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130話 意外とあっさりと —花音Side

 


 コンコン


 静かにドアをノックすると、少ししてから、舞がそのドアから出てきてくれた。


「あれ、花音? どうしたのさ?」

「一花ちゃんに話があって」


 ふふって笑いながら返すと、デートのことだと気づいたのか、舞が表情を明るくして中に通してくれた。


 あれから数日、舞とも相談しながらどこに行くかのデート内容を詰めていった。


 葉月はきっと恋愛ものは寝ちゃうだろうからアクション映画とかどうだろうって話になって、今話題の映画があるから、それを見に行くということにしたよ。


 後はそれが見終わったら絶対すぐ帰るって話になるだろうから、前に舞と一緒に行ったパンケーキ屋さんに連れていくことにして、その後も帰るって話になるだろうから、最近割ってしまったマグカップを買いに行くように誘導しようと思っている。


 でもその前に、一花ちゃんに許可取らないとね。絶対葉月は2人で出掛けるってなったら、一花ちゃんに聞いてみるってなるだろうから。


 部屋の中に通されると、一花ちゃんがもの珍し気な感じでこっちを見てきた。本読んでたところだったんだね。ごめんね、邪魔しちゃって。


「珍しいな、花音が来るとは。あいつが何かしたんだな?」

「ううん、何もしてないよ。今はお風呂入ってるかな。ごめんね、読書の邪魔しちゃって。実はちょっと一花ちゃんに確認したいことがあって」


 一花ちゃんから出てくる言葉の第一声はやっぱり葉月のこと。


 それにしても、何かをした前提で話してくるなんて。……それも仕方ないかも。今日も東海林先輩の部屋で何かしたらしいしね。


 苦笑して座っている一花ちゃんの近くに私も座ると、「いつものお返し」と舞がジュースを出してくれた。その舞も座ってジュースを飲み始める。一花ちゃんは本を閉じて、こっちに顔を向けてくれた。


「それで確認したいこととは? そういうのがあるのも珍しいと思うが?」

「うん、葉月のことなんだけどね」

「やっぱりあいつが何かしたんだな。待ってろ、すぐにあいつを風呂に沈めてきてやる」

「ちょちょっと、一花!? 言ってること過激すぎるから! 落ち着きなって!」


 スクッと立ち上がって、ドアに向かおうとした一花ちゃんを舞が慌てて止めていた。これはあれだ。さっきの東海林先輩のところで悪戯したのを、まだ怒っている感じだ。


「大丈夫だよ、一花ちゃん。今日の夕飯に玉ねぎ入れて反省したみたいだから。もう東海林先輩の部屋にカエルさんを入れないんじゃないかな」

「む? そうか。それならいいんだがな」

「いつも思うけど、葉月っちっていつカエルとかトカゲとか取ってくるんだろうね……一花がそばにいるのに不思議だわ~」


 確かに不思議。いつも一花ちゃんの目を盗んで取ってくるみたいだけどね。その一花ちゃんはそんな葉月を止めるために疲れ切ってるけど。


 ハアと息ついて座り直してから、舞が注いでくれたジュースを飲んでいる。


「年々酷くなってきてる気がするな。まぁ、川で流されるよりマシだが」

「そういや初めて会った頃、そういう話してたよね。それってマジな話なわけ?」

「嘘だったらどんなにいいか。あのキラッキラの笑顔で楽しいって言われた日には、本気で殺意が芽生えた。助けるこっちの身にもなれって言っても聞かなかったし」


 葉月、本当にそんな危ないことしてたんだ。それに楽しかったんだ。


 一花ちゃんがその時のことを思い出したのか、ワナワナと震えだしちゃった。これは……明日も玉ねぎ出した方がいいかな? 今日も泣きながら食べてたけど。


「で、結局何なんだ、確認したいこととは? それで来たんだろ?」


 一瞬、その泣き顔を思い出してたら、一花ちゃんが話を戻してきた。そうだった。またあの泣き顔見たいじゃないよ。


「うん、それで葉月のことなんだけど」

「だからなんだ?」

「あの、葉月と2人で遊びに行くのっていいかな?」

「は?」


 予想外のことを言われたのか、口をポカンと開けながら呆けた顔でこっちを見てくる一花ちゃん。そ、そんなに驚くことだったかな?


