表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/366

131話 映画館

 


「ん~? 2人で~?」

「うん。そういえば、2人で遊んだことなかったな~って思って……」


 花音が突然そんなことを言いだした。


 確かにそうだけどね。入学して半年。その間、皆で遊びや買い物とかは行ってるけど、花音と2人だけはないかもね~。私は常にいっちゃんと一緒だし、花音は舞と同じクラスだからか、舞と2人で買い物とかよく行ってるしね。この前もそうだったし。


 いや、でもな~……いっちゃんいないとな~……前に1人で行った時、都合よくおバカさんたちに絡まれて暴れちゃったしな~。スッキリしたけど。


 ――でも……最近はまた中等部の時みたいに抑えれるようになってきたしな~。ん~……。


「……いっちゃんがいいって言ったらいいけど」

「一花ちゃんなら大丈夫だって言ってたよ?」


 あ、そう? もういっちゃんに聞いてたの? じゃあ、いいよ。監視はつくけど、基本あの人たち出てこないしね。花音には悪いと思うけど、見えないものはいないのと同じだからね。


「どこ行きたいとかあるの~花音?」

「実は見たい映画あったんだけど、どうかな?」

「うん? 別にいいよ~」


 というわけで、次の休みに花音と映画を見に行くことになった。いっちゃんに言ったら、時間決めて連絡するように言われたけど。



 □ □ □ □



 さてさて。私は今部屋じゃなくて、寮の入り口の門のところにいます。


 今日は花音と映画行くんだけどね。花音と舞に(というか舞に)何故か部屋追い出されました。準備終わるの待っていたら、門のところで待っててって言われちゃった。さっぱり意味が分かりません。同じ部屋なのに。


 そういえば映画何時なんだろ? 花音が調べてるはずだけど。アクション映画だって。花音がアクション好きだなんて知らなかったけどね。前評判はいいみたいだよ。


「ごめんね、葉月。外で待たせちゃって」


 時計を見てると、花音の声がした。振り返って、思わず目を丸くしちゃったよ。


 だってこれは……まさかの完全お嬢様コーデじゃないの?


 淡い桜色のワンピースに白の薄いカーディガンを羽織ってる。髪も緩くいつもより少しふんわり巻いてるし。あれ、もしかして薄くメイクもしてるね。まあ、メイクは軽くいつもしてるけど。


 今日は何か趣が違う感じ。うん。完璧だね。えっ私はって? いつもどおりですよ~。ボーイッシュな感じ。Tシャツとベスト。短パンと動きやすい服ですね。


「いつも可愛いけど、今日はすごい可愛いね~花音」


 あっ、真っ赤になっちゃった。可愛いって言うと真っ赤になるのは、会った時から変わらないんだよね~。


 手の甲で口を押えて「あ、ありがとう」って言ってきたのは可愛すぎました。


「でも、その服初めて見た~。この前舞と買ってきた服?」

「うん……そう」


 まだ顔の火照りが収まらないのか、今度は手で顔を押さえ始めちゃった。そんなことしたらせっかくのメイクが台無しだよ~?


「だめだよ~花音~。手で押さえちゃ~」

「…………そ、そうだね」


 どっからどう見ても、いいとこのお嬢様ですね。あ~じゃあ、せっかくお嬢様だから。


「エスコートしてあげよっか?」

「……えっ?」

「だって今の花音、完全にお嬢様だもん」

「そそそそんなんじゃないよっ!? そ、それにお嬢様は葉月の方が――?」

「ほら、いこ~花音お嬢様。映画遅れちゃうよ~?」


 花音の手を握って引っ張ると「えっ、ちょっ……葉月!?」って慌てる声を出してて可愛かった。ん? でもこんな強引にいったんじゃ、全然エスコートじゃないか。ま、いっか。



 映画館には滞りなく着いた。結構、人がいっぱい。いっちゃんに一応メッセで着いたって送って、キャラメル味のポップコーン買って席についた。そういえば、映画館で見るのかなり久しぶりかも。


 映画は面白かったよ。悪人と善人がはっきり分かれてて、アクションもスタントなしで本人たちがやってて見所もあったし、最後は悪人が倒されてスッキリしたし。途中、花音がハンカチで私の口拭いてたけど。


「映画終わったけど、お昼どうするの~? 帰る~?」

「折角だから、たまには外で食べない? この前舞と一緒に食べたパンケーキがすごく美味しかったんだけど」

「食べる」

「ふふ。じゃあ、行こうか」


 花音に案内されたお店はちょっとおしゃれな感じのパンケーキ屋さんだった。


 生クリーム増し増しで頼んだら、ものすごい量の生クリームが乗ってきたよ。それを見た花音が笑ってた。本当はこんな量まで頼まないんだって。でも甘い方が美味しいよね?


 食後にコーヒー頼んで香りを楽しみながら口に含む。うん、あの喫茶店のコーヒーの方がおいしいかな。


「葉月って甘党なのに、コーヒーだけはブラックだよね?」

「んん~? そだね~」

「何か理由があるの?」


 ん~。前世からの習慣とは言えない。


「……落ち着くから……かな~」

「そうなんだ……」


 そう言って、嬉しそうに花音は微笑んでいた。


 今日の花音は本当に可愛いね。思わずこっちまで笑みが零れてしまう。


 ってあれ? なんで、いきなりテーブルに顔突っ伏すの? いきなりどうしたの?


 あ、いっちゃんからメッセきてた。「大丈夫か」だって。大丈夫だよ~って返事をする。それを復活した花音が苦笑して見ていた。


「一花ちゃん?」

「うん。いっちゃんは心配性だからね~」


 心配させてるのは私だからね……。


「……本当に葉月と一花ちゃんは仲がいいよね」

「……そうだね」


 私が引き留めてるだけだけどね。


「……いっちゃんは……特別だから」

「…………そっか」


 コーヒーを飲みながら返すと、ちょっと寂しそうな声で花音が答えてきた。


「花音?」

「ん……?」

「どうかした?」

「……どうもしないよ?」


 そう? ちょっと元気なくなっちゃった感じがしたけど。


「きっと一花ちゃんは――」


 ん?


「一花ちゃんは私の知らない葉月を、いっぱい知ってるんだろうなって……そう思っただけだよ」


 花音?


 花音は知りたいの?



 だめだよ。


 知らなくて、



 いいんだよ。



「葉月?」


 そのままでいてほしいんだよ、花音。


「大丈夫だよ、花音」

「えっ……?」

「知らなくても、大丈夫だからね」

「……」

「だから……」


 少し寂しそうな花音を見る。


「そんな顔、しなくていいよ」


 寂しそうな顔をしてほしくなくて、腕を伸ばして花音の頬に触れ、親指で少し撫でてから離してあげた。


「葉月……」


 少し頬が赤い花音が、目元を僅かに緩ませた。



「……そうだね、葉月」



 そして、いつもの柔らかい微笑みを浮かべてくれる。


 うん。


 やっぱり花音はそっちの方が可愛いよ。



「ね~花音。今日の夕飯な~に?」

「今食べたばかりなのに、もう夕飯の話?」

「オムライスがいい」

「駄目だよ、昨日もオムライスだったのに。今日は一花ちゃんと舞も来るから、2人の好きなものにしようかな」

「え~」



 花音と他愛ない話をする。


 花音は笑ってる。


 ずっと、



 ずっとそのまま、




 ずっとそのまま笑ってて?



お読み下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