表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/366

150話 涙

 


 コンコン



 と、扉からノックが聞こえた。


 先生が私を1回見てから、「どうぞ」と返事をしてくれる。


 ガラッと扉が開かれて、現れたのはいっちゃんだった。


「兄さん、葉月は?」

「今目が覚めたばかりだよ」


 それを聞いたいっちゃんがこっちに目を向けたから、ヘラっと笑うと、心底ホッとした表情になった。


「いっちゃ~ん」

「何がいっちゃ~んだ。ふざけるな」


 あれ? なんでそんなにいきなり怒りだしたの~?


「ひどいな~いっちゃんは~。まだちょっとぼんやりしてるのに~」

「そうかそうか。それぐらいがお前は大人しいから、もう少しぼんやりしてろ」

「寂しいくせに~」

「悪いが本心だぞ」

「なるほど。本心で寂しいんだね~」

「やかましい。誰もそんなこと言ってないわ」


 え~、本当は寂しかったんでしょ~。

 そんなやり取りをしてたら、先生がクスクス笑っていた。んん?


「2人のコントを見るのは久しぶりだったけど、あいかわらずテンポがいいね」

「何言ってるんだ、兄さん。コントじゃないって言ってるだろ」

「ハハっ。まあいいじゃないか。僕は好きだよ、2人のコント」

「いっちゃ~ん。先生が望んでるよ~? ツッコんで~?」

「誰がやるか。お前は黙ってろ。それより兄さん、その……こいつ、今起きたんだよな。面会は平気か?」

「あまり長い時間はだめだけど、誰かきたのかい?」


 あー……っていうように視線を逸らしたいっちゃん。ん~? 誰~? 先生も首を傾げているよ?


「その……学園の友人たちだ」


 花音と舞? 私の友達って言ったらその2人だけだしね。


 先生が苦笑して、いっちゃんの頭を撫でてあげてる。お~兄妹っぽい。「子ども扱いはやめてくれ」って若干いっちゃんの頬が赤くなってる。かっわい~。


「昨日の子たちか。葉月ちゃんの傷に触るか心配してるんだね。大丈夫だよ。もし異変があったら呼びなさい。ここだったら、すぐ対処できるからね」

「そ、そうか。じゃあ呼んでくる」


 いっちゃんが花音と舞を呼びにいって、先生も邪魔になるからって病室から出て行ってしまった。


 花音、来たのか~。

 どんな顔しようかな~。


 すぐコンコンって音がなったけど、早いね!? 全然考えられなかったよ!?



「葉月っち~~~!!!」



 ガラッて勢いよく扉を開けて入ってきたのは舞だったよ。大きい声だからビクッてなっちゃった。勢いよくベッドにダイブしてきた。


 舞! 元気ありすぎだよ!!? 一気に覚醒したよ!


「くぉら!! そんな勢いよく抱きつくな!!」

「だって、一花!! 心配だったんだよ! 葉月っち、平気?! もう大丈夫なの!?」

「落ち着け! うるさくするな!」


 なるほど、いっちゃんが心配したのは騒がしくなることだね! 私の怪我じゃないね!


「舞~、平気だよ~?」

「う……うわ~ん!! よかったよ~!! だって、あの時葉月っち、気づいたらいないんだもん! 一花から連絡きたら怪我してるって言うしさ~!! あたしのせいだって思って~!!」


 そういえばそうだね。舞ほったらかして出ていったもんね。大丈夫だからさ~、そんな号泣しないでよ~。もういっちゃん、ちょっと止めて~。


 いっちゃんが「大丈夫だって言っただろうが」って、呆れて舞を無理やり剥がしてくれたよ。部屋にあるソファに誘導していってくれた。この病室は特別室だからね。広いんだよ。


 そっちについ視線を運ばせていたら、ベッド横に誰かいた。


 目線を上げてみると、こっちを心配そうに見ている。


 うん。

 寝てるから舞で隠れて見えなかったよ。


 ああ……やっぱり。


 大丈夫だよ。


 だから、そんな泣きそうな顔しないでよ。



「花音……」



 今にも泣きそうな花音がそっと近づいてきて、恐る恐る手を握ってきた。


 キュッと握り返してあげる。


 もう限界だったのか膝から崩れ落ちて、肘をベッドにのせ、私の手を自分の額に当てていた。ポロッと溜まっていた涙が頬を伝っていく。


「っ……」

「大丈夫だよ~?」

「……ふっ……ぅ……」

「平気だよ~?」


 目をギュッと閉じて、涙を次から次へと溢れさせている。握ってくる手も僅かに震えていた。


 大丈夫だからね。

 泣かなくていいからね。


 握られている手を動かして、花音の頬にそっと触れる。

 やっと顔を上げてくれて、それでもポロポロ涙をこぼしながら、辛そうにこっちを見てきた。


 親指でそっと頬についた涙を拭うと、擦り寄るように頬を寄せてくる。


「葉月……」

「ん~?」


 声を震わせてこっちを見てくる。わずかに微笑んであげると、ちょっとだけホッとしたような顔になった。


「…………よかった」


 だから、大丈夫だって言ったでしょ?


「私は元気だよ~、花音~」

「うん……うんっ……」


 いっちゃんが安心したような顔をしていて、舞はまだ号泣している。


 花音の頬を撫でている手が、ギュッと強く握られた。


 泣かないで。


 もう泣かなくていいからさ。


 泣いてほしくなくて、私はそうだって思ったことを言う。


「花音~、ね~、頭撫でて~?」


 私が意外なこと言ったのか、泣いてた花音がきょとんとした顔してきた。


 へへ~。涙止まったね~。


「撫でて~?」


 またお願いすると、目元に涙を少し残しながらだけど、やっとクスって笑ってくれた。



「……いいよ」



 うん。やっぱり花音は笑ってくれてた方がいいよ。



 花音が身を起こして、ベッドに座って手を伸ばしてくる。ふわっと最近慣れ親しんだ手が、ゆっくり頭を撫でてくれた。


 感触が心地いい。


「プニプニしてる~」

「葉月……それ、前に言ったらダメだって言ったよね?」

「そうだっけ~?」

「そうだよ、もう。次からはだめだからね」

「は~い」

「ふふ」



 花音に笑ってほしくて、冗談をいう。



 少しの間、花音が笑ってる姿を見ながら、優しい手の感触を味わった。


お読み下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