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129話 デートに誘おう? —花音Side※

 


「このままじゃダメさ!」


 休日、舞にショッピングに付き合ってと言われて寮から連れ出されたら、お店に行く途中でいきなり叫び出した。


 あの、舞? いきなり道端で大きな声出さないで? びっくりするから。そして肩掴んで揺らさないで?  視界がブレるから。


「あの、舞? いきなりどうしたの?」

「あのさ! このままじゃダメだと思うんだよ!」

「だから何が?」

「何がじゃなくて、この今の状況さ! 全く変化ないじゃんか! 葉月っちと一花との状況がさ!」


 鼻息荒く舞はガクガクと私の肩を揺らしてくる。


 でも舞の言う通りなんだよなぁ。葉月は一向に私を意識してくれるわけでもないし、葉月が一花ちゃんから離れないと、一花ちゃんも葉月からは離れないだろうし。


 最近はほぼ毎日寝る前にハグしているんだけどな……相変わらず葉月からは言ってこないけど、葉月も気に入っているとは思うんだよね、ハグ。だってスリスリとしてくるし。思い出したら、またギュッてしたくなってきた。


 もっと素直に甘えてきてくれないかなぁ。

 そういえばこの前思ったけど、会長も甘え下手だよね。素直に絵を描いてみたいって言ってくれたらいいのに。


 東海林先輩たちに相談したら、問答無用で学園の美術室に放り込まれていて少し面白かった。東海林先輩の「何を今更遠慮しているんだか」って呆れた物言いに、会長が驚いていたよね。


 あれから少しだけど、会長も大人しく絵を描き始めているみたい。完成したら見せてもらおう。どんな絵を描くのかな。


「花音、聞いてる!?」


 ついこの前の会長の姿を思い出していたら、目の前の舞に聞いてないことがバレてしまった。ごめんごめん。


「でも舞、具体的にどうするの?」

「デートに誘おう!」


 え、デート? 誰と誰が? 目をパチパチさせていたら、舞はグッと握りこぶしを作っている。


「葉月っちをデートに誘うんだよ、花音!」

「え、私!?」


 舞じゃなくて!? なんで、そんな不思議そうな顔して見てくるの!?


「他に誰がいるのさ?」

「いや、一花ちゃんを舞が誘うんじゃなくて?」

「もれなく葉月っちがついてきました」


 ガクッと肩を落とす舞。誘ったことあったんだね。「それはそれで楽しかったから良かったんだけどさ」って舞は少し残念そうに話しているけど、私、知らなかったよ。


「それにさ、花音だって葉月っちと一緒に遊びに行ったりしたくないの?」

「それはまぁ……」


 考えてみたら、葉月と2人で遊びに出掛けたりしたことないかも。舞や一花ちゃん、レイラちゃんと皆で買い物とかはしてるけど。


「だったら2人で遊んできなよ。たまにはいいじゃん! それに、葉月っちと花音が2人で遊びにいけば、あたしも一花と2人になれるし……」


 あの、舞? そっちが本音だよね?

 まあ、私も確かに葉月と2人でお出掛けしたいけど……誘ってみようか?


「そう……だね。誘ってみようかな」

「よしきた! じゃあ、今日買うモノ決定だね! 花音のデート服!」


 表情が一気に明るくなった舞に、手を取られて引っ張られる。すごくやる気がいっぱい。私が葉月とデートする時に、一花ちゃんを独り占め出来るからだね、うん。


 葉月と、デートか。出来るといいな。それに一花ちゃんにも一応言わないと。きっと葉月は一花ちゃんの許可を取ろうとすると思うから。


 どこに行こうか? 葉月はどんな所に行きたいかな。ふふ、なんか考えるのも楽しくなってきた。


 それからは、値段を見ないで服を買おうとする舞を押さえながら、自分の服を選んでいった。可愛いのが手頃な値段であったから良かった。試着したら舞も可愛いって言ってくれたから自信を持てるかな。舞のセンスはいいからね。


 葉月も可愛いって思ってくれるかな。

 思ってくれるといいな。



 □ □ □



 帰ったら一花ちゃんと寛いでいた葉月が、笑顔で「おかえり」って言ってくれる。その笑顔で褒めてくれたら嬉しいな。いつものように舞のことをからかって遊んでいる葉月を見て、自然と期待してしまう自分がいる。


 いつものようにお茶を淹れると、一花ちゃんが褒めてくれた。


「花音は淹れるのも完璧だな。メイド長が淹れるハーブティーと丸っきり同じだ」

「ありがとう。でも全部書き記してくれた通りだから。皆でも同じように淹れられると思うよ?」

「ねえねえ、一花。それそんなにおいしいの? 一口ちょうだい?」

「お前、花音に別の紅茶淹れてもらったんだからそっちを先に飲め」

「いいじゃん! 一口ぐらい!」


 クスクス笑いながら、一花ちゃんと舞のやり取りを見ていると、葉月はあの普段見ない安心しきった顔でハーブティーを飲んでいた。


 このハーブティーを飲む時にしか見せない顔。

 この顔を見ると嬉しくなる。


「花音? な~に?」

「……ううん。何でもない」


 こっちの視線に気づいたみたいだけど、葉月はこのハーブティーを飲む時に自分がどんな表情になっているか気づいていないみたい。


 だからいつも、何でもないよって返してあげる。

 見れなくなるのが嫌だから。

 そんな私に首を傾げてくる姿も可愛いしね。


 今日は自分のも葉月のお気に入りのハーブティー。そのハーブティーを口に含み、香りを楽しむ。本当、いい香り。それに味も優しい。このハーブティーは本当においしいよね。一花ちゃんに褒めてもらえたのは嬉しいな。あのメイド長さんに書かれた紙通りに淹れただけだけど。


 葉月は私の返答が気になったのか分からないけど、むーってしながら何かを考え込んでいた。と思ったら少し怒りだして、それからまた考え込んで、何かを閃いた顔をしたと思ったらまた考え込んで、1人で百面相をしている。


 その様子に舞が堪えきれなくてツッコんでいた。葉月、何でわかったのって顔してるけど、全部顔に出てたよ?


