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132話 やっぱり少し妬けるかな —花音Side※

 

「よっし、完璧」

「ありがとう、舞」


 鏡を見ながら後ろにいる舞は満足顔だ。でも私もびっくりだよ。本当、舞はメイクが上手いなぁ、これ本当に私? 別人に見える。夏祭りの時も思ったけど。髪もふわりと巻いてくれた。


「ふっふ! これで葉月っちもイチコロさ!」

「舞、声、声が大きいから!」


 一花ちゃんが自分の部屋にいるとはいえ、聞こえたらどうするの!? 聞こえないとは思うけど。


 今日は待ちに待った葉月とのデートの日。


 ちなみに葉月は寮の入り口のところで待っててくれている。というより舞がさっき追い出しちゃった。


 私の身支度を手伝ってくれるためにきてくれたんだけどね、葉月を驚かせた方が絶対いいと、何故か私より張り切っていた。葉月は葉月で首傾げながら出ていったけど。


 か、可愛いって思ってくれるかな、葉月。少し緊張してきた。


「どっからどう見ても可愛い女の子だって! 大丈夫!」

「そ、そう?」

「このあたしが言うんだから間違いなし! ほら、楽しんできなよ!」


 バシッと背中を叩かれた。あの、舞。励ましてくれるのは嬉しいんだけど、少し強いよ。思わずよろけちゃった。でもその気持ちが嬉しいけど。


「ありがとう、舞。行ってくるね。舞も一花ちゃんとゆっくり過ごして」

「そっちもね! お互い、がんばろ!」


 舞は舞で今日は一花ちゃんから離れないらしい。どうやってアプローチするのか聞いてないけど、舞も一花ちゃんに意識してもらうために何かをするつもりみたい。……一花ちゃんに伝わればいいけど。


 舞に見送られて、寮の部屋を出る。葉月のこと待たせちゃったな。映画の時間もギリギリかも。


 入口のところで葉月が門の壁に寄り掛かっているのが見えた。やっぱり緊張してきた。葉月の私服っていつも似合っているんだもの。


 今日は少しボーイッシュだけど、でもそれが葉月に似合っていて、しかも着こなしているから余計綺麗に見える。モデルさんみたい。


 そんな葉月と一緒に歩いていて見劣りしないか心配になる。


 周りから安い服着てて変だって思われたらどうしよう。葉月が変に思われないといいな。舞は今日の服似合っているって言ってくれたけど、優しさかもしれないし。葉月がセンスないとか思われないといい、本当に。


「ごめんね、葉月。外で待たせちゃって」


 ドキドキしながら時計を見ている葉月に声をかけると、目を見開いて見てきた。こ、これはどういう反応? 似合ってない? 隣歩きたくないとか思っちゃった?


