表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/366

153話 会長がやってきた

 

「あー……入っていいか?」


 現れたのは会長でした。


 でもなんで? 珍しいね。「いいよ~」って返事すると、中に入ってくる。顔の怪我とかもう治ってるみたい。ちょっと目元の部分がまだ紫っぽいけど。

 窓際にいる私を一瞥して、勝手にソファに座っていた。


 え~、なんで勝手に座ってるの~? まぁいいけどさ。なんか真剣な顔つきだし。


 私も花音にお茶を頼んで向かいのソファに座ると、会長がこっちを見てくる。……なんでしょう?


「………………」


 無言。何か用があったんじゃないの?


「ん~? 何か用があるんじゃないの、会長?」

「…………」


 気まずそうに視線を逸らしてるよ。え~本当になんなのかな?


「会長、どうぞ。紅茶で良かったですよね?」

「……ああ」


 なんで花音だと反応するのさ!?

 あ、惚れてるからですね。すいませんでした。いや、でもじゃあ、何でここにきたの?


「はい、葉月」

「はちみつ入れた~?」

「入れたよ」


 花音も私の隣に腰掛ける。会長がチラッと花音に視線を送って、すぐ逸らしたよ。あ~……自分の隣が良かったのかな? 違うかな?


 紅茶を一口飲んでから会長を見ると、会長もまた飲んでいた。


 えっと……会長? 話があるの、ないの、どっちなの? ふうと息を吐いて会長を見た。


「それで~? 用があるの~、ないの~?」

「……」


 だから何で黙るのさ。さっぱり分かりません!

 そしたら隣で花音がクスっと笑った。んん?


「会長、お礼を言いにきたんじゃないんですか?」


 え、なんで?


「お礼~? なんの~? この前バッダ送ってあげたこと~?」

「違う……って、あれはお前か!?」

「そだよ~、おいしかったでしょ~?」

「誰が食うか!?」


 おいしいのに。ちゃんと調理法と食べ方書いた紙も一緒に送ってあげたのにさ~。でも、じゃあなんのお礼? 会長はツッコミでしか声出さないの?


「はぁ……葉月、そんなことしたら駄目だよ」

「おいしいのに?」

「そんなに食べたいなら、今度料理してあげるから。他の人に送っちゃだめ、ね?」


 え? 花音、あれ料理してくれるの? 段々強くなってってない? こっちがびっくりなんだけど。ほら、会長もさすがに驚いて、口がポカンと開いてるよ?


「あのね、葉月。会長はこの前助けてくれたことにお礼言いたいんだって」

「ん~? そうなの~?」

「…………はぁ……ああ」


 全く、そんな感じしないんだけど。なんでお礼言うのに、溜め息ついてるの?


 でも、お礼ね~。別にいいんだけど。それに、あの時は自分も止めなかったしね~。途中からは忘れちゃってたし。花音が「仕方ないなぁ」って顔で会長見てるよ。


「会長、ちゃんと言葉にしないと伝わりませんよ?」


 プイって花音から顔を逸らしてる会長。子供か!? 前に私のことガキだって言ってたくせに、今の会長の方がガキだよ! 思わず私だって溜め息ついちゃうよ。ハァ……。


「いいよ~、お礼なんて。それで~? 用ってそれだけ~?」

「……お前、怪我はどうなんだ?」

「怪我? 平気だよ~。まだ退院出来ないけどね~」

「そうか……」


 あ、ちょっとホッとしてる感じ。……会長も見てたもんね~。


 ん? 何、何でいきなり居住まい正してるの?


「……桜沢、ちょっと外せ」

「え?」

「こいつと2人で話したい」


 会長と2人で? 何の話さ?

 ……何やら真剣な目で見てくるね。仕方ない。


「花音、ちょっといっちゃんの様子見てきて~?」

「葉月まで……」

「多分いっちゃん、お姉ちゃんにこねくり回されてると思うから~、助けてきて~?」

「……わかった」


 仕方ないよ。さすがにこんな目で見られちゃね。

 渋々といった感じだったけど、花音はいっちゃんのところに行ってくれたよ。


 扉を出ていった花音を見送ってから、会長に向き直る。さて、何かな~?


