表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/366

149話 先生との会話

 



 あれ~……。



 なんだっけ……?



 スッと目を開いていく。



 ああ……ここ……。



「お目覚めかな?」


 先生が見下ろしてくる。

 ……ああ。ここは、いっちゃんの病院だね。いつも使われる病室だ。


 そっか。


 そっか~。


「気分はどうだい?」

「………………ふつ~」


 先生を見上げる。困ったように笑っていたけど。

 ああ、花音たち……大丈夫だったかな~。いっちゃんも怒ってるかな~。


「……せんせ~」

「ん?」

「……いっちゃん、怒ってた~?」

「それはもうカンカンだよ?」


 ものすごい蹴りがきそうな気がするな~。


「せんせ~……」

「ん、何?」

「花音……と会長は~?」

「大丈夫だよ。花音さんは無傷だし、鳳凰君は打撲と、ちょっと口切ったぐらいで済んだよ」

「……そう」


 まあ、ご都合主義のおかげかなぁ……よかったね~会長~。花音も怪我してなくてよかった~。


 あ~でも、久しぶりにこんなにスッキリしたな~。


 したけど、花音に見せちゃった。

 怖かっただろうな~。


 でもあのお兄さんが悪いよね~。

 何にも持ってなかったら、あそこまでしなかったんだけどな~。


 まあ、無理か……。


「葉月ちゃん」


 うん? な~に、先生?


「思い出してたのかな?」

「……そう」

「そっか。良ければ、何を思い出してたか、聞かせてもらえる?」

「……花音怖かったかな~って」

「そうだね。怖かったんじゃないかな」


 そだよね~。血なんて見せるもんじゃないや~。


 ……泣いてたな~。

 そだよね~。怖いよね~。


 カタッと、先生が椅子に腰かけた音が聞こえたから視線を向けると、穏やかな顔でこっちを見ていた。


「僕もね、会ったよ、花音さんに」

「……花音に~?」

「うん。彼女はとっても優しい子だね」


 そだよ~。花音は優しいんだよ、先生。


「君が気に入るのも分かるかな」

「……奥さんに言っておくね~。先生が女の子気に入ったって」

「それは勘弁してほしいかな」


 苦笑してハハッと笑ってるけど、駄目だよ~。花音には会長がいるからね~。



「ただ、やっぱり衝撃が強かったみたいだね」



 ……まあ……そだね。実際の人間が血を流している場面なんて、衝撃が強いだろうね。


「一花にはそばにいてもらってるよ。安心して。何かあったら、すぐ対応出来るようにはしておくから」

「ん~……」


 そうだね。その方がいいや。先生はそれが専門だからね~。そこは任せるよ。いつもは話すの嫌だけど、そこだけは信頼してるかな~。


「すごく心配してたよ、葉月ちゃんのこと」

「……そう」


 そういえば、あれから何日経ったのかな?


「せんせ~? 眠ってどれぐらい~?」

「あれからまだ2日しか経ってないよ」


 え~……2日も経ってたの~? それはそっちでも心配かけたかな~。


「手術はちゃんと成功してるからね。君、上手く避けたね?」

「なんのこと~?」

「覚えてないの?」


 ん~? 覚えてるけど、無意識じゃないかな~? そんなこと考えてなかったもんね~。


 ああ、でもナイフ抜いた時の血の量見て、これ大丈夫だって思ったよ~? ふふ、でも残念だったな~。


「一花が駆けつけなかったらどうしてた?」

「ん~? 大丈夫だと思った~」

「どうして?」

「さあ? そう思った」

「他の人たちはどうしようとしてたかな?」


 他の人? ああ、お兄さんたちのこと?


「遊ぼうと思った~」

「どう遊ぶつもりだったのかな?」

「さあ? 適当に~」


 そだな~。どう遊ぶかは考えてなかったな~。

 何故か先生はちょっと厳しい目をしているけど、本当考えてなかったよ~? でも、もっと面白くしたかったな~。何ができたかなぁ?


 色々と想像して、笑いが零れた。



「葉月ちゃん……君、今()()()()()()ちゃんと分かってるかい?」



 思わずきょとんとしてしまったよ。うん? なんで、このタイミングで?


「ここにいるけど?」

「本当に?」


 え……本当……だけど……。


 あれ。


 本当に?


 あれ?


「葉月ちゃん……君、()()()()()()()()()()()?」


 先生がすごく厳しい目で見てくる。


 ここ……ここ……?


 こっち……?

 あれ? 違う?

 向こう?

 うん? じゃあ、なんで私?


「一花を……呼んでこようか?」


 いっちゃん。


 ああ、そうだ……いっちゃん……。



 思考が戻ってくる。



 そっか……まだ引っ張られてたな~……。


「平気~……」

「本当?」

「平気だよ~?」


 違う、違う。


 大丈夫。大丈夫。


 ちゃんと自覚できる。


 そうだ。



 ()()()()()()()()



 まっすぐ先生を見ると、先生がグッと眉間に皺を寄せて険しい目で見てくる。


 大丈夫。


 まだ大丈夫。



 ちゃんと自分がおかしいのが分かるから、大丈夫だよ、先生。



「……ねえ、葉月ちゃん。今回、どうしてあんなに彼らを煽ったのかな?」


 止めなかったから。


「彼らからも話は聞いてるんだよ。君が彼らを極端に煽ったっていうのは分かってるんだ」


 その方が早かったから。


「彼らを煽って、君はどんなことをしたかったの?」


 自分の“欲”に溺れたかった。


「その結果を、君はちゃんと分かってやってたんだよね?」


 そうだね。ちゃんと分かってた。


「……君、昔に引っ張られてきてないかい?」



 そうだと言ったら……先生はどうするの?



「何も答えてくれないね、葉月ちゃん」

「……ねぇ、先生」

「……何だい?」

「私はね~……ちゃんと……分かってるよ~?」

「……何をかな?」



 分かってるよ……。


 ちゃんと、


 まだ、



「自分がおかしいこと分かってるよ~……先生……」



 先生が苦しそうに表情を歪めた。


 でも、分かってるから。


「だから……まだ大丈夫だよ~……」

「葉月ちゃん……」

「だから、昔に戻ってないよ~……」


 ちゃんと分かるから。


 だから大丈夫。



 まだ大丈夫。



 あの時決めたから、

 

 

 その時まで大丈夫。



「葉月ちゃん……君は、本当は何を隠しているの?」


 ……先生、やっぱり分かってたんだね~。



 でもね、それは言えないよ~。



「……何も隠してないよ~、せんせ~」



 苦く笑うしかできなかった。



 先生はそれを見て、悲しそうに眼を閉じた。




 ノックが聞こえた。


お読み下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