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14話 入学式

 

 星ノ天(ほしのそら)学園高等部。


 その敷地はかなり広い。運動場はそれぞれの部活用にグラウンドがあり、文化部にもそれぞれ立派な専用の校舎がある。各種設備も整っており、生徒のバックアップは完璧に近い。そのおかげかは分からないけれど、生徒たちのレベルも高い。


 そして、星ノ天学園で有名なのはやはり大きな時計塔だろう。この学園のシンボルでもある。


 よくは知らないけれど、この時計塔があるからこの学園ができたという説もあるらしい。ちなみに時計塔の最上階には、ものすごく大きな望遠鏡もあるって噂で聞いたことがある。


「大きいね……」

「ホントホント、さすがは学園のシンボルだわ」


 校門の前でそう感嘆の声をあげているのは花音と舞だ。私といっちゃんは幼等部から身近に見えてたものだから特に驚きも何もない。


「先にクラス確認しなきゃね、いっちゃん」

「そうだな。2人とも、置いていくぞ?」


 私たちがサクサク進むと、2人が慌てて後ろからついてくる。その間も2人は周りを見渡しながら、敷地の広さや校舎の大きさを驚きながら見ていた。


 校舎近くになるとエントランスホールが見えてくる。人だかりが出来ているから、あそこでクラスの掲示板が張り出されているのだろう。


「っていうか一花? さっきから気になってたんだけどさ?」

「何だ?」

「さっきからあたしたちの周りを、皆が避けている気がするんだけど?」


 舞の言う事は正しい。たぶん避けているのは中等部からの内部組だと思う。


「ああ、葉月がいるからな。皆関わりたくないんだろうさ」

「うへえ……葉月っち。皆に嫌われてるの?」

「嫌ってはいないと思うが……こいつの近くにいると巻き込まれると思ってるんだろ」

「葉月っち……どんだけやらかしたのさ?」

「ん~? いっぱい?」


 ホント、言い出したらキリがないと思う。寮だけじゃないからね、やらかしてるのは。


「だから、舞も嫌なら近づかなくていいよ~?」

「あたしは危ないのは嫌だけど、面白そうなのは大歓迎だから! 葉月っち達といると何か飽きなさそう!」

「ポジティブだね~」

「ポジティブが取り柄だからね! あっはっはっ!」


 舞の隣で花音もクスクス笑っている。朝の調子だと、ちょっと舞に対して怯えていた様子だったけど、ここに来るまでに大分打ち解けたみたい。良かった良かった。


 掲示板に行くと、ザッと私たちの周りから人が引いていく。ひそひそと「小鳥遊だ……」「彼女そういえばどこのクラス?」「一緒になったら面倒だな……」「東雲さんはともかく……他の2人誰?」「小鳥遊のこと教えてあげた方が良くないか?」とか聞こえてきた。失礼だな、君たち。だが、その反応は正常だ。


「葉月、どこのクラスだった?」

「ん~? いっちゃんと同じ~」

「じゃあ、あたしと花音が一緒だね。何だ、2人とはバラバラか~」

「まあ、葉月と違うクラスはあり得ないからいいんだけどな……どうしても溜め息が出る」

「苦労掛けるね~、いっちゃん」

「そう思うなら少しは自重しろ!」


 花音と舞が首を傾げていた。それを見ていっちゃんが「ああ」と2人に答えていた。


「葉月とあたしが一緒のクラスなのは決まっていることなんだよ」

「どゆこと、一花?」

「いっちゃんが私のストッパーだからね~」

「他にこいつを止められるやつがいないんだ」

「「なるほど」」


 花音と舞の声が重なった。おかしいな? まだ2人とは会ったばかりなのに、なんで納得しているの?


「でも、クラスの名簿って言えばいいのかな? そういうのって私たちが口出し出来るの?」


 花音が不思議そうな顔で聞いてくる。いっちゃんが納得したような顔で頷いていた。


「桜沢さんは免疫ないもんな」

「え……? あの……ごめんなさい……」

「いや、謝るようなことじゃないからいいんだ。桜沢さんはこの学園がどう維持されているか知っているか?」

「え? えーと……」

「ほぼ寄付金でこの学園は成り立っている」


 ポカンとしている花音。舞はそうだよな~っていう顔をしていた。


「実はこいつの実家が一番この学園に寄付金を出している。その家からの頼み事を学園側は断れないだろ? 断ったらその寄付が切られるわけだ」


 あの人たちは金だけは持っているからね~。


「じゃあ、一花が葉月っちと一緒にいるのは家の命令?」

「こいつの実家の人から頼まれたっていうのはあるな。あたしとこいつの家は古くからの付き合いだし。あたし自身も幼等部からこいつとは一緒にいるからな。こいつの扱いは、まぁ慣れている」

