135話 イベント行かないの?
花音と楽しくお出かけしたら、何故か理不尽な理由で玉ねぎ出されてしまった。おかしい。プレゼントも喜んでくれたのに。
それからは毎日チラチラとキッチン覗いてる。
まさか理不尽な理由で玉ねぎ出されるようになるとは思わなかったから。
でも、花音がそれ見て「この前はごめんね」って言ってくれて、これからは普通にご飯出してくれるって約束してくれた。
けど怖さは今も残ってるんだよ、花音! 八つ当たりで玉ねぎ出されたんじゃたまんないんだよ! むー! そんな私を見て苦笑してたけど。
「ねぇ、いっちゃん。次はどんなイベントなの~?」
「………………」
「ねえ、いっちゃん。次はどんなイベントなの~?」
「………………」
「ねえ、いっちゃん。次はどんなイベントなの~?」
「………………」
いっちゃんの反応がありません。なんで?
いっちゃんが読書モードに入ってるから邪魔しようと部屋にきたんだけどね。いつもは「やかましい!」ってツッコミがくるのに今日はこないんだよ。ちなみに花音と舞は私の部屋でお喋りしてるけど。
「お~い、いっちゃん」
「………………」
「いっちゃ~ん」
「………………」
「いっちゃんいっちゃんいっちゃんいっちゃん」
「………………」
ツンツンしたり、眼鏡上げ下げしたり、変な髪型にしてみたり、足の裏くすぐってみたりしたんだけど反応ない。
おかしい。さすがにおかしい。どうしたの?
「…………葉月」
おっ、やっと反応してくれた。あれ、めちゃくちゃ怒ってる?
「お前に1つ言ってやる……」
「なんだい、いっちゃん?」
「鬱陶しいから邪魔するな」
あ、ガチ怒りだ。指ポキポキしてる。そだよね。読書邪魔されるの一番嫌うもんね。でもそれが目的です。
ニコニコして、えへへ~って笑って、さあこれからどう逃げようかなぁって考え――
「あと今回のイベントは見にいかない」
――――ていたら、いっちゃんが爆弾発言したよ……え、今なんて、いっちゃん?
「……いっちゃん、今」
「今回のイベントは行かない」
「いかない……?」
「行かない」
「行く?」
「行かない」
「いっちゃんが行かない?」
「行かない」
即答でいっちゃんが返してきた。そしてまた読書に戻っていた。
あの、いっちゃんが見にいかない? 子供の頃から、このイベントたちを楽しみにしてきたいっちゃんが行かない?
一大事です!
急いで花音と舞のところに戻ったよ! だって! だって! いっちゃんがおかしくなっちゃったよ!
戻ったら何故かレイラもいた。いつの間に――って今はそれどころじゃない!
「まままま舞! かかかか花音!!!」
皆がきょとんとした顔で私を見てきたけど、構っていられない!
「たたたたた大変なんだよ!!」
「どうしたの、葉月。落ち着いて?」
「そうだよ、葉月っち。落ち着きなよ?」
「おおおお落ち着いてられないんだよぉぉぉ!?」
「何か嫌な予感しかしませんわね」
嫌な予感!? これは一大事なんだよ!? あのいっちゃんがイベント行かないっていうんだよ!?
とりあえず花音がハーブティーを淹れて、それを無理やり私に飲ませた。あ、ホッとする。ってそうじゃない!
「花音! 今はこれ飲んでる場合じゃないんだよ!」
「でも葉月っち、今すごく落ち着いた顔してたけど」
「舞! これは魔法のハーブティーだから、効力はすごいんだよ!」
「いきなりファンタジー要素が出てきたね!?」
「普通のハーブティーですわよ?」
「レイラのツッコミはつまんないんだよ!」
「つまっ――!?」
「ほら、葉月。まず落ち着いて。それから話聞くから、ね?」
そしてまた無理やり飲まされた。あ、ホッとする。
「それで、葉月。何があったの?」
「か……花音……いっちゃんが……いっちゃんがおかしいんだよ」
私の言葉を聞いて、また皆がきょとんとした。だけど舞がすぐ呆れたようにしている。
「葉月っち? 今度は一花に何したの?」
「何もしてないよ?」
「葉月、本当のこと言ってね。何したの?」
「花音、何言ってるの? 何もしてないよ?」
「どうせ怒らせるようなことしたに決まってますわ。何しましたの?」
「だから、本当に何もしてないよ?」
ジトっと舞とレイラが見てくるけど、何もしてないよ?
