118話 やってしまった
えーっと……あれ? これどういう状況?
目の前にあるのは花音のドアップ。
目が覚めたら、何故か花音が目の前にいる件について、ちょっと緊急会議をしたいと思います。はい。
しかも花音さん。花音さんの腕が私の背中に回ってます、はい。そして何故だか自分も花音の腰に腕回してます。そして花音の体が密着して、胸の柔らかさもダイレクトに伝わっています。
つまり、固まってしまいました。
なんで!? なんでこんな状況!? ちょっと、分かりません!
――ん? あれ?
そういえば……久しぶりに夢見た気も……。
あれ……? でも何だか途中から花音が出てきたような気も……。
……夢じゃなかった?
もしかして……やっちゃった?
久しぶりに分からなくなっちゃった?
いや……いやいや。落ち着こう。落ち着け、私。
花音と一緒に寝たことは前にもあったじゃないか。ハグだって何度かしてますし。
……でも、あの時、次の日の朝には花音が先に起きてたんだよね。しかもこんな密着してなかったし、手だけ握られてたから。ハグもここまでずっと密着状態じゃないわけで。
どうしよう……いやホントどうしよう。
いっちゃん……いや無理。いっちゃんに怒られる未来しかない。
いやでも……。
もし、夢かどうか分からなくなってしまってたら、
ちゃんと花音に聞かないと、まずい。
もしかして……。
そう思って花音の様子を確認してみる。
……大丈夫っぽい。うん、可愛い寝顔ですね。そしてやっぱりいい香りですね。そして胸柔らかいですね。男の気持ちが少し分かりました。
とりあえずホッとする。
――ってそうじゃない!?
ハア……まず、あの夢見たのいけなかった。ところどころしか覚えてないけど。多分昨日、詩音に会ったせいだと思うけど。
……今更言っても仕方がない。
違うこと考えよう! そうしよう!
「……んっ……」
やっば、起きた? 起きちゃった? あれ、この状況で花音起きたらどうなるの?
……うん。多分、顔真っ赤になるんじゃないかなぁ。
「………………え」
あ、起きた。バッチリ至近距離で目が合いました。とりあえず――笑っとこう!
「え……え~と……おはよ~花音~」
「っっっっ!!!!」
ボンって音が鳴りそうなぐらい、一気に顔が染め上がっちゃった。バッと起き上がって私を見てから、手で顔を押さえてしまった。しかもどんどん丸くなってる。今までで一番動きが激しい。
「あ~その……花音?」
「……」
反応ない。怖い。昨日やっぱり何かあった?
「あの~……花音さん」
「…………」
反応ない! 怖い!
「……あの……花音~? もしも~し……?」
「…………葉月」
顔を手で押さえたままで名前呼ばれた。ちょっとビクッてなっちゃった。
「……な、何でしょう?」
「…………おはよう」
――今!? 朝の挨拶、今!? 随分時間かかったね!?
「う、うん。おはよ~花音」
ちょっとしてから、花音が顔から手をどけた。まだ若干赤いけど。
「……すぐご飯作るね」
そう言って、ベッドから降りようとする花音。えっ!? まさかのスルー!? この状況スルー!? ま、まずい。いや、でも聞かないと。
「あの……花音?」
「うん?」
花音はこっちを振り向いて、首を傾げている。あれ? なんでこんな普通なの? 何もなかった?
「あ、の~……その……」
「何?」
「いや、その……」
「葉月?」
「…………き……」
「き?」
「…………昨日……変な事……なかった?」
「………………」
……黙っちゃった。そして何で驚いた顔してるの?! やっぱり何かあった? 何かした?
「……覚えてないの?」
あ、これ。何かやったこと確定ですね。まずいですね。
「それが……覚えてません」
「……そっか。そうなんだ」
「私……何したかな?」
「………………魘されてたよ」
魘されてた?
「魘されて、辛そうだった」
「……他には?」
「それだけ」
え? それだけ?
「花音に何かしなかった……?」
「……ハグされて……そのまま離してくれなかった、かな」
だから花音が一緒に寝てたわけね。
「えっと……それだけ? 本当に?」
「……うん。それだけだよ」
それを聞いて安心したよ。
いや……ホント……本当に。
一気に脱力する。ベッドにまた背中から落ちてった。「え、葉月?!」ってちょっと焦った声が聞こえたけど、さっきの花音と同じように腕で顔を隠す。
良かった~良かったぁぁぁ! ちょっとハグしただけかぁぁぁぁ! それだけで済んで良かったよぉぉぉ!!
「あの、葉月、どうしたの?」
「……花音」
「何?」
「お腹空いた……」
「えっと……うん。すぐ作るね」
「花音……」
「ん?」
「そんなことしてごめんね……」
「……大丈夫だよ。寝ぼけて葉月、何も聞こえてないみたいだったから」
花音がキッチンの方に向かっていく足音を聞いて、心底ホッとする。しかも寝ぼけてたで納得してくれたみたいだ。まぁ、寝ぼけてたには近いんだけども。
でも……魘されてた、か。
そっかぁ。
魘されてるんだなぁ。
夢を思い出す。断片的だけど。
昔は毎日のように見ていた夢。
あの子のことは覚えてる。
そして彼女は手を伸ばしてくる。
私は顔を覆っていた腕を片方伸ばした。
その向こうに、彼女の手がある気がするから。
大丈夫。
大丈夫だよ。
だって私はもう、
あなたの手を取っている。
お読み下さり、ありがとうございます。




