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160話 束の間のひと時

 


「お前、何やった?」

「何もやってないよ、いっちゃん」

「それはもう、嬉しそうに電話が掛かってきたんだが」

「そうは言っても、私は何もやってないよ、いっちゃん」


 そんなジト目で見られてもね。

 私はただ、何とか出来ないかなぁって言っただけだよ? いっちゃんも聞いてるんでしょ?


 でも、災難だったね。結局不正が暴かれた大臣さんは逮捕されたらしいよ?

 大臣さんに婚約破棄をお願いしたら、逆に不相応な要求してきたらしくてね、おじいちゃんキレちゃったんだって。何故かメイド長が電話を寄越して報告してくれたよ。


 そんなことしなきゃ、まだ大臣でいられたのにね。そして、その大臣さんの娘が会長の婚約者だったんだって。おバカな父親もって不憫だね。


 その元大臣一家は今かなりテレビで取り上げられてるよ。仕事は出来る大臣さんだったらしくて、これがなければ次の総理大臣はこの人が最有力だったとか。

 でも、その不正で得たお金でキャバクラ通いしてたとか、その奥さんも不倫してたとか発覚して支持が爆下がり。いやいや、そんなおバカな親持って、本当不憫だと思うよ。娘さん可哀そうにね。


「もうレイラ! 元気出しなって! ほら、このりんごでも食べなよ!」

「う……グス……ですが……」


 レイラは今、病室のソファで大号泣してる。そんなレイラを舞が慰めてるんだけども。その大臣さんの娘がレイラの取り巻きの1人だったって言ってたもんね。


 娘さんは学園を退学することになったらしいよ。いやいや、私もそこまでになるとは思わなかったよ。ただ、会長の婚約無くなれば良かっただけなんだけどもさ。まあ、あわよくば違う学校に行ってくれればなぁと。


 う~ん。鴻城(こうじょう)の力恐るべしだね。知ってたけど。ねえ、いっちゃん。その目やめて? 本当に私は今回何もしてないんだからね。


「あのね、いっちゃん」

「なんだ?」

「世の中にはね、敵に回しちゃいけない人がいるんだよ」

「よ~~~~く知ってるが」

「私じゃないよ?」

「それはそうだが、お前はその人を簡単に動かせる力を持ってるんだよ……」

「それは、私のせいじゃないよね? そもそも、あの人怒らせるほうが悪いと思うよ?」


 本当に、どんな要求してきたんだろうね。おじいちゃんが怒るって余程だと思うよ?


 いっちゃんがものすご~~~く深い溜め息をついてると、花音が不思議そうに首を傾げていたよ。


「ねぇ、2人とも? さっきから何の話をしているの?」

「花音……世の中にはな……それはもう手のつけられない化け物がいるもんなんだよ……」

「えっと、一花ちゃん、よく分からないかな」

「知らなくていいんだ……どうして、あの人は手加減っていうものをしてくれないんだ? もしこいつが世界滅ぼしたいって言ったら、どうするつもりだ……」

「それは私も思ったよ、いっちゃん」

「思うな! あと、これからはちゃんとあたしに相談してからにしろ!?」

「そうだね、いっちゃん。今度からはやっぱり自分でやることにするよ! あの人よりは被害が少ないと思うからね!」

「いや、違う! まずあたしに相談しろ!? 被害少なくないからな!?」


 え、確実に私1人でやる方が被害少ないと思うよ? 私だったら、その大臣さんだけメッタメタに叩き潰すだけなんだけどな。奥さんと娘さんには被害は起きないよ、多分。


 そんな私といっちゃんのやり取りを見ていた花音も、詳しい事を聞くのを諦めたのか、うさぎさんに切ったリンゴを出してくれた。


「はい、葉月。あーんして」

「あ~ん」


 パク、シャリシャリ。ん~んまし~。このリンゴ好き~。


「だめだ。レイラ全然泣き止まないよ」


 舞が慰めるの断念してベッドの方に戻ってきた。レイラを見ると、確かにまだ号泣している。そんなに仲がよかったのかなぁ。


 舞も花音にリンゴ食べさせてもらってた。「これ、本当うまいよね~」って言って、口をモゴモゴさせてたよ。分かる。これおいしいよね。花音、どこで買ってきたんだろ。


 ん、いっちゃん? どうしてそんな危ない目でレイラを見てるの?


「おい、レイラ。泣くなら帰れ。鬱陶しい」

「ふぐっ……な……なんですって……?」

「あたしはな、今すごく考え事してるんだ。それを近くでグスグスグスグス。鬱陶しい事この上ない」

「ちょっと一花。さすがに言い過ぎじゃない? 仲いい友達がこんなことになっちゃってさ。あたしはレイラの気持ち分かるけど」

「泣いて事態が変わるのか? 何も変わらん。それだったら、次のこと考えなきゃいけないだろ」


 あ、これはいっちゃんの励ましだね。珍しいね、いっちゃんがレイラを気遣うなんて。


 レイラもいっちゃんの言ったことをちゃんと聞いたのか、すぐ泣き止んだよ。そして、何故か私のことをジッと見てきたし。なんで?


