131話 映画館
「ん~? 2人で~?」
「うん。そういえば、2人で遊んだことなかったな~って思って……」
花音が突然そんなことを言いだした。
確かにそうだけどね。入学して半年。その間、皆で遊びや買い物とかは行ってるけど、花音と2人だけはないかもね~。私は常にいっちゃんと一緒だし、花音は舞と同じクラスだからか、舞と2人で買い物とかよく行ってるしね。この前もそうだったし。
いや、でもな~……いっちゃんいないとな~……前に1人で行った時、都合よくおバカさんたちに絡まれて暴れちゃったしな~。スッキリしたけど。
――でも……最近はまた中等部の時みたいに抑えれるようになってきたしな~。ん~……。
「……いっちゃんがいいって言ったらいいけど」
「一花ちゃんなら大丈夫だって言ってたよ?」
あ、そう? もういっちゃんに聞いてたの? じゃあ、いいよ。監視はつくけど、基本あの人たち出てこないしね。花音には悪いと思うけど、見えないものはいないのと同じだからね。
「どこ行きたいとかあるの~花音?」
「実は見たい映画あったんだけど、どうかな?」
「うん? 別にいいよ~」
というわけで、次の休みに花音と映画を見に行くことになった。いっちゃんに言ったら、時間決めて連絡するように言われたけど。
□ □ □ □
さてさて。私は今部屋じゃなくて、寮の入り口の門のところにいます。
今日は花音と映画行くんだけどね。花音と舞に(というか舞に)何故か部屋追い出されました。準備終わるの待っていたら、門のところで待っててって言われちゃった。さっぱり意味が分かりません。同じ部屋なのに。
そういえば映画何時なんだろ? 花音が調べてるはずだけど。アクション映画だって。花音がアクション好きだなんて知らなかったけどね。前評判はいいみたいだよ。
「ごめんね、葉月。外で待たせちゃって」
時計を見てると、花音の声がした。振り返って、思わず目を丸くしちゃったよ。
だってこれは……まさかの完全お嬢様コーデじゃないの?
淡い桜色のワンピースに白の薄いカーディガンを羽織ってる。髪も緩くいつもより少しふんわり巻いてるし。あれ、もしかして薄くメイクもしてるね。まあ、メイクは軽くいつもしてるけど。
今日は何か趣が違う感じ。うん。完璧だね。えっ私はって? いつもどおりですよ~。ボーイッシュな感じ。Tシャツとベスト。短パンと動きやすい服ですね。
「いつも可愛いけど、今日はすごい可愛いね~花音」
あっ、真っ赤になっちゃった。可愛いって言うと真っ赤になるのは、会った時から変わらないんだよね~。
手の甲で口を押えて「あ、ありがとう」って言ってきたのは可愛すぎました。
「でも、その服初めて見た~。この前舞と買ってきた服?」
「うん……そう」
まだ顔の火照りが収まらないのか、今度は手で顔を押さえ始めちゃった。そんなことしたらせっかくのメイクが台無しだよ~?
「だめだよ~花音~。手で押さえちゃ~」
「…………そ、そうだね」
どっからどう見ても、いいとこのお嬢様ですね。あ~じゃあ、せっかくお嬢様だから。
「エスコートしてあげよっか?」
「……えっ?」
「だって今の花音、完全にお嬢様だもん」
「そそそそんなんじゃないよっ!? そ、それにお嬢様は葉月の方が――?」
「ほら、いこ~花音お嬢様。映画遅れちゃうよ~?」
花音の手を握って引っ張ると「えっ、ちょっ……葉月!?」って慌てる声を出してて可愛かった。ん? でもこんな強引にいったんじゃ、全然エスコートじゃないか。ま、いっか。
映画館には滞りなく着いた。結構、人がいっぱい。いっちゃんに一応メッセで着いたって送って、キャラメル味のポップコーン買って席についた。そういえば、映画館で見るのかなり久しぶりかも。
映画は面白かったよ。悪人と善人がはっきり分かれてて、アクションもスタントなしで本人たちがやってて見所もあったし、最後は悪人が倒されてスッキリしたし。途中、花音がハンカチで私の口拭いてたけど。
「映画終わったけど、お昼どうするの~? 帰る~?」
「折角だから、たまには外で食べない? この前舞と一緒に食べたパンケーキがすごく美味しかったんだけど」
「食べる」
「ふふ。じゃあ、行こうか」
花音に案内されたお店はちょっとおしゃれな感じのパンケーキ屋さんだった。
生クリーム増し増しで頼んだら、ものすごい量の生クリームが乗ってきたよ。それを見た花音が笑ってた。本当はこんな量まで頼まないんだって。でも甘い方が美味しいよね?
食後にコーヒー頼んで香りを楽しみながら口に含む。うん、あの喫茶店のコーヒーの方がおいしいかな。
「葉月って甘党なのに、コーヒーだけはブラックだよね?」
「んん~? そだね~」
「何か理由があるの?」
ん~。前世からの習慣とは言えない。
「……落ち着くから……かな~」
「そうなんだ……」
そう言って、嬉しそうに花音は微笑んでいた。
今日の花音は本当に可愛いね。思わずこっちまで笑みが零れてしまう。
ってあれ? なんで、いきなりテーブルに顔突っ伏すの? いきなりどうしたの?
あ、いっちゃんからメッセきてた。「大丈夫か」だって。大丈夫だよ~って返事をする。それを復活した花音が苦笑して見ていた。
「一花ちゃん?」
「うん。いっちゃんは心配性だからね~」
心配させてるのは私だからね……。
「……本当に葉月と一花ちゃんは仲がいいよね」
「……そうだね」
私が引き留めてるだけだけどね。
「……いっちゃんは……特別だから」
「…………そっか」
コーヒーを飲みながら返すと、ちょっと寂しそうな声で花音が答えてきた。
「花音?」
「ん……?」
「どうかした?」
「……どうもしないよ?」
そう? ちょっと元気なくなっちゃった感じがしたけど。
「きっと一花ちゃんは――」
ん?
「一花ちゃんは私の知らない葉月を、いっぱい知ってるんだろうなって……そう思っただけだよ」
花音?
花音は知りたいの?
だめだよ。
知らなくて、
いいんだよ。
「葉月?」
そのままでいてほしいんだよ、花音。
「大丈夫だよ、花音」
「えっ……?」
「知らなくても、大丈夫だからね」
「……」
「だから……」
少し寂しそうな花音を見る。
「そんな顔、しなくていいよ」
寂しそうな顔をしてほしくなくて、腕を伸ばして花音の頬に触れ、親指で少し撫でてから離してあげた。
「葉月……」
少し頬が赤い花音が、目元を僅かに緩ませた。
「……そうだね、葉月」
そして、いつもの柔らかい微笑みを浮かべてくれる。
うん。
やっぱり花音はそっちの方が可愛いよ。
「ね~花音。今日の夕飯な~に?」
「今食べたばかりなのに、もう夕飯の話?」
「オムライスがいい」
「駄目だよ、昨日もオムライスだったのに。今日は一花ちゃんと舞も来るから、2人の好きなものにしようかな」
「え~」
花音と他愛ない話をする。
花音は笑ってる。
ずっと、
ずっとそのまま、
ずっとそのまま笑ってて?
お読み下さり、ありがとうございます。
 




