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12話 やっぱりルームメイトはお嬢様?  —花音Side※

 


「終わったー。そしてお腹空いた~」


 夕方になって片付けが終わり、葉月がベッドにボフっと身を投げていた。確かにやっと終わったなぁ。


 それにしても、少し、いやかなりカルチャーショックを受けてしまった。お昼に東雲さんが迎えに来て、食堂に食べにいったけど……その金額に愕然としちゃった。まさかお昼一食で二千円も取られるとは。


 ……お母さん、食堂はそんな使えない。しかも、葉月も東雲さんも何てことはない感じで普通に食べてるし。見るからに高級そうなお皿の上のコロッケを見て……もう味なんか分からなかった。


 さすが、星ノ天(ほしのそら)学園の寮だというべきか。寮だから、そこまで高い食材使っているとは思ってなくて……これは学園にある食堂も高いんだろうな。無理。あんなの毎日食べていたら、いくらお金あっても足りないから。


 だけど、やっぱり葉月も東雲さんもお嬢様なんだろうな。食べ方というか、ナイフやフォークの使い方というか、所作がすごく綺麗だった。そういう教育を受けてきたんだろうか。葉月は口の中にいっぱい入れて東雲さんに注意されてたけど、それでもやっぱり綺麗だった。


 ハア、見習わないと。まさか、こういうところで見せつけられるとは思っていなかったから。


「花音~ご飯どうする~? ちょっと早いけどもう食堂行く~?」


 あ、来た。でもごめん、葉月。私、無理。でも……どう断ろうか……料金が高すぎるから、なんて理由を言うのが恥ずかしすぎる。そういえば、葉月と東雲さんは料理とかはしないのかな?


「ねえ、葉月? 葉月も東雲さんも中等部ではどうしてたの?」

「んん? どうって?」

「えーと……ご飯……ずっと食堂?」

「うん。私もいっちゃんも料理は出来ないからね」


 ……なるほど。ずっとあの食堂を使ってきてたんだ。料理はしないのか。なんか今のお嬢様っぽい。そんな葉月を付き合わせるのは忍びない。


 私は近くにあったスーパーで、食材買って適当に作ろう。葉月と東雲さんは食堂で食べればいいんだしね。いつもあんな高級料理や高級食材食べてきたら、舌も相当肥えているはず……私の料理なんて食べさせられない。


「……葉月だけ食べてきなよ。私は外で適当に買って食べるから」

「え? やだ。花音と一緒に食べる」


 え!? 即答!? で、でもごめん、葉月。私あんな高い料金、毎回払えない……。


「え、えーと……悪いからいいよ?」


 何とか穏便に葉月だけ食堂に行かせられないかな? あ、でもさすがに訝しんでる。体を起こして、ジーっと見てきた。


「……食堂行くのやだ?」


 図星を言われて、思わず息を詰まらせちゃった。行くのが嫌だっていうより……料金が高いなんだけれども……ど、どうしよう……何て答えよう……。


 悩んでたら、葉月も「ん~……」って考えこんじゃった。気を遣わせちゃってる。


「あの……葉月? いいよ? 私、自分でなんとかするから……」


 気を遣わせたくなくて葉月にそう言ったら、(おもむろ)に立ち上がり、ハンガーから上着を取って羽織りだした。どうしたんだろう、いきなり?


 予想外の行動にきょとんとしてしまったら、こっちに振り向いて無邪気な笑顔を向けてくる。


「なんとかって?」

「え? あー……食材買ってきて、適当に作って食べようかなって。簡単な料理ぐらいなら出来るから」


 今日はお昼にあんな豪華な食事にしちゃったから、軽めにうどんとかでもいいかもしれないなぁ……って作る夕飯のことを考えたら、葉月はとんでもないこと言い出した。


「それ、私にも作って?」

「別にいいけど……って、え?!」


 思わず反射的に返事してしまったけど、え、え? 葉月にも?


「花音のご飯食べたい」

「え、いや。葉月? そんな大したものじゃないから。食堂にでてくるようなご飯じゃないの。とても葉月たちみたいな人達に、食べさせられるものじゃないっていうか……」


 むむむ無理。舌肥えてる人に、普通のご飯食べさせられない。私がショック受けるから。不味いって言われたら、立ち直れない!