 あ、何か閃いたのか……な……。


「舞~」

「ん~? どしたどした~?」

「ど~ん」

「おっ! どしたの急に?」


 いきなり舞に抱きついて、頭をグリグリ擦りつけている葉月に一瞬茫然としてしまう。


 私には1回も――――そう、1回も自分からそんな風に抱きついたりしなかったのに!


 すぐ離れて舞のことをからかってるけど、私の心の中はそれどころじゃない。


 何で舞だとそう甘えるかな。私には自分からそういう風に甘えたりしないのに。むしろ舞もどうして簡単に葉月を受け入れるかな。好きな人は一花ちゃんのはずだよね?


 ニコニコと葉月と舞を眺めていたら、葉月が気づいて、恐る恐ると言った感じで聞いてくる。


「あ……あの、花音?」

「ん? な~に、葉月?」

「あの……何か怒ってる?」

「怒る? なんで?」


 怒るはずないよ? ただそう……悔しいだけだよ? 私が最近はどうやって葉月に素直に甘えてもらえるかなって考えてたことを、舞がいとも簡単にやってるからね。


 舞がそんな私の心情を察したのか分からないけど、顔を青くさせていたのは、後で気づいた話。



 その夜、いつものように葉月の髪を乾かしてあげる。気分がいいのか葉月は鼻歌を歌っていた。それを聞くとこっちもクスっと笑みが零れる。


 乾かしてあげてドライヤーを片付けてから部屋に戻ると、葉月はベッドに寝ころんで携帯を弄っていた。


 ふと、昼間のことが頭に過って、葉月のベッドに腰を下ろすと、首を傾げてこっちを見上げてくる。


「ねぇ、葉月?」

「ん~?」

「どうして、昼間いきなり舞に抱き着いたの?」


 目をパチパチとさせている。


 予想外のこと聞かれたって顔だね、葉月? でも気になるよ? 私からしかハグしてないんだから、それは気になるよ?


「……な……なんとなく……?」

「そっか……なんとなくか……」


 なんとなくでも私には抱きついてこないのに?


 でも……葉月は本当に何となく舞に抱きついたんだろうなぁと思う自分もいる。


 ハアと心の中で溜め息をついてしまった。目の前の葉月が、訳が分からなそうな顔をしているんだもの。そうだよね。葉月は私の事、全然意識なんてしてないものね。


「……葉月? もう舞にああいうこと言っちゃだめだよ」


 また「え?」って顔している。話を切り替えるためだったけど、強引すぎたかな。でも、舞が自分の胸を気にしているのは事実だから、大丈夫だよね。


「本人、結構傷ついてるからね?」

「………………はい」


 納得したのか分からないけど、何故か敬語で返事が返ってきた。


 葉月は……悪くないんだよね。

 

 葉月が私のことを意識しないのは、葉月が悪いせいじゃない。いや、葉月の発言で舞がショック受けているのは事実なんだけど……。


 私が勝手に葉月を好きになっただけだから、葉月は何も悪くない。


 目をパチパチさせている葉月の頭を撫でてあげる。全く意識してくれないのはどうしたものかな。


「……おいで、葉月?」


 いつものようにハグしてあげようとすると、また驚いた顔をしてきた。


「ね?」


 促すと、葉月はゆっくり身を起こして、チラチラこっちの様子を見ながら近づいて、恐る恐る背中に腕を回してくる。だから私も、ギュッと葉月の背中に腕を回して抱きしめた。


 葉月の温もりに胸を締め付けられながら、いつものように宥める感じで葉月の背中を撫でてあげると、スリッと葉月は顔を肩口に擦り寄らせてきた。本当、可愛いなぁ。


 でも葉月。こういうハグだって、普通は友達同士で毎日やらないからね?


 しばらく、ギュッとしながら私自身も葉月の香りと温もりに酔いしれる。段々私の背中に回された腕の力が弱まっていくのがわかった。多分、もう眠気がきているんだろうな。最近やっと分かってきた。もうすぐ葉月は寝ちゃうと思う。


 というより、もう半分寝てるだろう。


「もっと素直に甘えていいんだよ……葉月……」


 耳元で聞こえてるか分からないけど囁いてみる。でも返事がないからきっともう夢の中。ほら、寝息が聞こえてきたもの。思わず苦笑してしまった。


「私にだけ……甘えてほしいんだよ」


 私にだけ。

 葉月が眠れるのが私の腕の中だけなら……甘えるのも私だけにしてほしい。


 身勝手だって分かってる。

 でも、どんどん独占欲が出てきてる自分を止められない。


 寝ている葉月を起こさない程度に抱きしめる。


 しばらくそのままでいて、さすがにベッドに寝かせようと思い、起こさないように横にしていくと、葉月のあどけない寝顔が見えてくる。安心しきったその寝顔を見ると、ドキドキする。


 そっと、その頬に触れた。


「……私を見てほしいな」


 デートすれば、少しは意識してくれるかな?

 友達の1人じゃなくなるかな?


 少しの期待を込めて、葉月の体に布団をかけてあげる。


「おやすみ……葉月」


 電気を消してキッチンルームに行き、1人、ネットでデートスポットを調べて、計画を立ててみることにした。

お読み下さり、ありがとうございます。

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