116話 夢
目を開ける。
暗闇が広がっていた。
ここは?
そこは何もない部屋だった。
ああ、これ……夢か……。
ゆっくり部屋を見渡した。
久しぶりの夢だ。
もしかして……詩音を見て、思い出したのかな。
部屋にはやっぱり何もない。
家具もカーテンもベッドも何もない。
だけど……隅に行くと誰かいる。
女の子だ。
彼女は詩音ぐらいの年齢だ。
近づくと、彼女も気づいたみたいで、
ゆっくりこっちを振り向いた。
感情が見えない表情だった。
メイド長ともまた違う。
彼女は私を見て、
口角をあげた。
「あは……あはは、あははは!!」
そして笑い始めた。
黙って彼女を見つめる。
笑っている彼女を見つめる。
心臓がドクンドクンと脈を打つ。
息がし辛くなっていく。
「ねえ……? 何で黙ってるの~?」
彼女は立ち上がって、ゆっくりと体を左右に振りながらこっちに近づいてきた。
「ねえ……なんで~?」
私は黙る。息が荒くなる。
心臓がうるさくなる。
「なんでしないの~?」
一歩一歩近づいてくる。
「一緒にしよ~~~!!!!」
彼女が伸ばしてきた手を掴もうとして、違う誰かの小さい悲鳴が聞こえた。
□ □ □
ハァッハァッハッ!
自分の呼吸する声が聞こえる。
目の前には花音がいた。
なに、
なんで?
思考がまとまらない。
「ごめん……葉月が魘されてるみたい……だったから……」
目の前の花音が声を出す。
ここ……なんで……。
私の下に花音がいる。
押し倒してる格好だ。
夢?
現実?
分からない。
今どちらかが分からない。
ハァ! ハァ! ハァ!
呼吸が荒い。
苦しい。
「はづ……き……?」
この花音は夢?
現実?
……いっちゃん……どこ?
「葉月……大丈夫……?」
目の前の花音が分からない。
いっちゃん……いない……夢……?
でも、
あの子、
いない。
「葉月? 聞こえてる……?」
ハァ……ハァ……。
段々力が入らなくなって、夢か現実か分からない花音の上に体が倒れた。
「葉月……?」
花音の香りがして、
段々呼吸が落ち着いてくる。
これ、
落ち着く。
夢か現実か分からない花音の腰から、背中にそっと腕を回してみる。
花音が体を震わせる。
掴める……?
現実……?
でも、分からない。
思考がぐちゃぐちゃだ。
花音の温もりが伝わってくる。
でも、
これは、夢?
「葉月……聞こえてないの……?」
花音の優しい声が落ちてくる。
でも、
これは、どっち……?
段々呼吸も落ち着いてきた。
瞼が落ちてくる。
背中に暖かな感触が触れてきた。
落ち着く。
あったかい。
あれを飲んだ時みたいに、真っ暗になった。
お読み下さり、ありがとうございます。