 でも葉月はずっと「花音のご飯食べたい」しか言わなくなった。聞く耳持たずって感じで、にっこりと笑っている。もう……折れるしかなかった。「早くいこ~」って言われて、渋々自分の上着を羽織ったけど……せ、責任重大すぎる……胃が痛くなってきた。下手なモノ食べさせられない。


 部屋から出てきた東雲さんも一緒に、スーパーに買い出しに行った。


 ※※※


 スーパーで葉月は大はしゃぎしていた。ちょっとその様子が可愛らしい。カートを引っ張ってきて、ガラガラと動かして遊んでいる。東雲さんが注意してたけど。そんな東雲さんをからかう葉月。少し慣れてきた。


 何作るのか聞いてきたから、葉月が好きなものを聞いてみた。けれど、出てきたのはお菓子ばかり。東雲さんに全部ツッコまれていたのがおかしかった。


 そして、葉月の好きなものを東雲さんが答えている。本当にこの2人は仲いいなぁ。でも葉月、コオロギを食べてたの?


 卵と言われたのでオムライスとか? って口に出したら、葉月は食いついてきた。お嬢様たちが食べるオムライスってどんなのだろう……期待されても困るなぁって思って、葉月たちが食べるようなオムライスは作れないよって釘を刺したら、渋い顔つきになってしまった。


「花音は何か誤解していない?」

「へ……? な……何を?」

「花音は、私たちが全然違う世界で暮らしている人だと思っていない? だから食べるものとかも違うんだって」


 ち……違うのかな? 寮の料理を見たら、そう思っちゃって……。


「そ、それは、その……ごめん。ちょっと思ってる……」

「お前は違うよな? さっきコオロギって言ってたし、確か中等部では、カエル焼いてよく食べてなかったか?」


 東雲さんの一言で少し顔が青褪めた。


 お嬢様って……お金持ちの人たちって、カエルとかコオロギとか食べてるの? 葉月は、食べているモノはそうみんなと変わらないって言ってるけど、東雲さんはゲテモノ屋に行ってるって言ってるよ? さすがに私、カエルとかは調理できないんだけど……。


 でも、葉月は力強く、握り拳を作って言ってくれた。


「とにかく! 私は花音のご飯が食べたい!」

「全然話がまとまってないぞ。つまり、お前はこう言いたいわけだな。金持ってるとか持ってないとか関係ないと。誰がどんな食材使おうが料理は料理だと。あと、手作り料理食べてみたいと」

「そういうことだね、いっちゃん!」

「ということらしいぞ、桜沢さん。味とか気にしないで普通に作ってくれれば、こいつ満足すると思うから。それに最後に言ったのが本音だろうからホントに気にしないで作ってくれ」


 そ、そうなんだ。東雲さんが話をまとめてくれた。手作り料理か。そういうのは無縁だったのかな。食堂でも専門のコックさんが作ってるからね。家とかでもそうなのかも。味とか気にしなくていいって言ってくれるのはありがたい。


 それで満足してくれるなら、と思い始めた所で、葉月が東雲さんの分も作ってと言ってきた。プレッシャーがかなりかかったよ。本当、不味くても文句言わないでね。


 必要な食材を買い込んで、あとついでに私の当分の食材もカートに入れてお会計しようとしたら、葉月が全部払おうとした。……待って、葉月? それブラックカードじゃない!? こんなところで!? 店員さんもびっくりしてるよ!


 自分の分は払うって言ったけど、聞いてもらえなかったよ。すごく満足した笑顔で押し切られたから。東雲さんも軽く「気にしなくて大丈夫だぞ?」って言ってるけど、気にするよ……。


 もう星ノ天(ほしのそら)の生徒のイメージが、カードで払うというモノにしっかり固定された。



 □ □ □



「「おお~~~」」

「あの……ホントに普通のオムライスだからね……? 味のクオリティとか求めないでね……?」


 寮に帰ってきて、作ったオムライスとスープとサラダをガラスのテーブルに置くと、2人が目をキラキラさせて、それを見ている。


 そんな大したものじゃないからね。誰でも作れるからね。一応2人の舌に合わなかった時のことを考えて、言い訳しておく。


 葉月は待ちきれないようで、東雲さんに何度も食べていいか聞いている。ハア……どうしよう……口に合えばいいな。いや、でもそんな期待はしないでおこう。ずっとベテランコックさんの料理を食べてきた2人に、合うはずがないんだから。


 手を合わせて、2人は同時にオムライスを口に入れた。……途端に目を大きく見開いている。こ、これは……やっぱり、2人の口には合わなかった……?