 と勝手に思い込んでたら、すごく綺麗な微笑みを浮かべてきた。思わずドキッとしてしまったよ。


「いつも可愛いけど、今日はすごい可愛いね~花音」


 カアアっと頬が熱くなるのを感じる。そ、それ、反則。その笑顔でそんな嬉しい事言ってくれるとか、反則過ぎる。嬉しすぎる。


 でも舞、やったよ。葉月が可愛いって思ってくれたよ。やっぱり舞のメイクに頼って良かった。もう口元が緩むのが分かって、慌てて手の甲で押さえた。


「あ……ありがとう」

「でも、その服初めて見た~。この前舞と買ってきた服?」

「うん……そう」


 しかも服もちゃんと見てくれてる。それに満足そうだから、きっと可愛く見えてくれているはず。そう思うとたまらない。ずっと頬が熱いまま。


 恥ずかしくなって手で顔を押さえようとしたら、葉月が止めてくる。


「だめだよ~花音~。手で押さえちゃ~」

「……そ……そうだね……」


 た、確かに。見てほしくて舞にも協力してもらったのに、これで隠したら意味がない。


 でも赤くなっている顔は恥ずかしいし、どうしたら……と違う方向のことを考えてたら、目の前の葉月がクスクスと笑い出した。


「エスコートしてあげよっか?」

「……えっ?」

「だって今の花音、完全にお嬢様だもん」

「そそそそんなんじゃないよっ!? そ、それにお嬢様は葉月の方が……?」

「ほら、いこ~花音お嬢様。映画遅れちゃうよ~?」


 ぐいっと手を握られて引っ張っていく葉月。思わず慌てちゃったけど、でも楽しそう。今日の選んだ映画、葉月にとって面白いって思ってくれるものだといいな。


 葉月にエスコートされながら(引っ張られながら)、映画館に向かうと前評判がよかったのか人で賑わっていた。よかった、チケット買っておいて。ポップコーンと飲み物を買って席につく。


「ポップコーン久しぶり~。映画館も」

「そうなの?」

「うん。あんまり人混み多いところこないようにはしてたから~」


 そういえば夏祭りの時もそう言ってた。あれ、じゃあこの映画館失敗だったかな。と思ってたら全くの杞憂だったみたい。だってポップコーン美味しそうに食べてるし、映画も楽しそうに目を輝かせながら見ていたから。


 やっぱりアクション映画にしてよかった。この映画も評判通りで面白かったしね。私も途中からはアクションに魅入っちゃったし。


「たまにはいいかもね~映画館で見るのも!」

「ふふ、そうだね。面白かった」

「あのアクション私も出来そう! 今度やろ~!」

「ダメだよ。車から車に飛び移るのは危ないからダメ」

「むー! やってみなくちゃ分からないよ~?」


 興奮冷めやらぬ様子の葉月は、大層あの映画のアクションが気に入った様子。これはあとで一花ちゃんに報告しておこう。葉月だったら楽しそうって言ってやりそう。


「映画終わったけど、お昼どうするの~? 帰る~?」


 時計を見ながら言ってくる。うん、想定内。


「折角だから、たまには外で食べない? この前舞と一緒に食べたパンケーキがすごく美味しかったんだけど」

「食べる」

「ふふ。じゃあ、行こうか」


 甘いモノに目がない葉月だからね。パンケーキの話は乗ってくると思ったんだ。それに寮でもホットケーキ好きだしね。


 お店に着いて、葉月はやっぱり生クリームを増し増しで頼んでいた。あまりにもすごい量で出てきたから思わず笑っちゃったよ。周りを見ても、この量を頼んでいる人なんていないんだもの。でも満足そうにそれを食べているから、その顔見れただけで満足かも。この店を選んでよかった。


 食後に口直しのために飲み物を頼む。私は紅茶、それと葉月はコーヒーを頼んでいた。頼んだコーヒーが運ばれてきて、葉月はそのままブラックでコーヒーを飲み始める。


 そういえば、寮でもコーヒーはブラックで飲んでいるかも。


「葉月って甘党なのに、コーヒーだけはブラックだよね?」

「んん~? そだね~」

「何か理由があるの?」


 紅茶もジュースも甘いのをいつも飲んでいるのに、このコーヒーだけは砂糖もミルクも入れない。不思議には思ってたんだ。


 この際だから聞いてみたら、聞かれた葉月はカップから口を離して、じーっとそのコーヒーを見ている。


「…………落ち着くから……かな~……」

「そうなんだ……」


 そうなんだ。葉月にとってブラックコーヒーは落ち着くのか。また一つ知らなかったことが知れて嬉しくなる。デートっていいものかも。寮では知れない葉月のことを知れたもの。


 勝手に嬉しくなっていたら、葉月が何故かあの綺麗な微笑みを浮かべていた。不意打ちすぎる。思わずテーブルに突っ伏しちゃったよ。その笑顔、本当、心臓おかしくなる。


 戸惑っている空気が漂ってきたけど、すぐには顔あげられない。今顔が熱いから、絶対赤くなってる。


 ちょっと落ち着くまで……と思っていたら、カチカチと音が聞こえてきた。何だろうと思って顔を上げると、葉月は携帯をいじってる。思わず苦笑しちゃった。


「一花ちゃん?」

「うん。いっちゃんは心配性だからね~……」


 一花ちゃんも葉月に連絡させるって言ってたものね。今日も出てくる前は一花ちゃんが葉月に注意してたな。離れている時もこうやってずっと連絡取り合っているのってすごいよね。さすがに私は蛍と茜にそこまで頻繁にしてないし。