「それで~? な~に、話って?」

「……まず礼を言う。助かった」


 なんで2人になった途端に素直になるのさ。ちょっと面喰らっちゃったじゃん。


「だから、いいってば~。それが話なの~?」

「違う」


 ズバッと否定してくるね。一体なんなの?


 首を傾げてると、会長はまっすぐ私を見てくる。ふうっと静かに息を吐いて、口を開いた。


「……俺はお前のことを頭おかしいと思ってた。今でも思ってるがな」

「あっそう。それで?」

「……だけど、あの時のお前はどうかしてると思った」

「そうだろうね」

「なんであの時避けなかったんだ?」


 ……そう思うのが普通だね。

 だから、にっこり返してあげる。


「避けようとしたけど、遅かったんだよ~」

「本当にそうか? だとして、何であんなに平然としてられたんだ?」


 会長は怪訝な目で見てくる。疑問を次々口にする。


 だからちょっと、本当のことを教えてあげるよ。別に隠してるわけじゃないからね。それで納得すると思うよ?


「会長。私はね、少し体質が人と違うんだよ」

「体質だと?」


 そう、体質だ……多分。



「私はね、痛覚がないんだよね」



 「は!?」とさすがにポカンとしてる会長。


 でも、そうなんだよ。



 私は痛みを感じないんだよね。



「だから、刺されても平然としてられるんだよ。これで納得したかな~?」

「……だからって、あんな無茶をするのか?」

「会長には言われたくないな~。あんなにボコボコになってまで、花音のこと庇ってたくせに~」

「それは……」


 本当、さすがは会長だね。私が行くまで散々庇ったんでしょ? あんな数人相手にして、花音が無傷なのが不思議なくらいだもん。


 ああいうやつらは本当に好き勝手やってくるからね。上手く挑発して、相手の矛先を自分に向けたんじゃないの?


 誇っていいよ、会長。



 あなたが、花音を守ったんだよ。



 私は途中からそっちは忘れてたからね。



「会長の怪我が軽くて本当に良かったよ」



 会長が目を見開いて私を見てくる。


 でも本心だよ?


 だって、花音の恋人になる人だもんね。



 花音にはさ、笑っててほしいんだよ。


 好きな人と幸せになってほしいんだよ。



 だから、その相手に怪我してほしいとは思えないんだよ。それが会長だとしてもね。


 会長はハアと息をついて、こっちをジト目で見てくる。


「お前にそれを言われると複雑なんだが」

「やだなぁ会長、本心だよ?」

「どうだかな」


 ふんっと言って、さっき花音が淹れてくれた紅茶を飲んでから、ゆっくりカップを置いた。私も甘い紅茶を飲んで一息つけてると、会長がポツリと話し始めた。



「お前……あんまりあいつを泣かせるなよ」



 ん? あいつ?


「……桜沢だ。酷かったぞ」

「……そっか」

「お前がなんであんな振る舞いをしたかは俺には分からねえし、本当は俺だってお前には近付きたくない。何されるかわかったもんじゃないからな」


 そうか……会長は今日。



「でも、あいつがあんな風に泣くのは……見たくない」



 それを言うために来たんだね。



「あいつの為にも、あまり、ああいうことはするな。あいつは笑ってればいい」



 同感だね。


 でも、



 約束はできない。



「……善処するよ」



 会長は紅茶を飲み干してから学園に戻っていった。やっぱり、今は忙しいらしい。あと家に変な物をもう送ってくるなって言われちゃったよ。それは、あれだね。リクエストですね。つまり送ってほしいんだね!



 今度は何、送ろうかな~って考えていたら、花音に止められた。顔に出てたらしい。怖い笑顔で「ここに玉ねぎ持ってきてもいいんだよ?」って言われたら逆らえませんね。


 あといっちゃん、キスマーク顔中についてるよ。

お読み下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