「葉月と2人でそういえば遊んだことなかったなって思って……でも、一花ちゃんはいつも葉月の心配してるでしょ? だから……その……一応確認しておこうかな、と……」


 しどろもどろになりながら答えて、一花ちゃんは目を丸くして口をまだポカンと開けていた。

 

 こ、これ、いざってときは恥ずかしくなるな。わざわざ確認するとか、デートの許可取ってるみたい。まあ、みたいじゃなくてそうなんだけど。


 一花ちゃんは「あ、あー……オホン」と少し気まずそうに目を逸らして、わざとらしい咳払いをしている。


 これは……まさか無理な感じ――



「別にいいぞ?」



 あっさり許可が出た。って、え、いいの?


「……いいの?」

「いいぞ?」

「本当にいいの?」

「本当にいいな」


 何てことないように、あっさりと許可が出てしまった。一花ちゃんはまた本を開いている。逆にこっちが呆けてしまったよ。


「別に遊びに行くだけだろ? 全然構わないが」

「あの、一花? 葉月っちだよ? 何かするとか思わないの?」


 舞まで疑問に思って聞いている。あの舞? 断られたら後押ししてくれるんじゃなかったの? 一花ちゃんはあっさり許可出してくれたけどね。


「そうだな。遊ぶ相手がレイラや舞だったらついていったが、花音相手にバカはしないだろ、あいつも」

「私相手だと?」

「花音に何かすれば、玉ねぎが出てくるって分かってるからな」


 なるほど。確かにその日に何かしたら問答無用で玉ねぎは出すけど……でも考えてみたら、葉月が私に何か悪戯をするのってないかも。玉ねぎを出されるからか。


 舞と2人で納得していたら、「それに」と一花ちゃんがボソッと呟くように声を出す。


「何かあったら、あたしに電話しろ。すぐに対処するさ」

「え、じゃあやっぱり花音たちについていくってこと?」

「ついていかなくても、対処できる」


 どうやって対処するつもりなんだろう? でも一花ちゃんは肩を竦めるだけだ。大丈夫ってことでいいのかな?


「ただ悪いが、葉月から定期的に連絡はさせるからな?」

「え、うん。わかった」


 やっぱりそこはさせるんだ。これは仕方ないかも。1人納得してたら、隣の舞はそうじゃなかったみたい。


「あのさ一花。過保護すぎるって。何がそこまで心配なのさ?」

「何もなければ問題無い。だが、いざって時に止めるのはあたしだ。前は1人にして止められなかったしな……」

「前?」

「いや、何でもない。こっちの話だ」


 ふうと息を吐いて、今度は優し気な目でこっちを見てきたから、少しびっくりしちゃったよ。


「楽しんでくればいい。あいつにとってもいい事だ」


 そう言って微笑む一花ちゃんは、少し嬉しそうにも見えた。そんな純粋な目で見られたら、何も言えなくなってしまう。


 ごめんね、一花ちゃん。私は葉月を恋愛対象で見てるの。今回のデートも、あわよくば意識してくれないかなって邪な考えを持ってるんだよ。


 一花ちゃんは私が葉月をそういう意味で好きだって知ったらどうするのかな。葉月と私を離れさせようとかするのかな。そうなったらどうしよう。きっと一花ちゃんと私だったら、葉月は迷いなく一花ちゃんを取ると思う。


 葉月が一花ちゃんを見る目は時々優しい。

 あの表情を見ると、葉月にとって、一花ちゃんが特別だなって嫌でも感じてしまう。


 少し、妬いちゃうんだよ?


「ありがとう、一花ちゃん」


 でも、そのヤキモチは隠さないとね。一花ちゃんも葉月も悪くないもの。その2人の間に入ろうとしているのは私だから。


 ごめんね、一花ちゃん。

 一花ちゃんにとっても大切な葉月を、


 好きになってごめんね。


 その後、自分の部屋に戻ってお風呂から上がってきた葉月に一緒に出掛けようって誘ったら、案の定「いっちゃんが……」と言ったから大丈夫だって伝えたら、あっさりと出掛けるのを承諾した。一花ちゃんに最初に許可取っておいてよかったよ。


 でもこれで、心置きなくデートに臨める。


 楽しいデートになるといいな。


 葉月が楽しめるようなデートに。



 子供の時の遠足前みたいに少しソワソワさせながら、そのデート当日が待ち遠しくて仕方なかった。


お読み下さり、ありがとうございます。

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