13話 いっちゃんのルームメイトとお説教
「……づき……きて……」
何だか良い匂いがする。あ~……昨日のオムライス美味しかったな~……。
ユサユサと体が揺れる。ん~? いっちゃん? そんな揺らさないで~……。
「葉月、起きて。朝だよ」
ん~? 何だか声が違う? 誰~? いっちゃんのいつもの蹴り落としがこない?
ゆっくり目を開けると、可愛い女の子が私の顔を覗き込んでいた。
「美少女がいる~……」
「びっ……!? もう……またそんなこと言って……ほら、起きて。もう朝だってば」
美少女は花音でした。顔をまた赤くしている。やっぱり可愛いと思う。けど、そうだった。昨日から『サクヒカ』という乙女ゲームの主人公、花音と同じ部屋になったんだった。
「ん~……もう少し~……」
「だめだよ。遅刻しちゃうよ?」
「ん~……」
私は仕方なくゆっくりと体を起こして、目を擦る。さっきから凄く良い匂いが鼻をくすぐっていた。その匂いの正体を見つけて、思わず感嘆の声が出てしまったよ。
「お……おおー……」
「葉月も食べるかなって思って……余計なお世話だったかな…?」
「食べる! 美味しそう!」
バッチリ目が覚めた。そこには美味しそうなカリカリのベーコンと目玉焼き。サラダと焼けたトーストが並んでいた。お腹が自然とグーっと鳴る。
バッと布団から出て、そのまま朝食にありついた。
美味し~。朝からこんなの食べられるなんて思ってなかった~。
「葉月。頬張りすぎじゃない?」
私にジュースを置いて、花音は苦笑しながら自分の分の朝食に手を付けている。よく見ると、ほとんど着替え終わっているみたい。あとはブレザーを上に着れば完璧だ。
紺のシャツに白いネクタイ、白のブレザーと、女子は白のスカート、男子は白のズボンで、全学年共通の制服だ。校章の部分は金で刺繍されていて、使ってる生地は高級な質の生地が使われている。
「すっごく美味しいんだもん。ねえ、花音。食費出すから、これからも作って?」
おねだりすると、花音は苦笑しながら頷いてくれた。
「いいよ。こんなに喜んでくれるなんて思ってなかったから、嬉しいな。でも、飽きたらちゃんと言ってね?」
「大丈夫だよ~。こんなに美味しいんだもん!」
「ありがとう。食べ終わったら準備しなきゃね。葉月、髪が凄い事になってるよ」
「んん~? いっつもだよ~。髪短いから、いつも起きた後はこんなものだもん。見かねたいっちゃんがいつも直してくれてた」
「そうなんだ。東雲さんは本当にお世話係だったんだね」
クスクス笑っている花音。それはいっちゃんに言ったら怒られると思う。毎朝、私が駄々こねてやってもらってたんだよね。
「花音~。食べ終わったら直して~?」
冗談で花音に言ったら「仕方ないなぁ」って言ってくれた。花音は苦笑して、食べ終わってから髪を直してくれたよ。マジいい子。いっちゃん、ちょっと見習って?
新しい制服の袖に腕を通す。私は左手首に毎日つけているリストバンドを嵌めて、右手首にいつもの時計をつけた。それから、ネクタイをしどろもどろになりながらつける。なんかネクタイって面倒臭い。中等部はリボンだったんだよね。見かねた花音がやってくれた。
「これで大丈夫だよ」
「えへへ~。ありがと~、花音~」
「フフ、どういたしまして」
そう言って笑う花音はマジ天使。いっちゃん、見習って?
