142話 普通だよ?
人を煽るシーン、刺傷、流血シーンあります。
少しの流血シーンが大丈夫な方は144話、全部が苦手な方は146話まで飛んでください。
144話、146話に簡単なあらすじを入れさせていただきますので、無理に読まなくても大丈夫です。
「うははは! いいぜ~、俺たちと遊んでくれるのか~?」
「どんな遊びがいいんだ~?」
ニタニタと下卑た笑みを男たちは浮かべている。
あっは。こういうやつらって~、ホントばかだよね~。
どうしよっかな~。
後ろから「だ、ダメ……葉月っ!」「やめろ……!」って声が聞こえてきたけど気にしない。一歩前に一歩前に、男たちのところに足を進める。
「ん~? どんな遊びかな~? 後ろの人とはどんな遊びしてたの~?」
「な~に、現実を知らないお坊ちゃんに教えてあげてただけさ~」
「へ~現実ね~。どんな現実~?」
「うはは! 金だけ持ってるお坊ちゃんはよえ~ってことだよ!」
「あはは~。なるほどね~。だからみんなで殴ってあげたんだね~?」
「そういうこった! お嬢ちゃん、結構話が分かるな~!! ぎゃはは!」
ふふ。なんで満足そうに笑ってるんだろうね~? 一人を数人で殴ってあれだけなんてさ~。
それって、そんなに自慢することじゃないよ~?
「つまり、お兄さんたち一人一人はめちゃくちゃ弱いってことだね~?」
私の言葉で、男たちが笑いを止めた。
「おい、嬢ちゃん。今なんつった?」
「だから~。一人ではできないから、みんなで殴ったんでしょ~? よっわい人間がすることじゃ~ん!! ね~!?」
「ああっ!?」
「誰が弱いって!?」
あはは!! 怒ってるね~!! でもなんで怒るのかな~? 図星だからかな~? でもまだ足りないかな~。
「あはは~! なんで怒るの~? 図星なの~?」
「――んだとっ!?」
「調子に乗るなよ、クソガキが!?」
どんどん形相が変わっていく。あっは。ほ~んと馬鹿だね!
「お兄さんたち~? 今のお兄さんたちさ~、負け犬の遠吠えみたいに聞こえるよ~? あっはは! たかだか女一人に何そんな大きな声だしてんの~?!」
「おいおいおい! お嬢ちゃん! なめすぎだろうが!?」
「キャンキャン吠えてるね~! みんなで私を襲う~? あはは! そうだよね~!! 一人じゃなんにもできないもんね~!!」
ふふふ。怒ってる怒ってる~!! おもっしろ~!!
「小鳥遊っ! やめろ!」
「葉月っ! お願いっ! やめて!?」
後ろから声が聞こえる。でも知らな~い!! ん? これ誰の声だっけ?
おっと? おやおや? その手に持ってるの何かな~?
リーダー格みたいな男が、ナイフを手に持っていた。
……熱が一気に体に広がる。
「おい、嬢ちゃん。痛い目みたいようだなぁ!?」
あは。
あはは!!
つまり、お兄さんは“こっち側”かな~!?
ニタぁっと自然と口角が上がった。
「お兄さ~ん。な~に? それで刺すの~? お兄さんに刺せるの~? 刺すと死ぬけど~!?」
「おいおい! いい加減にしろよ!?」
ナイフを持ってる男が切っ先をこっちに向けてくる。
ドクンドクンと心臓が跳ねていく。
ゾクゾクっと背筋が震えた。
さいっこ~!!!
「刺せば~?! 出来るならやってみなよ~~!? 殺してみなよ~!?」
煽ってあげたらお兄さんがナイフを持って、「死ねっクソガキがっ!」って私に向かってきた。「いやっ!」「小鳥遊っ!!」って声がまた後ろから聞こえてくる。でも知らない。
あれ…………誰の声だっけ? ま、いっか。
お兄さんの持つナイフが見える。
迫ってくる。
もう自分が“こっち側”にきてるのが分かる。
久しぶりの感覚で、
最っ高に気持ちよくて、
目の前のナイフしか見えなくて、
グチュ
と、動かなかった自分の左腕に、お兄さんのナイフが刺さった。
誰かの叫び声と声が聞こえてきた。
目の前のお兄さんが「へ……へへ……」っと笑っている声も聞こえる。
腕からは血が出ていた。
「あんまりなめてるからだ」ってお兄さんの声が聞こえる。後ろからも誰かの声が聞こえる。
私は立ったまま動かない。
お兄さんは刺したことで、とても満足そうだ。
でも、
それだけ?