「……本当に葉月と一花ちゃんは仲がいいよね」

「……そうだね」


 フッと携帯を見る葉月の目が優しくなる。


「……いっちゃんは……特別だから」


 その言葉が、声が優しくて、思わず胸がギュッと締め付けられた。「そっか……」と返す言葉が細くなるのを自分でも気付ける。


 そうだよね、やっぱり一花ちゃんは葉月にとって特別だよね。


 きっと一花ちゃんは葉月がコーヒーをブラックで飲むことも知っているし、あのハーブティーを飲むと安心することも知っている。


 その他にもいっぱい、一花ちゃんは葉月のことを知っている。


 それがとても寂しく感じるのは、私の都合だね。


「花音?」

「ん……?」


 紅茶を飲んでたら、葉月が何故か心配そうに声を掛けてきた。


「どうかした?」

「……どうもしないよ?」


 顔に出てたみたい。ごめんね、心配させちゃったね。勝手に少し落ち込んでいただけだから。だから葉月がそんな心配そうな顔しなくても大丈夫だよ。


「きっと一花ちゃんは――」


 だけど少しだけ――本音が零れる。


「一花ちゃんは私の知らない葉月を、いっぱい知ってるんだろうなって……そう思っただけだよ……」


 そう思うと、やっぱり少しだけ妬いてしまう。

 私の知らない葉月をいっぱい知っている一花ちゃんに、嫉妬しちゃうんだよ。


 寂しいなって、羨ましいなって感じちゃうんだよ。


 そんな本音を言えなくて苦く笑っていたら、葉月は少し不安そうな表情になっていた。そんな顔させるつもりじゃなかったんだけど、葉月は気遣い屋さんだから心配させちゃった。


 大丈夫だよって言おうと口を開きかけたところで、でも葉月の口の開きの方が早かった。


「大丈夫だよ、花音」

「えっ……?」


 私じゃなく逆に葉月が大丈夫だって言ってきて、思わず目を丸くする。


「知らなくても、大丈夫だからね」


 それは……葉月の過去の事?


「だから……」


 葉月の優しい目がこっちを見ていて、腕が伸びてきた。安心する笑顔を浮かべてくれている。


 その綺麗な微笑みに見惚れてしまう。


「そんな顔、しなくていいよ」


 そっと葉月の指が私の頬に触れてきて、すぐ離れていってしまった。ドクドクと心臓が脈打っているのが分かる。それと同時に葉月の優しさが、沁み込んでくる気がした。


「葉月……」


 ふふって笑ってくれる葉月。


 そうだね。

 そうだよね。


 たとえ過去のことが分からなくても、

 今、目の前にいる葉月を、

 知っていればいいんだよね?


 そう思うと、自然と安心して口元が緩んでいく。


「……そうだね……葉月」


 きっと大丈夫。

 葉月の今を知っていけばいい。

 過去は分からなくても、今の葉月なら少しずつでも知っていける。


 また一花ちゃんに妬いちゃう時もあるだろうけど、でもきっと大丈夫。


 言い聞かせるように自分の心の中で唱えていると、葉月が空気を変えようとしたのか晩御飯の話を切り出してくる。


 だめだよ、昨日もオムライスだったでしょ? それに舞に今日はメイクのお礼も兼ねて好きなモノ作るって約束してあるしね。


 他愛もない話をして葉月は笑ってくれる。


 私もつられて笑顔になる。




 少しの嫉妬の心に、無理やり蓋をするのが大変だった。

お読み下さり、ありがとうございます。

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