「じゃあ行こっか、花音」
「うん」
いざ、入学式に出発! と、ドアを開けたら、丁度向かいの部屋のいっちゃん達も出てきた。
おや? 後ろの子がいっちゃんの新しいルームメイトかな? 髪をサイドに結わえている。ただ、やたら首や手や耳にアクセサリーがついていた。印象はちょっと派手な女の子って感じ。
「お、葉月。今日はちゃんと起きたな。えらいじゃないか」
「おはよ~いっちゃん。えへへ~。花音が優しく起こしてくれたんだよ~。誰かと違って」
「ほー……朝から喧嘩を売ってくるとはいい度胸だな」
「やだな~いっちゃん。いっちゃんの起こし方も私はちゃんと好きだよ? でもね~花音はなんと! ご飯も作ってくれて髪も直してくれて、おまけにネクタイもやってくれたんだよ!」
「お前はどんだけ桜沢さんに甘えたんだよ! ご飯はともかく、それ以外は自分でやる事を覚えろ! 桜沢さん、いいか、このバカはつけあがるからな! 甘やかしたら駄目だ!」
「あはは……き……気をつけるね」
「いっちゃん、朝からそんなプリプリしてたら血圧上がるよ?」
「血圧上げさせてるのお前だよ!?」
「それもそうだね」
「納得するなら、ちょっとは反省しろ!」
「無理な相談は受け付けられません」
「受け付けろ!」
「まあまあ……東雲さんも葉月も落ち着いて、ね?」
いっちゃんといつものやり取りをして、花音が苦笑しながら止めに入ってくれてたら、「あっはっは!」といっちゃんの後ろから笑い声が出てきた。
「いや~、これが噂の“小鳥遊葉月”か~! ウケる~!」
「おい、笑い事じゃないんだぞ、舞」
「ごめんごめん、一花! でもこんな愉快な人間だなんて思わなかったんだよね!」
「いっちゃん? この人がいっちゃんの新しいルームメイト?」
「ん? ああ、そうだ。ほら自己紹介しろ、舞。お前よりバカなやつがここにいるぞ。自分で挨拶するんだろ?」
いっちゃんの中でバカの最上位クラスが私になっている。否定できないけど。
いっちゃんに促されていた彼女は、笑って目尻に浮かんだ涙を拭いながら、私と花音の前に立った。
「あたしは神楽坂舞。高等部からの外部組。あんたの話は昨日一花と他の寮生から結構聞いたよ。随分な問題児らしいね」
「えへへ~それほどでも~」
「舞は褒めてないぞ、葉月」
「あっはっは! あたし、あんたみたいな問題児好きなんだよね! あたしも散々中学までバカやってきたからさ~!」
「お~ホント~? 舞とはお仲間~?」
「そうかも! だから皆から話を聞いて、仲良くなりたいって思ったんだよね! これからよろしく! 葉月っち!」
「うん。こっちこそ、よろしく~」
『葉月っち』っていう変なあだ名が付けられた。中々元気な子だ。
舞は私に挨拶すると、今度は私の横にいる花音に視線を向けて、ニッと笑った。
「あと、そっちが桜沢花音?」
「え。あ、はい」
「今回の外部受験で首席合格。あたしも実は狙ってたんだよね。どんな顔してる子かと思ってたんだけど……」
「え……えーと……」
舞はジリジリと花音に近付いていく。花音がちょっと怯えた目で見ていた。と思ったら、いきなりガバッと花音に抱きついた。わぁお。積極的ですね、舞さん。
「きゃあ!」
「何、この子! めっちゃ可愛いんですけど!」
「かわ……!? ええ!?」
分かる~。可愛いよね~。いっちゃんが白々しい目で見てるけど、花音は花音で顔真っ赤にしながらあたふたしている。
「あたし、こういう可愛い子めっちゃタイプ! いじってあげたくなる!」
分かる~。
「ちょ、ちょっと! あの……神楽坂さんっ!」
「ハア……舞、おい、落ち着け。桜沢さんが困ってる」
「あっはっは。それもそっか。ごめんね。ねぇ、花音って呼んでいい?」
「は……はぁ……いいですけど……」
離れた舞から隠れるように、私の背中側に移動してくる花音。何、その動き。可愛い。
「あ、敬語なしで! 私も舞でいいからさ!」
「はぁ……」
「いや~、それにしてもさすがは天下の星ノ天学園! 女の子たちは可愛いし! 男子も昨日ちょっと見かけたけど、イケメン率高すぎ! 天国だね!」
「舞って元気だね~」
「葉月とはまた違ったベクトルのバカさなんだよな。あたしも昨日抱きつかれて、モミクチャにされた」
「一花には蹴り飛ばされたけどね! でも、一花可愛いじゃん、ちっこくて」
「お前……もう一辺言ってみろ……その口塞いでやるから」
「ちっさいのは事実だよ、いっちゃん?」
「ほー……お前ら2人ともあれか? そんなにあたしを怒らせたいみたいだな?」