「それじゃ死なないけど?」
冷たい声で言うと、ビクッとお兄さんがナイフから手を離して1歩2歩と離れてから、何故か震えながら腰を抜かして、その場に座り込んでしまった。周りのお兄さんたちもビビってる感じで立ってる。
ん、んん~?
なんでビビってるの?
自分で刺したくせに。もしかして、初めて?
自分の右手で左腕に刺さったナイフを一気に抜くと、ボタボタと血が溢れた。
残念だね、切れ味悪すぎ。
まあ、痛くないからいいんだけど。
右手に持ってるナイフを見てからお兄さんを見てみると、あれ? なんでそんな怯えた目で見てくるの?
「ね~……」
声を掛けるとビクッて肩を跳ね上げさせた。一歩お兄さんに近づくと、それに合わせて後退る。ん~?
「ね~。さっき死ねって言ってたでしょ~?」
「ひっ……な、なんだ……お前……どうして……」
「ね~お兄さん、もしかして本気じゃなかったの~?」
「く、くるな……」
1歩1歩近づいていく。お兄さんは後退った。だけど、私の方が早い。
お兄さんの目の前でしゃがみこんで、顔を下から覗き込んでみる。まるであり得ない物を見るかのようだ。周りの人たちも何故か動けないみたい。
なんで、そんな顔してるのかな~? お兄さんが死ねって言ったからなのに~。
……もしかして“こっち側”じゃない? 人の体に刺したのも初めてっぽいなぁ。
あ~あ……このナイフはただの見せかけか~……何も覚悟なしでこんなの持ってたの~?
「ななな……何なんだよ……お前……何でそんな平然としてるんだよ……」
なるほど、なるほど。怯えてるね~。私が平然としてるからかぁ。そりゃそうか~。こんな血を流してるのに、痛がるわけでもなくヘラヘラしていたら、怖いかもね~。
あ~そうだ。いいこと思いついたよ。ナイフ持ってたんだし~ちゃんと覚悟持たせてあげないとね~。
ニコニコ笑って、お兄さんの手を持ち、ナイフを握らせてあげた。めっちゃ震えてるけど。
「お兄さ~ん。だめだよ~? ナイフ持つってさ~。こういう事なんだよ~。刺す覚悟も刺される覚悟も必要なんだよ~? だからさ~」
「ひっ……!!」
お兄さんの持ってるナイフごと自分の手で包んで、私の心臓に向けさせた。
「…………刺す覚悟、持たせてあげるね~?」
「や、やめ……」って言って、余計私の手の中のお兄さんのナイフを持つ手が震えていた。
怖いんだね。人を刺すのが。
それがどんな覚悟か、ちゃぁんと教えてあげるよ~。
ふふって笑いながら、ゆっくり私の心臓に引き寄せると、
「やめろぉっ!!!」
お兄さんが私の手を振り払ってナイフを投げ飛ばした。あれ~? 手伝ってあげようとしただけなのにな~……。
「な、なんなんだ!? お前!? 頭おかしいんじゃねえか!?」
おかしい? 私が? 何言ってるんだろう、このお兄さんは。
「普通だよ?」
普通だよ、こんなの。
ちゃんとお兄さんにナイフを持つ意味を教えてあげるの、普通でしょ?
ナイフで刺したら血が出るの、普通でしょ?
全部全部、普通でしょ?
にっこり笑ってあげると、さらに後退って逃げようと背中を向けたから、あっれ~? と思って、背中を足で踏みつけてあげた。「うぐっ」と声をあげながら顔だけ私に向けて、「ひぃ」とすごい情けない声を出している。
何でそんな怯えてるのかなぁ? お兄さんが怪我してる訳じゃないのに。でもこのお兄さん、もうだめだね。これ以上は遊んでくれなさそう。
これじゃあ、なーんにも試すことも出来ないじゃん。
周りを見渡すと、他のお兄さんたちも何故かビビッて「に、にげ……」「来るな」って悲鳴に近い声を出していた。腕からは相変わらず血は流れてるけど、全然気にならなかった。
どうしよっかな~……この人たちは、なんか持ってるのかな~?
き~めたっ。1人1人あ~そぼっ。
「お兄さんたち~あ~そぼっ!」
逃げようとしてる一人を追おうとした時、
フッとお兄さんたちの向こうから影が出てきた。
これはあくまで物語です。
葉月のような行為を推奨する作品ではありません。
決して真似をしないよう、お願い申し上げます。
葉月がこのような行為をすることに関しては、7章後半に説明させていただきます。