「読書邪魔しただけだよ?」
「それだよ、葉月っち!!」
「心当たりあるんじゃありませんの!!」
はあ、と花音がため息ついてるけど、それは通常だよ? 花音が苦笑しながら頭をナデナデしてくる。
「葉月、だめだよ。前もそれやって怒られたでしょ?」
「花音。これはね、私といっちゃんの通常なんだよ。それに今日は穏やかだよ? 足の裏くすぐっただけだもん」
「地味に嫌な嫌がらせだよ、葉月っち……」
「舞、あなた、ただのくすぐりだと思ってますわね。甘いですわ。葉月のくすぐりは地獄ですわよ」
「どんなくすぐりなの、それ!?」
「わたくし、子供の時にやられて一日記憶ありませんもの」
「どんだけなの!?」
あれはレイラがバカなだけだよ? 足の裏をくすぐる靴下作って履かせただけだもん。気づけば脱げるやつだもん。いっちゃんなんか1分もしないで脱いでたもん。
「今日のは違うんだよ! そういうおかしさじゃないんだよ!」
「どういうおかしさなの、葉月?」
「いっちゃんが好きな事をやめるって言ったんだよ!!」
「一花の好きな事? 読書じゃないの?」
「違うやつなんだよ! それも子供の時から好きな事なんだよ!」
「そんなの一花にありました?」
あ、しまった……ここにいる皆は知らないんだよ。私といっちゃんが前世の記憶があること。しかもいっちゃんの世界の乙女ゲームの世界がこの世界なんだってこと、レイラにも言ってないんだよ。
い、言えるわけない……その乙女ゲームのイベントを見ることが、いっちゃんの一番好きな事だなんて……。
「その一花ちゃんの一番好きな事って何?」
花音が純粋な目で見てくる。
い、言えない……花音と会長のラブストーリーを見ることですなんて、言えるわけない……どどどどどうしよう、皆が気になっちゃってる。
あ、そうだ。乙女ゲームと本を入れ替えよう。
「いっちゃんはね……実は乙女な物語が大好きなんだよ!!」
皆が「は?」って顔してるけど、嘘は言ってないよ! 乙女ゲームを本にしただけだからね!
「一花が? そんな本読んでるの見たことないけど」
「いっちゃんはね、舞に隠して読んでるんだよ!」
「一花ちゃんに前勧められた本はミステリーだったよ?」
「それはね、花音! カモフラージュだよ! 皆には恥ずかしくて言えなかったんだよ!」
「あの一花がですの? 小さい頃は医学の本を読み漁っていたのに?」
「あれから何年経ってると思ってるの、レイラ!? 趣味は変わるんだよ!」
「でも葉月っち? どんな乙女な本なの? 皆に言えないような内容なの?」
え、どんな本?
チラッと花音を見てみる。首を傾げてこっちを見てくる。
え~……どんなイベントあったっけ? はっ!! あれだ!!!
「こってこてのご都合主義の本なんだよ!」
「「「ご都合主義???」」」
「そうなんだよ! 絶対現実ではありえない夢物語! 本人たちの都合のいいように、完全に話が進んでいく本なんだよ!」
「でもそれのどこが乙女なの、葉月っち?」
……あれ? 確かにそうだな。どこにも乙女要素ないな。正直私もよく分かんないんだよな。
チラッとまた花音を見る。今度は反対方向に首を傾げている。会長と花音のイベント見ても特に何も思わないんだよな。少しモヤっとするぐらいで。
でもいっちゃん、いつもキラッキラの目で感動して見てるよね。キラッキラ…………はっ! そうか! 舞が前に言ってたドラマじゃないか!
「舞……舞には特にいっちゃんは言えなかったんだよ」
「え、どういうこと?」
「舞は前にドラマ勧めてくれたでしょ?」
「あ、そうだね。あれ今度セカンドシーズンやるんだって」
「あのドラマ見て、舞はドキキュンするって言ってたよね」
「そうだった? でもあたしは結構好きだけどなぁ」
「いっちゃんはね……キュンキュンドキドキする乙女な展開の、ご都合主義の本が本当はすっごい好きなんだよ!!」
合ってる……はず!! 多分、乙女ゲームってそういうものの……はず!!!