指を鳴らすいっちゃん。いっちゃん武術習ってたんだよね。そこらの男子、というより大人より強いんだよ。
「あっはっは! ごめんごめん一花! つい本音が出ちゃって」
「いっちゃん、まあ、落ち着きなよ? 私はともかく、花音が怖がっちゃってるから」
必殺、花音の名前出し。花音の名前を出すと、いっちゃんが鳴らしてた指と花音を見てから、慌ててその拳を引っ込めた。
「す、すまない、桜沢さん……」
「あはは……気にしないで」
舞はきょとんとしている。いっちゃんはね、花音に弱いんだよ。私も昨日発見したんだけどね。自分の好きなゲームの主人公だもんね。
「何々、一花? 花音には随分甘くない? あたしには昨日の夜、あんだけ酷い対応だったのに?」
「お前と桜沢さんを一緒にするな。大体お前昨日、あたしに何しようとしたか忘れたとは言わせんぞ?」
「え~? いっちゃんに何したの、舞?」
「可愛いから普通にチューしようとしただけだよ?」
「その普通の考えが違うって言ってるんだよ!」
「え~でも葉月っちは分かるよね~?」
「私~? 私はね~、いっちゃんが悔しがる姿が見たいかな~。その悔しそうな顔がまた可愛いんだよ~」
「なるほど!」
「なるほどじゃないわ! お前ら一体何の話をしているのか分かっているのか!?」
「「え? いっちゃん(一花)をどう可愛がるかの話だけど??」」
「見事にハモるな!」
「あ……あははは」
ツッコミ疲れてゼーハーいってるいっちゃん。困り果てたように笑う花音。あっはっはと笑う舞。朝から愉快な雰囲気だね~。
「ところで、葉月っちってさ~。なんか皆が言うより普通じゃない? そこまで問題児に見えないんだけど、話していて」
「んん~? そう~?」
「はぁ……舞。桜沢さんとお前は知らないから言えるんだ」
「ぜ~んぜんそんな風に見えないじゃん? 花音はどう思う?」
「え? そうですね……じゃなかった。そうだね。私も葉月は優しい人だと思うから」
ぎょっとした顔で見ないで、いっちゃん。ちょっと傷つく。そういえば、さっき舞は他の寮生に噂聞いたって言ってたよね?
「ちなみに舞は私のどんな噂聞いたの?」
「え~? 葉月っちが寮の洗濯機の中から現れたとか? 大きい蜘蛛を部屋中に放し飼いにしてたとか? なんか信じられないような話ばっかりなんだよね~。実際話してみると、そんなことしてそうには見えないし」
「あらら~そうなんだ~」
いっちゃんが遠い目をしている。どうしたの、いっちゃん? 何が見えるの?
「その反応、やっぱり嘘なんだ!? はぁ~……そうだよね? 噂ってホント当てにならないよね~」
「まぁ、確かにちょっと事実とは違うかな~?」
「事実は小説より奇なりって言葉を知らないのか、舞?」
「あれ? どゆこと?」
「洗濯機から現れたんじゃない。洗濯機の中で洗われてたんだ、このバカは」
「は?」
「確かに蜘蛛は飼ってたよ? タランチュラ君。可愛かったけど、放し飼いはしてなかったよ? ただ、たまに勝手に虫かごから出て、隣の部屋に遊びに行ってたりしたかな~」
「へ?」
ちなみにタランチュラ君は寮母さんの手によって、さっさと昨日のうちに実家に送られちゃったけどね。花音が「えっ」ていう目で私を見てるけど、彼は今、実家にいるから平気だよ。安心してね?
何だかまだ信じられないという目で見てくる舞。悪戯心が芽生えてくるな~。期待に応えたくなっちゃうよ~?
「ちょっと体験してみる~、舞?」
「体験って?」
「おい、葉月、バカなことはするなよ?」
「大丈夫だよ、いっちゃん安心して?」
「お前から安心という言葉を聞くことがこんなに怖いとは知らなかったよ」
「信用無いな~」
「ないぞ?」
「それもそだね」
「だから納得するなよ?!」
「葉月っち? 何々? 何かする予定なの?」
興味津々だね、舞。
「うん。放課後なんだけど。ちょっと興味あったんだよね~。高等部でしか出来ないこと」
「お~なんか面白そうだね!?」
「あたしは嫌な予感しかしないぞ……」
酷いな~。でも大丈夫だと思うよ? ただ見るだけだから。
「今日からもう部活見学あるでしょ~?」
「そうだな……でもお前部活に興味あったのか? 中等部ではあんなに嫌がってたのに?」
「え~? 星ノ天にはなんか面白い部活があるの??」
「行くのは弓道部~」
「あれ? なんか普通だね、葉月っち?」
「待て、舞……嫌な答えが出てくる気がする……聞かない方がいい」
「葉月、弓道に興味があったんだね?」
花音がちょっと驚いた顔で、背中側から覗いてきた。んん? ないよ?
