115話 公園にて
「どぅわー! ちょっとー! レイラ! どこ蹴ってるのかな!?」
「あ、あら? おかしいですわね?」
「おねえちゃん、へたー! ちゃんとけってよ?」
「んなっ! なんですって!?」
「ダメだよ、礼音! 運動下手な人にそんなこと言っちゃ!」
「こら! 詩音も礼音もだめだよ、そんなこと言ったら! ごめんね、レイラちゃん」
いや、花音? それ、レイラが下手だし運動音痴だって認めてない? レイラが気づいてショック受けてるよ?
公園にやってきた礼音と詩音は、さっそく花音を引っ張って遊び始めた。余程遊びたかったんだね。舞とレイラも混じって一緒にサッカーやってるよ。
私といっちゃんは、木の下でのんびりお茶と花音のお菓子を味わっていた。この公園は休日とかにもよく家族連れとかも多く訪れてる場所だ。緑いっぱいの芝生で覆われている。ちょっとしたピクニック気分だね。
あっ、またレイラが変なところに蹴ってる。しかも変な蹴り方。ホントに残念だよ、レイラ。
礼音がちょっと怒りながら「へたー!」って言いながらボールを追いかけてた。それを聞いた詩音がまた怒って、そのあと2人を花音が怒ってた。舞は「あっはっはっ! 下手すぎる! なんでそんな変な蹴り方なの!」ってめっちゃ笑ってる。舞、レイラがそれ聞いて、かなりショック受けてるよ。
それにしても子供は元気だね~。礼音も詩音も、あっちいったりこっちいったり走り回ってるよ。
そういえば、私たちもそうだったかもね。レイラを私が追い掛け回して、それを止めるためにいっちゃんが私を追いかけて。
懐かしい、思い出だ。
「いっちゃん」
「ん?」
「ちょっと懐かしいね……」
「……そうだな。礼音くらいの時は、あたし達もああやって走り回ってたな……」
「……そだね」
だけど。
詩音を見る。
もうあの頃になってからは、
ほとんど記憶がおぼろげだ。
覚えてるけど、
覚えていない。
花音の持ってきたドーナッツを一口食べる。はちみつの甘さが沁み込んでくる。
「いっちゃん」
「ん?」
「……」
「なんだ?」
「……後悔してない?」
「……何をだ?」
「あの時……引き受けたこと……」
私は中等部に上がる時にいっちゃんに頼んだ。
一緒に寮に入ってほしいと。
ストッパーになってほしいと。
ハアとお茶を飲んでたいっちゃんが、いつものように呆れて溜め息をついている。
「今更、何を言っている」
「……そだね」
「あたしが自分で決めたんだ」
「うん……」
「それをお前がグダグダ言うな」
「…………そだね」
………………ごめんね、いっちゃん。
縛り付けてごめんね。
変わらなくてごめんね。
「なぁ、葉月」
「ん~?」
なーに、いっちゃん。
「皆、お前のこと大事に思ってるんだよ……」
「………………うん」
「それだけは……絶対忘れるな……」
「…………分かってるよ」
ちゃんと分かってるよ。
私はまた詩音を見た。
笑っている。楽しそうだ。
花音もまた笑っている。
みんなみんな、笑っている。
その笑顔が、ずっとずっと続きますように。
「ちょっと~! 一花も葉月っちもおいでよ! いつまでまったりしてるのさ!」
舞が呼んでいる。
「いこっか、いっちゃん」
「そうだな。でもお前、変なことするなよ。詩音と礼音に変な影響を与えるな。あの2人はまだ子供だからな」
「それはいっちゃんが止めなきゃね」
「はーやれやれ――って、ちょっとは自分でも抑えろ!?」
「さってとー。なーにしよっかなー」
「待て、葉月! 何もするな! しなくていいんだよ!」
「いっちゃん、それじゃつまらないでしょ?」
「お前の場合つまらなくていいんだよ!?」
つまらないのはだめだよ、いっちゃん。どうせだったら面白くしないとね!
わめくいっちゃんを置いて、舞たちのところにいった。
※※※
「あの……いっちゃん?」
「言うな……あたしも分からん」
「では花音様。お2人は必ずご自宅までお届けしますので」
「は、はい。よろしくお願いします」
時刻は夕方。礼音と詩音は遊び疲れたのか、いっちゃんが呼んでくれた車の中で寝ている。
いや、それよりも。
「なんでメイド長がまた来たの……?」
「何を言っているのです、葉月お嬢様? たまたまですよ?」
「たまたま……なのか……?」
「ええ、一花お嬢様。実は沙羅様への用事でたまたまこちらに来ていましてね。そうしたら、一花お嬢様からの連絡がたまたま入りまして。だから、たまたまです」
たまたま、言いすぎじゃない? 本当に偶然?
「まあ、全部嘘ですけどね」
「「嘘!?」」
私といっちゃんの声がハモったよ! だって、メイド長が嘘言ったよ!?
「用事があったのは、花音様にでしたので」
「え? 私ですか?」
「ええ、こちらを。あの時のハーブティーです」
「あ、わざわざありがとうございます」
「こちらがおいしく飲むための順番と分量ですので。葉月お嬢様には少しぬるめにして出してあげてください」
え、なんで?
「それが一番安心するはずですよ」
「あ、はい。分かりました」
温度……関係あったんだ。
「では、葉月お嬢様、一花お嬢様。失礼いたします」
そう言って、いつもの無表情でさっさと車に乗り込んで詩音と礼音を連れて行ってしまった。っていうか……なんでメイド長が運転していったの? 一緒に来た人がどうして助手席なの? めっちゃ困ってたんだけど。
「葉月、考えるな」
「でも、いっちゃん」
「考えたら負けだ……」
「……そだね」
その日の夜、花音がもらったハーブティーを淹れてくれた。確かにこの前と一緒でホッとしたよ。それを見た花音がちょっと目を丸くして、柔らかく微笑んでいた。
え、なんで?
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