「いっちゃん、好きだもんね~私のこと」

「お前……もう一辺言ってみろ……」

「いっちゃん! 私はいっちゃんが大好きだよ!」

「そんなことは聞いてないわ!」


 そう言っていっちゃんに抱きつくと、ムニムニと手で顔を押し返された。でも私は知っている。これはいっちゃんの照れ隠しである。2人が途端に生暖かい目で私といっちゃんを見つめていた。コホンと咳払いするいっちゃん。


「とにかく! こいつの実家から学園に頼んだんだよ。あたしとこいつのクラスを離れさせないように。学園側としても断る理由がないからな」

「へ~。葉月っちの実家って凄いんだ。あたしのパパも色んな会社経営してるけど、何やってる人なの? もしかしたら知ってる人かも」

「お金持ち」

「いや、だから何かの会社経営してるとか……」

「さあ? 興味ないから」

「あ~舞? そこはちょっと勘弁してくれないか? こいつ、簡単に言えば今実家と喧嘩してるみたいなもんだから」

「あ~……何か訳あり?」

「訳ありでもなんでもないよ? ただ、関係ないだけ」


 私がそう言うと、全員が気まずそうな顔をしてしまった。でも正直、実家の話は好きじゃないんだよね。


「この話やめよ?」

「あー……うん。なんかごめんね、葉月っち? 深入りしちゃったみたいで」

「あはは~。別にいいよ? 関係ないからね」


 シンと場がまた静まった。舞も花音も何でそんな顔してるのさ。コホンといっちゃんがまた咳払いして、私に向き直る。何、いっちゃん? 何でそんな難しい顔してるの?


「葉月、いい加減に実家の話を出されると不機嫌になるのやめろ。2人も困ってるだろ」

「何言ってるの、いっちゃん。不機嫌になってないよ?」

「……自覚なしか……ハァ……すまない2人とも……こいつには後でちゃんと言っておくから」

「なってないのに」

「いや、あたしも悪かったよ。家族の話ってあたしたちの場合デリケートな部分もあるもんね」


 むーっと頬っぺたを膨らませてると、いっちゃんにムギュッと片手で押し潰された。


「あ~2人とも。教室にもう行った方がいいぞ。反対側だろ? このバカはあたしが何とかするから」

「そっか。じゃあ、花音。葉月っちは一花に任せよ。あたしらが何とか出来る訳じゃないしさ」

「え? う、うん……そうだね。じゃあ、葉月。また後でね」


 花音がチラチラこっちを心配そうに見ながら、舞と一緒に他の生徒の波に飲まれていく。私はいっちゃんにまだ顔を掴まれているよ。ジロッとこっちを睨んでいる。


「葉月。お前はバカか? いやバカだったな、失礼。2人は今日から楽しい毎日が始まる新入生だぞ? それをぶち壊しやがって。特に桜沢さんなんか、今日からゲーム本番だ。なのにあんな顔させやがって」

「いっふぁん。はなひへ」


 やれやれといった感じで、いっちゃんがようやく手を放してくれた。ムニムニと自分で頬を両手でこねる。


「関係ないから、関係ないって言っただけだもん」

「はぁ……まず自覚しろ。今のお前の顔がやばいってことを。実家の話を出すとすぐこれだ。昨日の夜もそうだったんだぞ。あとお前、また連絡入れてないだろ。昨日の夜、あたしの方に連絡きた。今日から高等部だからよろしくだと。進級おめでとうとも言ってたからな。いい加減、一回ぐらい連絡入れろ」