「入る気はないよ~?」
「あれ? でも見学に行くんでしょ、葉月っち?」
「うん。的の下で、矢がどういう風に飛んでくるか一緒に見学しよ~?」
「は……?」
花音も言葉を失った。舞も何言ってるか分からないという顔をしている。そりゃそうだ。でも興味あったんだよね~。高等部に上がってから、是非行こうと思ってた。
「い……いやいやいや。葉月っち? それって的の近くで矢が来るのを待つというか? え? そゆこと?」
「そだよ?」
「ハァ……」
「いやいやいや、危ないでしょ? 当たったら怪我どころじゃ済まないよね?」
「大丈夫だよ? 当たらなければ痛くないよ?」
「え!? そういう問題!? あっ! わかった! あはは~! もう葉月っちってば、冗談で言う事じゃないでしょ~?! 実際は弓道部の体験ってことでしょ? 的を実際見てみたいとか?」
「何言ってるの、舞? 『矢の威力』を間近で体験するんだよ?」
「葉月っちこそ何を言ってるのかな!? ちょっと一花! あんたの幼馴染が、冗談で言っていい事と悪い事が分からないこと言ってるんだけど!?」
「いつも通りだが?」
「いつも通りだね~」
「え!? え~!? ま、待って? 花音! 私が普通じゃないのかな!?」
「え……え~と……」
ハア、と溜め息をつくいっちゃん。心底疲れている表情だ。大丈夫、いっちゃん? 今から入学式だよ?
「落ち着け、舞」
「い、いや。だってさ」
「大丈夫だ。言っていることが危ないという認識は合っている。お前は間違っていないぞ?」
「あ……そうだよね~! はぁ~……何だ、良かった……でもなんとなく、葉月っちが問題児されてる理由がわかったよ。こういう発言ばっかりしてるからか~。もう葉月っち? さすがに言う事が過激すぎるよ?」
「舞。間違ってはいないが、お前は間違っている。そして、お礼を言おう。よく葉月から聞き出した、偉いぞ」
「え、ん? どういう事かな? 何のお礼?」
おっと? なんか雲行きが怪しきなってきたぞ。そういえば、これはいっちゃんに黙って実行しようとしていたんだった。そろそろ逃げ出した方が良さそうだ。
私はソソソっと、皆に気づかれないように距離を取った。いつでも行ける。大丈夫。
「こいつはそういうことを日常茶飯事で行っているバカだってことだ!」
私がクルっと体の向きを変えて走り出そうとしたところで、後ろからいっちゃんの飛び蹴りが炸裂した。「ぐへっ!」と変な声を出して床に倒れ込む。いっちゃんが私の背中に馬乗りになって私の頭を手で押さえつけた。くそ~。逃げられなかった。
「ええ~!? 一花、いきなり何してるのさ!?」
「見ての通り、逃げ出そうとしているのを押さえつけている」
「あ、あの……東雲さん?」
「桜沢さん、心配しないでくれ。いつも通りだ」
「え……? そうなの?」
ほら、いっちゃん! 花音が困惑しきってるじゃないか! 失敗した! ついつい舞の期待に応えようとしたのがいけなかった!
「ま……まあまあ、一花? 何を怒ってるのか分からないんだけど? まさか葉月っちだって、そんな危険なこと実際やるわけないって」
「何言ってるんだ、舞? こいつはやるぞ? 前、昔のドラマの再放送を見て、川に飛び込んだやつだからな」
「あれ、楽しかったよ~?」
「楽しかったよ~じゃないわ!? どれだけの人に迷惑かけたと思ってる!?」
「不可抗力だよ、いっちゃん。予想以上に流れが速かっただけだよ?」
花音も舞も唖然としている。そりゃそうだ。誰も実際に真似しようとは思わないだろう。ちゃんと分かっていますが、何か?
