144話 現実
前話2話の簡単なあらすじ。
花音を助けにきたはずの葉月が、不良たちのリーダー格を煽り、刺されました。
流血シーンあります。ご注意ください。苦手な方は146話まで飛んでください。
うん?
ガッ! と、その影に私の頭を押さえられて、そのまま地面にドン! と押し倒された。
視界がその手に包まれて何も見えない。その手をどかそうと、自分の手で腕を掴んで引き剝がそうとするけど、ビクともしなかった。
うぇ~。なにこれ~! 動かないよ~!
バタバタと足も動かすが、誰かが馬乗りになっているみたいで動けない。
「このっ! ハァっハアっ! ……馬鹿野郎がっ!!!」
ビクっと体が震えたけど、すぐバタバタと足を動かす。
この手邪魔~! まだ遊ぶ~!! でも全然動かないよ~!!
腕から血がどんどん流れていく。
「うっ……! うう~!!! 邪魔しないで~!!!」
「ハァっ! ハアっ! 暴れるな!!! 落ち着け!!!」
荒くなってる息遣いが聞こえる。
「おい! そいつら全員逃がすな!!」
手の向こうで声が聞こえる。バタバタと何人かの足音と、さっきのお兄さんたちの声も聞こえた。押さえてる手の向こうで声がする。
「花音! 会長! 無事か!?」
「い、一花ちゃん! 葉月、葉月がっ!!」
「東雲っ……! 小鳥遊を病院へっ!」
「分かってるっ……」
バタバタと体を動かすけど、全然どかせられない。グッと頭を押さえつける手に、力が込められたのがわかった。
「葉月!! 落ち着けっ!!」
またビクッと体が震えた。
「声をちゃんと聴け!! あたしの声を聴け!!」
こ……え……?
ピタっと暴れるのを止めてみる。
こえ……? 声……?
「……そうだ……落ち着いて、ちゃんと声を聴け……」
不思議と、その声が頭に入り込んできた。
声……聴く……。
「あたしの声が、分かるか……?」
声……誰……。
「ここが現実だ、葉月」
現実……現実?
「お前がいるのは、ここだ……」
ここ……現実。
「葉月っ……」
苦しそう……声……。
知ってる……声だ……。
知ってる……?
現実……?
思い浮かんだのは、ずっと隣にいた女の子の姿。
『こっち』には、絶対いない存在。
いっちゃん……?
「いっちゃ……?」
ピクッと抑えられてる手が動く。
「…………そうだ、あたしだ」
ああ……いっちゃんだ……。
いっちゃんの声だ。
「……いっちゃん……の……声」
「ああ」
戻ってくる。
思考が戻ってくる。
自覚する。
「葉月、お前は今……どこにいる?」
いつもと違う、優しいいっちゃんの声が聞こえてくる。
ああ、
うん、
わかるよ、いっちゃん。
「……ここにいるよ……いっちゃん」
ゆっくり手がどけられた。
指の隙間から、汗まみれのいっちゃんが辛そうにこっちを見てた。歯をギリッと食い縛っている。
「本当に……馬鹿野郎だ、お前は……」
いっちゃんだ。
いっちゃんがいる。
ここにいっちゃんがいる。
だから私は自覚できるんだ。
おかしいことを自覚できるんだよ。
いっちゃんがその状態で私の腕に手を伸ばした。
腕をギュウっときつく縛られて、急いで止血してくれてた。
「もう車も来る。いいか、あとで説教覚悟しておけよ」
「へへ……やだ~……」
いつもの感じで返したら、ちょっとだけ安心した顔をした。
いっちゃんが周りの鴻城の人間に指示を出しに、その場を立った。奥から担架も見えてきた。
「葉月っ……!」
あれ、花音だ……泣いてるの?
手をギュッと握られていた。
涙をポタポタ流しながら見下ろしてきた。その向こうから会長も見ている。
2人とも……無事だ。会長は辛そうに立っていたけど。
手を握り返して、涙を流す花音を見上げる。
花音、大丈夫だよ。
もう大丈夫だよ。
泣かなくていいんだよ。
「花音~……泣かないで~……?」
「葉月……なんでこんな……危ない事しちゃだめだって、言ったでしょ……」
私の手を握っている力が強くなる。
泣かないで。
大丈夫だから。
これぐらいだったら、大丈夫だから。知ってるから。
「大丈夫だよ~……」
あれ……なんだか花音の顔がぼやけてきた。
血、流しすぎたかな~……。
でも大丈夫のはず……。
「これぐらい……平気だから……」
どんどん瞼が重くなる。
でも花音……。
無事でよか――――
「葉月? 葉月っ?! 一花ちゃん!!」
花音の声が遠くなって、
――――目の前が暗くなった。
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