「それもそうですわね……一花の言う通りかもしれませんわ」

「ふん。泣く暇あったら、そのお友達に何か出来ないか考えてやるんだな。あたしはそう……このバカの身内関係のことまで今後考えなきゃいけないんだ……そうだ、今回はあの人だけだからな。もし沙羅さんとかまで入ってきたら……」


 いっちゃんが目を瞑って、ボソボソ呟いてるけど、それいらない心配だと思うよ? 何で自分から苦労背負いこんでるのかな。


「ねぇ、葉月っち? 一花は何をこんなに考え込んでるの?」

「さあ? いっちゃんは苦労が好きみたい」

「誰が好き好んで苦労するか!? あと誰のせいだと思ってる!?」


 いっちゃんの拳が飛んできた。あの、いっちゃん。私一応怪我人ですけども。あ、レイラがきた。なんかスッキリした顔してるよ。


「花音。わたくしにもリンゴくださいな」

「あ、うん。はい、どうぞ」

「ふん。モグモグ。なかなかの味ですわね」


 なんでそこで偉そうになるのかさっぱり分かりませんよ。でも、舞も花音も生暖かい目でレイラ見てるから、いいか。レイラも復活したことだしね。


 あれ? なんか忘れてるような……なんだっけ?

 舞がリンゴをシャリシャリしながら、何故かじっとリンゴを見てるけど、どしたの?


「あのさ、花音」

「うん? 何、舞?」

「これでクッキーとか作ったらおいしくない!? 作って!」

「あ、そうだね。確かにおいしいかも。でもアップルパイもいいかもしれないし」


 あ。

 そうだ、クッキー。

 忘れてた。


 あ~でも……いや、まぁ……約束しちゃったしね。


「花音~……」

「ん?」

「クッキー……作ってきて~? あの甘いの」

「うん、いいけど。じゃあ、明日持ってくるね」

「あ~いや、持ってこなくていいよ~。明日じゃなくていいし~。ただ……作ったら、いっちゃんに渡して~?」

「一花ちゃんに? 葉月が食べるなら明日持ってくるよ? どのみち一緒にくるし」


 あ~いや……私が食べるものじゃないしね~……いっちゃん、そんな生暖かい目で見ないでよ。


「いや、その……私が食べるわけじゃなくてね」

「うん? 葉月が食べないの?」

「えっと……そう……」


 なんで全員が不思議そうに見てくるかな……ただ、あの人に送るだけなんだけどな……いっちゃんに渡してもらって、送ってもらえばいいだけなんだけども。


「誰かにあげるの、葉月っち?」

「え~うん……そう」

「何を言い淀んでいますの? 変ですわね?」

「おい、葉月」


 うん? なんだい、いっちゃん? なんでそんな勝ち誇った顔をしてるの?


「ちゃんと頼めよ。じゃないと送ってやらないぞ? 誰にそのクッキーを届ければいいんだ?」


 ひ、卑怯! それ卑怯! 楽しんでるね、その顔は! あれかな、日頃の仕返しかな!? 皆が首を傾げてるじゃん!


「いっちゃんなら分かるもん」

「いや、分からんなぁ。誰に送ればいいんだろうなぁ?」


 うぐぅ……ニヤニヤしてる……ムギュってしたい。


「あの、葉月?」

「葉月っち?」

「どうしたんですの、一体?」


 う、う~! 何これ、ちゃんと言わないと駄目な流れになってる! いっちゃん~~!! 意地悪すぎる!!


 でもこれ……言わないと駄目な感じ……し、仕方ない。



「…………おじいちゃんが食べたいって」



 声小さくしてボソッと言ったら、花音たちも予想外だったのかポカンとしてる。


 え~そうですよね。私があんな態度取ってるの見てますもんね! 険悪なの知ってますもんね!


 でも交換条件なんだもん! しかもしっかり、あの人はパパっと私がお願いしたことやっちゃったんだもん!


 気不味くて全員から目を逸らしてたら、花音がいつものように頭を撫でてきたよ。


「そっか。じゃあ、おいしいの作らなきゃね。甘いのでいいの?」

「……うん」

「ふふ。それ以外にも色んな味のクッキーも作ろうか。一花ちゃん、届けてくれる?」

「ああ、もちろんだ」

「まったく葉月っちの照れ屋さんめ~」

「そうですわよ、そんな恥ずかしがることじゃありませんわ」


 むー。やめてー。そんな生暖かい目で見ないでよー。「あっはっは! 葉月っちのこんな赤い顔初めて見たよ!」って言ってきた舞を、とりあえずベッドから落としたら、いっちゃんに殴られた。また傷開いたらどうするだって。もう結構何回も開いてるからね。だから退院できないんだけども。



 花音は次の日には作って、いっちゃんに預けたらしい。


 何故かまたメイド長から電話があって、ものすごく喜んでいたとか。それならよかったね。


 レシピが欲しいって言われたから花音に言ったら、すぐに紙に書いていっちゃんに渡してくれた。なんだかとても嬉しそうだった。



 おじいちゃんの口に合ったのが、何でそんなに嬉しかったのかは分からないけども、その時の花音の笑顔は最高に可愛かったです、はい。

お読み下さり、ありがとうございます。

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