「ど……どう……かな……? やっぱり2人には合わないんじゃ……?」

「んぐんぐ、にゃひひっへふほ? はほん? めひゃひゅひゃほいひいよ!」

「ん……まずは一回飲み込め! 口に入れたまま喋るな!」


 恐る恐る聞いたら、葉月は何を話しているか分からなかったけど、東雲さんが無理やり水を飲ませていた。……やっぱり、口に合わなかったんだ。「や、やっぱり……そっかそうだよね……」と呟いて、ガックリ肩を落としてしまう。


 やっぱり無理だったんだよ。舌が肥えてる2人に食べさせるものじゃなかったんだよ。でも葉月は優しいから、美味しいって言ってくれる。本当、気を遣わせちゃってるなぁ。


 しょぼんとしてたら、東雲さんまで美味しいと言ってくれた。東雲さんまで言ってくれたから、信じたくなってつい確認してしまった。


「……ホント……?」


 そうしたら、2人とも満面の笑みで力強く頷いてくれる。そ……そっか……大丈夫だったんだ。


 一気にパアっと、心が軽くなったのがわかった。


「すっごい美味しいよ、花音!」

「良かった。ホントに良かったぁ」

「こんなに美味しいんだから、もっと自信持っていいと思うぞ?」

「わぁ、東雲さんもありがとう。そう言ってもらえるとホントに嬉しいよ」

「い、いや……事実だしな……」


 うわあ、うわあ……良かったぁ。嬉しい。ホントに嬉しい。舌が肥えてる人たちに自分の料理が褒められることが、こんなに嬉しいことだったなんて。お母さんに料理習ってて良かったって心底思ってしまった。ありがとう、お母さん。


 改めて2人を見てみると、気を遣っているわけじゃなく、本当に美味しそうに食べてくれる。ふふ、良かった。口に合って本当に良かった。


 葉月がおかわりしたいっていうから、気分よく二杯目を作っちゃった。それも全部残さず平らげてくれたから、余計嬉しかった。


 ご飯を食べ終わって3人でのんびりしてたら、葉月が東雲さんに部屋に戻らなくていいのかって確認してた。東雲さんのルームメイトの話を聞いている。私と同じ外部生で、ある会社の社長令嬢らしい。


 やっぱり、そういう人達が多いんだ。ということはやっぱり2人もそうなわけで。……普通に話しているけど、いいのかな?


「普通に話しちゃってるけど、東雲さんも葉月も親は凄い方たちなんでしょ?」

「凄くはないかなあ。いっちゃんの家は凄いと思うけど?」

「いや、私の家はそこまでじゃないぞ?」

「何言ってるのさ、花音も知ってるんじゃない? 東雲病院」

「え? あ! 知ってる! 前にテレビでやってた。名医が集まってる病院だって。確かに東雲って苗字だけど……」

「そこの娘だよ、いっちゃんは」


 あの東雲病院の娘……そのテレビでは、遠方から治療を受けに来るって紹介されてたけど。院長さん、そういえばインタビューに出てた。あの人が東雲さんのお父さん? 難しい手術も数多く成功させているらしい。専門の医者たちも多く集まってて、そのおかげで専門的治療も受けられるとか何とか。研究施設も充実しているってテレビでは言っていた。