「ホントにお手柄だ。舞。今回は事前にこいつがやろうとしていることがわかった。これはかなりのアドバンテージだ」
「そ、そう……? そりゃ良かった……の?」
「おい、葉月。そういう事をするのは危険行為だ。お前も分かっているんだよな?」
背中に乗っているいっちゃんに何とか振り向く。ホント意外と力強いんだよね。
「もちろんだよ、いっちゃん」
「そうかそうか。分かってくれるならいいんだ。じゃあ、今後弓道場には近付かないな?」
「え? 無理だよ」
「ほー……? 一応聞こうか? 何でだ?」
「いっちゃん。ここは学園だよ? そして私たちは生徒だよ? どこへ行くのかを禁じられるのは理不尽じゃないかな?」
「そうだな。普通の生徒だったら、今のお前の意見はまかり通るだろうな。だが、お前は何しに弓道場に行くと言った?」
「さっきも言った通り、見学だよ、いっちゃん?」
「そうだな、見学だな。だが、見学する場所が問題だ。的の下? そこで矢が飛んでくるのを見る? 葉月、お前だったら的の下に人がいて、そこに矢を射られるか?」
「私だったら出来ないね~」
「何故だ?」
「ん~……その人に当たるかもしれないからかな」
「そこまで分かっていても、お前はその場所で見学するというのか?」
「避けようと思えば避けられるから問題ないよね?」
「どんだけ自分の身体能力に自信があるんだ、お前は!?」
え~、大丈夫じゃないかな~? あ~……花音がオロオロしている。舞も顔が引き攣ってるよ? 大丈夫?
「はぁ……とにかく! 弓道場へ行くのは禁止だ。弓道部の人にも言っておくからな!」
「え~、つまんない~……」
「つまんないじゃないわ! もし万が一お前がフラッと的の前に現れて、そしてその矢がお前に当たってみろ! その部員の一生のトラウマになるわ!」
「それもそうだね」
「だから納得するなら、やろうとするな!? そして、今後そういう行動を控えろ!」
「いっちゃん。私はね、こう思うの。好奇心が人を動かす原動力だって」
「やかましいわ!!?」
ちぇ~。これじゃあ、ホントにもう弓道場への立ち入り禁止だよ。
「ちょっと、あなたたち……何やっているの……?」
声がした方向に目を向けると、寮長が制服姿でこっちに歩いてきた。
「はあ……東雲さん、小鳥遊さん。またあなたたちなの? 今度は何? 今日はあなたたちの入学式でしょうが……なんでそういう日にこう暴れられるのかしら?」
「寮長。あたしは悪くないぞ? あたしはこいつが今後やらかすことを未然に防ごうとしただけだ。そして、寮長にお願いがある。丁度いい」
「……聞きましょうか」
「いっちゃん、寮長は関係ないんじゃないかな~?」
「お前の意見は聞いてないから、黙っておけ」
いっちゃんは私の計画を寮長に全部チクって、寮長がガックリと肩を落とした。弓道部部長には自分から話を通すと言って、これで晴れて私は、弓道場への出入り禁止になったとさ。やれやれ。
「一花……確かにあんたの幼馴染は問題児だわ~……」
「ふっ……今回は防げたから良かったんだ。いつもはこいつがやらかしてから対処に回ってたからな……」
「いっちゃんって苦労人だね」
「お前が苦労かけてるんだけどな!?」
心底げんなりしてるいっちゃん。何さ~。今回私は出来ないからちょっと不満なんだよ~?
むーっと頬を膨らませてると、花音が腕をクイクイと引っ張ってきた。
「ん~? な~に、花音?」
「あの……葉月? あんまり危ない事はしちゃ駄目だと思うよ?」
眉が下がって心配そうな表情をしている。ん~そんな顔されるとな~……え~……そんな顔しないで~……だめだめ、そんな純粋な目で見ないで~……。
「ぅっ……も~わかったよ~……今回は諦める~……」
私の言葉を聞いてホッとしたような顔をする花音。そして何だか分からないけど、頭撫でられた。むー。そんなことされたら、諦めるしかないじゃんか。
「おい葉月? 今、今回はって言わなかったか?」
「気のせいだよ、いっちゃん」
「いや、気のせいじゃないだろ?! 吐け! 何を企んでいる?!」
「人を信じられないって悲しいことだと思うよ、いっちゃん」
「信じさせてくれないのはお前なんだが!?」
「花音、行こ~。入学式始まるよ~」
「は~づ~き~!」
「あはは……」
そのやり取りを見ていた舞が後ろでボソッと呟いていた。
「完全に一花って遊ばれてるな~……というか、葉月っちに比べるとあたし普通だったんだな~……」
お読み下さりありがとうございました。