「……」


 私が黙ると、いっちゃんはまた大きく溜め息をついた。あの人たちに連絡? やだよ、面倒臭い。


「とにかく、あの2人の前ではその顔やめろ。新しく始まる学園生活に水を差すな」

「それは気を付ける」

「それでいい。あとで2人には謝っておけよ? 特に桜沢さんには」

「はーい」

「あと、くれぐれも問題起こすなよ?」

「それは気を付けない」

「おい!」


 いっちゃん、何しっかり釘をさそうとしてるのさ? 私はやりたい事がいっぱいあるのだ。それは誰にも止めさせないよ? それが問題行動だとしてもね。


「いっちゃん。やりたいと思ってる事があるなら、まずやってみるべきだと思うんだよ。そのために好奇心というものが人には芽生えると思うんだ」

「何か良い事を言っている風に聞こえるが、問題を起こしていい言い訳にはならんぞ」

「確かにそだね」

「いや、だから納得するならやめろって言ってるんだよ!?」

「いっちゃん、やってみないと分からない事っていっぱいあるんだよ?」

「まだ言うか!?」

「それより、いっちゃん。私たちもそろそろ行かないと不味いんじゃない?」

「いや、まずあたしの話を無視するな!?」


 そういえば、花音が答辞やるんだよね~? 首席で合格したから。緊張してないといいけどな~。朝ごはん食べてるときに練習してた。


 そんなことを考えながらツッコミを入れるいっちゃんを無視して、新しい教室に向かっていった。


 ――


 結論から言うと、花音は立派に答辞をやり遂げました。ちょっと声が上擦ってたけど。


 私は壇上の下でいっちゃんに何かしでかさないように腕を掴まれ、それを聞いていた。目が合ったからニコッと笑ったら、何だかホッしたような顔をしてた。入学式は、私が何も問題起こさなかったからか滞りなく終わったよ。学園長の話は眠くなったけど。


 そういえば寮長もいた。生徒会代表で出席してたらしい。なんと、彼女は生徒会の副会長もやっていたらしい。多忙だね。でも私の方を監視みたいにジーっと見てるのはおかしくないかな?


 ちなみに新しい教室では外部組の生徒たちに内部組の生徒が何か言ったのか、めちゃくちゃ怯えられた。だから、負けじとヘラヘラ笑ったら余計怖がられた。その怯え方がちょっと面白い。


 最後に連絡事項が担任から伝えられて、今日はもう解散だ。担任がいっちゃんに私の面倒見るようにって念押ししていたけど、これは中等部からのお約束なので別に変化はなしだ。



「それで、いっちゃん。今からその出会いイベントがあるの?」

「そうだ。攻略対象者と桜沢さんとのな」


 いっちゃんが目を輝かせている。私たちが今いる場所は中庭だ。今から花音が道に迷ってここに来るらしい。その反対側の校舎から攻略対象者が来るらしいが。まあ、花音が迷っちゃうのも分かるんだけどね。無駄なくらいに校舎の数も多いし、広いし。


 でもさ、いっちゃん。どうしよう。さっきから、花音から電話かかってきてるんだけど。


「ねえ、花音から電話きてるんだけど出ていい?」

「むっ……そうだな……多分、時間的にもうすぐだと思うんだが……」

「もっしも~し?」

「あっこらっ! 葉月!」


 いっちゃんからの制止の声がかかったけど、花音は多分、心細い思いしてるんだよね。きっきから鳴りっぱなしだもん。さすがに見捨てられないよ。


『あ、葉月!? ご……ごめんね、いきなり電話して』

「大丈夫だよ~。どうしたの~?」

『それが……恥ずかしいんだけど……今どこにいるか自分でも分からなくて……葉月たちはもうエントランスホールにいるの?』

「ん~ん。今向かってるとこ~。舞は~?」

『私が担任の先生と話があったから、先に行ってもらったの……どうしよう……』


 いっちゃんが目配せしてくる。花音にこっちに来るようにしてほしいみたいだ。


「花音、そこから中庭来れる~? 私たちもホール行くより中庭の方が、近いんだよね~」

『中庭? あ、プレートあった。こっち……かな?』

「そこで待ってて? 迎えに行くから」

『うん、わかった。ごめんね、葉月。迷惑かけちゃって』

「大丈夫だよ~花音。じゃあ、また後でね~」


 そう言って電話を切ってからいっちゃんを見ると、よくやったと言いそうな満足そうな顔で目をキラキラさせている。本当にいっちゃんはこの乙女ゲームが好きなんだね~。


「これでいいの? いっちゃん」

「ああ! これでようやく見れる!」


 物陰に隠れ、いっちゃんが言う花音と攻略対象者が出会うという場所を見続ける。そういえば、今日会う攻略対象者って誰? 聞いてなかったなぁ。いっちゃんの方を見ると、興奮して声が出ないように口を押えてた。だめだ。聞ける雰囲気じゃないや。


 暫くすると、周りをキョロキョロしながら花音が現れた。ちゃんとここに辿り着けたみたい。お? 花音の反対側から誰か来る。ってあ~。あの人か~。相変わらずっぽいな~。


「あ? 何やってるんだ、お前?」


 星ノ天学園生徒会会長。そして世界にもその名を知られている大財閥の息子。



 鳳凰(ほうおう) (つばさ)



 いっちゃんのいう乙女ゲーム≪サクヒカ≫の攻略対象者の1人である。


お読み下さりありがとうございます。

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