 ……凄い子と知り合ったのかも。

 隣の葉月もチラッと見る。東雲さんと同様、凄くないって言ってる葉月も本当は凄いのかも……。


「……葉月の家もそうなの?」


 少し好奇心が勝って聞いてみてしまった。……でも失敗だったかも。葉月の雰囲気が少し変わった気がした。つまらなそうに、息をついてる。


「だから、凄くないって。ウチは普通。ただお金持ってるってだけだよ」


 これ以上触れられたくないかのように、肩を竦めて目を逸らしている。


 気のせいかもしれない……けど、声も冷たくなっている気がした。


 余計なこと……聞いちゃったかな……。


 それ以上聞くのが躊躇われた。何か事情があるのかな。さっきまであんなニコニコ可愛らしい笑顔だったのに。


 ハアと、東雲さんは呆れたように葉月を見て、溜め息をついていた。東雲さんは……知っているんだよね。それはそうか。幼等部から一緒だって言ってたし。


 私は余計なこと言っちゃったなって戸惑うことしか出来なかったけど、東雲さんは諦めたかのようにスクっと立ち上がった。


「まあ、いい。邪魔したな。桜沢さん、ご馳走様。本当に美味しかった。葉月、お前は明日ちゃんと起きろよ。彼女に迷惑かけるなよ」

「ほーい」

「返事ははいだろ」

「はーい」

「はあ……じゃあ、桜沢さん。迷惑かけるがこいつをよろしく頼む。何かあったら、遠慮しないで部屋に来てくれて構わないからな」

「あ、うん。おやすみなさい、東雲さん」

「ああ、おやすみ」


 東雲さんって、凄いしっかりしている感じ。それに葉月のことも大切にしている印象がある。よろしく頼むって家族みたい。本当に仲がいいなぁ。


 東雲さんが部屋に戻って、静寂に包まれてしまった。……少し気不味い。謝ろうかな……。


「あの……葉月? ごめん……なんか変なコト聞いちゃったかな?」


 謝ると、葉月は一瞬目を丸くして、困ったように笑っていた。


「あはは~。こっちこそごめんね~。大丈夫、変なことは聞いてないよ~。ホントにウチは他の人と比べると凄くないってだけだからさ~」


 誤魔化すように、そう言ってくる。……これ以上は聞かない方が良さそう。葉月にとって、家のことを聞かれたくないことなんだ、きっと。


 何があるのかは興味を惹かれるけど、葉月に嫌な気持ちになってほしくない。私から聞くのはやめよう。


 そう心の中で密かに決心してたら、グーっと腕を伸ばして背中を伸ばし始めた。


「ん~! 今日はさすがに片付けとかで疲れたね~。明日は入学式だし、いっちゃんにもああ言われたことだし。お風呂入って早めに寝よっか~?」


 話を切り替えて、明るくしてくれようとしているのがわかった。本当、葉月は気遣い屋さんだね。

 ……でもそれに乗っかろう。こんな空気のまま、今日を終わらせたくないから。


「そうだね。何だか、今日1日だけで色々あったからね」


 クスって葉月に笑いかけると、葉月も笑顔を返してくれた。


 自分で言って何だけど、今日は色々あったなぁ。


 ルームメイトがどんな子かって思ってたら昨日助けてくれた彼女で、寮長さんが来たと思ったら、いきなり部屋替えを勧められて、寮の食堂に行ったら思わぬ料金で、夜は夜で何故か葉月と東雲さんに自分の作った料理を食べさせることになっちゃって。


 そして明日からは、今度は新しい学園生活が待っている。

 今日以上に色んなことがあるんだろうか。


 期待と、不安と。

 やっぱり色んな感情がまだ心の中で燻っていた。


「ねえ、花音?」

「ん?」


 明日からの学園生活に思いを馳せていたら、葉月がすごく綺麗な微笑みを浮かべていた。一瞬、ドキッとしてしまう。


「明日から、楽しいといいね」


 また、思いもよらぬことを言われちゃった。見透かされているような……でも案じられているような、そんな感覚。


 だけど……葉月があどけない笑顔を向けてくれて、ホッと安心してしまった。葉月の笑顔につられて、自分も自然と微笑んでしまう。


「そうだね……葉月……」


 ルームメイトが優しい人でよかった。

 気を凄く遣ってくれる、優しい人。


 それが今はとてもありがたい。

 不安になってた心が、その笑顔を向けてくれて溶かされていく。


 安心できる。


 大丈夫だよって言ってくれてる気がする。


「楽しみだねっ」

「うん」


 ニコニコと楽しそうに笑ってくれる。


「今日は一緒に寝る、花音?」

「ええ? 1人でちゃんと寝れるよ?」

「ちぇ~残念」

「フフ」


 冗談を言って、葉月は私を笑わせてくれた。優しいな。本当に優しい。


 ありがとう、葉月。


 さっきまでの緊張は嘘のように無くなっていて、

 次の日の朝まで、私は心地よく眠りにつけた。


お読み下さりありがとうございます。

こんな感じで葉月視点、花音視点を交互に展開していく予定です。読みにくい場合は花音Sideの※印がついている話は飛ばしてください。1章これで終わります。次からは2章になります。

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