴったりだね。今からまさにお弁当食べるところじゃん。


 私も移動中上手く食べれなかったから、静かにモグモグさせてますけども。呆れた目で見てきたけど、いっちゃんが無理やり連れてきたんだからね! 本当はもっとゆっくり味わって食べたいんだよ!


「相変わらず旨そうだな……」

「会長も食べますか?」

「……いいのか?」

「いいですよ。クラスの子たちにあげる用で、いつも多めに入れてきてますから」


 あいかわらず花音のクラスメイトは、花音のご飯に首ったけみたいですね。私もだけども。


 会長と花音は隣り合わせで座っていた。直前まで書類仕事を2人でしてたみたい。会長は食堂で買ってたパンを机に置いてたよ。


 あ、あれ、限定のお好み焼きパンだ。生徒のほとんどに不評らしいけども。庶民的な味だからだって。会長食べないなら、私それ食べてみたいよ。


 そっちに意識を持っていかれつつ、視界の端に2人を入れたら、花音が箸を持って、卵焼きを掴んで会長に向けていた。さすがに会長が「は?」って顔してるよ。


 うん、花音。それが通じるのは私と舞だけだと思うよ? あれ? でも、前に遊園地行った時に、会長にもやってたような。


「はい、どうぞ?」

「いや……桜沢。自分で食べれるんだが?」

「えっ? あ……そ、そうですよね。すいません。つい癖で……」


 そうですね~。最近は入院中の私に常に食べさせてくれてたもんな~。習慣って恐ろしいわ~。あと、ハグもですね~。慣れって怖いわ~。


 自分の卵焼きを口の中でモグモグさせながら、うんうんと頷いてしまったよ。


 でも会長は少し目を泳がせてから、花音の手を掴んでその卵焼きを口に入れていた。その光景を見て、ジーンと胸の中にくるものがあった。


 ……会長! 頑張ったね! 頬が赤いけども! 花音もいきなりのことでポカンとしてたけども! 食べてからはすぐ手を離しちゃったけども! なんか頑張った感があるよ!


「えっと……会長?」


 目を背けてモグモグして飲み込んでるね~。そして、おいしかったんだね! 顔が輝いてるよ!


「……旨い」

「それなら……良かったです……」


 さあ、次だよ会長! もう1回頑張るんだ! 見ていて、ちょっと面白いよ! 初めてイベント面白く見てるよ! 会長のその恥ずかしい気持ちが全面に伝わってくるよ!


 って、あれ……? 花音? もう1回食べさせてあげて? お皿に盛らないで?


 花音が苦笑して、お皿を会長に渡しちゃった。


「すいません、会長。不慣れな事させてしまって。こちらをどうぞ?」

「……悪いな」


 花音からお皿を受け取って、箸を受け取っている会長。


 くっ……もう少し会長の恥ずかしがりタイムを見たかったのに……花音のしっかりさんめ! なんで予備の箸も持ってるのさ~! もうちょっと楽しめたのに~!


 私はウインナーを口に入れて、モグモグしながら様子を見る。あ、これ蟹さんウインナーだ。 


 2人が食べてる時に、会長がポツリと喋り始めた。


「……婚約、無しになった」

「え?」

「ニュース見たか? 政治家の不正の」

「ああ……確か、今騒がれている……」

「あの時に母が連れていたのが、その政治家の娘だったらしい」

「そうですか」


 ええ、そのせいで私は恥を忍んで花音にクッキーを作ってもらいましたからね! 自分が食べる用じゃなくて、あの人用にね! しかも電話までしちゃったからね! 感謝しなよ、会長!


「……お前のおかげかもな」

「え?」

「あれ以来、母は大人しくなった……まぁ、なぜかメイドを見ると怯える姿も見るようにはなったが」


 え? メイド? それは何か不穏な言葉ですね……あ、考えるの止した方がいいのだ、これ。勘がそう伝えている。


「でもおかげで気付けたな……」

「……何をです?」

「俺はあの人の操り人形だったってことだ」


 操り人形? はて?


「ずっと、俺はあの人の言う事を聞いてきた。あの人の望むままに振る舞っていた。子供の頃からずっとな」


 異議あり! 中等部の時は違うと思います! あれはただの我儘だと思います!


「なのに、お前、あの時に母を全否定しただろ。あそこまで、あの母に歯向かう人間がいるなんて思わなかった」

「あ、あれは……すいません。さすがに言い過ぎたと思っています」

「いや、いい。お前が正しかったんだ。それにちょっとスッキリした。お前が言ったことは、俺がずっと思ってたことだったからな」

「そうですか……」


 花音……言い返したとは言ってたけど、実際何を言ったんだろうね? 気になってくるじゃないか。


 なんて疑問に思っていたら、会長が花音の頭に手を置いて、まっすぐ花音を見ていた。


 あ……モヤッとする。



「礼を言う……桜沢……」



 またポカンとしている花音に、会長が微笑んでいた。

 だけど、花音もすぐ微笑んで会長を見ている。


「会長が素直にお礼言うなんて思いませんでしたよ……」

「ふん、俺だって言う時はちゃんと言う。だけど、お前はあれだな。怒るときは人が変わりすぎるな。別人かと思ったぞ」

「そ、そんなに怖かったですかね?」

「ああ、笑えるくらいにな」

「……会長のために怒ったんですけど?」


 そう言って2人は笑い合っている。


 楽しそう。


 でも、これが見たかったんだよ。



 これでいいんだよ……。



 私はプルプルモードのいっちゃんを連れて、静かにその場を離れた。


 胸をモヤモヤさせながら。




「今日のはゲーム通りの展開だったな」


 教室に帰る途中、プルプルモードから復活したいっちゃんがそんなことを言いだした。

 でもそれは、毎回そうなんじゃないの?


「どういうこと、いっちゃん?」

「お前には言ってなかったがな……そもそもゲームでは、会長に婚約者なんて現れなかったんだよ」


 え、そうなんだ?


「やっぱり現実だからか、多少は違うんだろうなとは思ったんだが……今日のはレクリエーション前までのようにゲーム通りだった」

「それが何かだめなの?」

「いや……まさかなと思っただけだ」


 まさかって? そう聞くと、いっちゃんが1人で納得したのか、首を静かに振っていた。


「……いい。それにその婚約者は誰かさんに潰されてしまったからな」

「それは怖いね~。何か化け物でも相手にしちゃったんじゃないかな~」

「ああ、そうだな。はぁ……鴻城(こうじょう)の人間は相手にするもんじゃないな……」


 それはどういう意味かな? それに、いっちゃんはもうかなり鴻城の人間なんだけど。どこの世界に怖い黒服の大人たちを従わせる女子高生がいると思ってるのかな。ほぼ全権限あの人からもらってるでしょ~、いっちゃんは~。


 それにしても、

 会長が言ってたメイドって違うよね?


 いや、やっぱり止めよう。なんか考えたら出てきそうな気がするもんね。

お読み下さり、ありがとうございます。

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