「ほう……そうかそうか。それで?」
うん! 押し通す!!
「いっちゃんはね! ちょっと引くぐらい、そういう乙女展開が好きなんだよ!」
「そうか、それで?」
「実際絶対ドキドキしないことに、ものすごくドキドキしてしまう性格なんだよ!」
「それで?」
「けど、そんなの皆に言うと恥ずかしいからね! ずっと隠してたんだよ!」
「それで?」
「私しか知らないからね! まさか、いっちゃんがこってこての恋愛本を読むのが好きだなんて誰も思わないし!」
「なるほど」
「でもそれをやめるっていうんだよ!? おかしいでしょ!? どうしたらいい!?」
って……ん、あれ? 何で皆して黙ってるの? そして何で後ろ見てるの?
あれれ? 私、今誰と話して……。
「続きはどうした、葉月……? 聞かせてもらおうか?」
あ。いっちゃんだ。髪も元に戻ってものすごい冷めた目で見下ろしてる。これは、あれだ。何あることないこと話してるんだっていう目だ。
「誰が……何だって?」
「いっちゃん、ちょっと落ち着こうよ」
「あたしはこの上なく落ち着いてるぞ?」
「いっちゃん、何やら誤解してるようだね?」
「何が誤解なんだろうなぁ?」
え? でも乙女ゲームの展開見るのが好きなのは事実だよね? あ、いっちゃんが爆発しそう。逃げた方がよさそうだね。うん、逃げよ。
「誰がいつ、キュンキュンドキドキする乙女な展開のご都合主義の本が好きだって言ったんだ!? もういっぺん言ってみろ!!!」
「ぐふっ!!!」
逃げるより先にいっちゃんの蹴りが炸裂しました。
テーブルの方に吹っ飛ばされたけど、上には何もなかったよ。皆がちゃっかり避けてた。花音が呑気に「このテーブルあとどれぐらい持つかなぁ」って言ってたけど、そっちの心配!?
いっちゃんがテーブルの上にいる私の胸倉をつかんで、ポイっと今度はドアの方に放り投げたよ。最近またいっちゃんの力が強くなってる気がするよ。
「おい、葉月。誰がいつそんな本読んでたんだ? 答えてみろ」
「違うよ、いっちゃん。私はね、純粋に心配してたんだよ」
「いらん心配だがな。そんな本読んだことないわ」
「確かにそうだけど、そうじゃなくてだね」
「ないことないこと話されてみろ。他の人が聞いたら脳内お花畑の人間にしか聞こえん」
あ、ないことにしたいんだね。そこはちゃっかりしてるね。さすがいっちゃん。そして、これ以上余計なこと言うなって目で見てくるね。
「あ~大丈夫だよ、一花。あたしら全然信じてないからさ」
「そうですわ。さすがに一花がそういう本を好きだなんて思いませんもの」
くっ! さすがいっちゃん! 信頼が厚すぎる!! 私とは雲泥の差だね!
はあ、といっちゃんが呆れるように肩を竦めてるけど、皆、いっちゃんは好きなんだよ! 本当にこの乙女ゲームが好きなんだよ!!
「……はぁ……お前が心配してるのは別のことだろ。問題ない。大丈夫だ」
……あ、乙女ゲームの話だ。でもさ、あのいっちゃんがイベント見にいかないなんて心配するよ。ただでさえ、私のことで縛ってるのにさ。
「でもさ、いっちゃん」
「これ以上の話は終わりだ。もしするなら、窓から縛って吊ってやるからな」
え、何それ? 面白そう! 乙女ゲームもういいや。
「大歓迎です!」
「歓迎する話じゃないわ!?」
「いっちゃん! それやって! 楽しそう!」
「嬉しそうにするな!? 罰にならんだろ!?」
「仕方ないな~。じゃあ、ちょっとロープ持ってくる」
「行かせると思うのか!?」
いっちゃんの2度目の蹴りが炸裂して、皆が深くて長いため息をついたのは言うまでもない。
あれ?
でも何で今度のイベント本当に行かないんだろ?
前みたいに興味ないイベントだったりするのかな?
それだったら納得だね。
お読み下さり、ありがとうございます。
尚、この物語も十分ご都合主義で構成されておりますので、ご了承ください。




