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110話 綺麗……だね —花音Side※

 


「おや、これは花音様」


 祭りの会場で、一花ちゃんの言ってた言葉が頭を過る。なるほど、意外な人だ。


 何故か私たちの部屋から、鴻城(こうじょう)のお屋敷にいたメイド長さんが現れた。


 ななな、何でここにいるんだろう? さすがに予想外すぎるよ。無表情で見つめられると、余計どうしようって思いが強くなる。


「お早いお帰りですね。ご友人たちと花火を見てくるのでは?」

「そ、その、葉月と見ようかな……と思いまして」

「……そうでしたか。ではこちらを」


 渡されたのは、何故か葉月のおやつ用に作ってあったクッキーが入った袋。それにカップ?


「葉月お嬢様は現在、屋上で花火鑑賞中でして」


 上を指差しながら、メイド長さんがやっぱり無表情のまま告げてくる。声も淡々としているから感情も読めない。


 屋上……開いてたの? でも早くしないと、花火も終わっちゃうかも。来る途中で上がり始めていたから。


「わたくしはお部屋のバスルームの準備をしておきましょう。花火が終わったら、花音様がすぐ入れるようにしておきますので」

「へ? あ、あの!?」


 パタンとドアを閉められた。

 あ、あれ、おかしいな? なんで私閉め出された感じになったんだろう? ここ、私と葉月の部屋のはずなんだけど? そして準備してもらうとか申し訳ないんだけども。


 …………後でお礼言えばいいかな。考えたらだめな気がしてきた。勘がそう告げている。どうしてかは分からないけど。


 とにかく葉月の所に行こう。



 屋上に向かうと確かにドアが少し開いていた。

 胸が自然と騒がしくなる。


 静かに開けると、空を見上げながら、壁に寄り掛かって座っている葉月がいた。


 その姿が見えてホッとする。


「葉月」


 名前を呼んで見下ろすと、ポカンとしたように目を丸くさせながら葉月が見上げてきた。驚いてるよね、そうだよね。……そんな驚いている顔も可愛いけど。


「さっきメイド長さんに会ったよ。どうしてここにいるのか分からないけど」

「………………」

「クッキーも受け取ってきた。あと露店でたこ焼きも買ってきたから食べよ? 一花ちゃんから葉月にって持たされたんだけどね」

「あの……花音?」

「ん?」

「随分……早い帰りだね……?」


 ――そうだね。そう思うのも当然かな。ただ会いたくなった、なんて言ったら葉月も困惑するよね。


 クスっと笑って、葉月の隣に座った。あまり浴衣が着崩れしないようにしないと。



「花火ぐらいは葉月と一緒に見たいなって思ったの」



 けどこれも本心だよ。


 まだ驚いている様子の葉月を余所に、たこ焼きとクッキーを広げた。なるほど、メイド長さんにカップを持たされたのは、このポッドを使ってお茶淹れてくださいねってことかな。ハーブティーだ。出涸らしにはなったけど、いい香り。


「まさか屋上が開いてるとは思わなかったけどね」

「……メイド長が開けちゃって」

「そうなんだ、東海林先輩には言っておくね」


 葉月が開けたんじゃなかったんだ。そうだよね、前に開けられなかったって、悔しそうに頬を膨らませてたものね。


 葉月が開けられなかった鍵を開けたメイド長さんって何者? あ、少し心配そう。


「大丈夫だよ。葉月がやったとはならないから」


 途端に表情が明るくなった。大丈夫だよ、葉月が嘘ついたとか思ってないよ。


「ほら、葉月たこ焼き冷めちゃうよ?」


 たこ焼きを勧めると、恐る恐ると言った感じで一個口に入れている。モグモグしながら、チラチラこっちを見てくる。何でいるんだろう? って思ってるんだね、まだ。


「あの、花音?」

「ん?」

「会長たちは?」

「花火見てると思うけど? あ、一花ちゃんと舞も結局合流してね。東海林先輩たちと一緒に見てると思うよ?」

「そ、そう……」


 ……なんだろう、今の葉月、さっき別れた時とも違う気がする。子供みたいに見える。聞いちゃいけないことを私に聞いているみたいな、どこかオロオロしているようにも見える。予想外に私が現れて、動揺しているとか? まさかね。


「……花音、お祭りどうだった?」

「うん、楽しかったよ。会長がヨーヨー釣りで失敗して、意地張って何回も挑戦してた。それを東海林先輩が止めてたけど」


 夏祭りであったことを話して、淹れたハーブティーを一口飲んだ。いい香りが口内に広がる。


「あ、これおいしい」


 味も飲んだことない味。素直に美味しいって言葉が出てくる。何の葉っぱだろう?


「……メイド長が持ってきた」


 ポツリと小さい声で葉月が呟く。


 やっぱり今の葉月はいつもより幼く見える。話し方のせい? でもメイド長さんが? ということは――。


「そうなんだ。もしかして家から?」

「多分」

「そっか、じゃあきっと高級なんだろうな。私には手が出ないや」


 普通のスーパーとかでは置いてないんだろうな。専門店とかかな?


「……いっちゃんに言えば大丈夫だよ」

「一花ちゃん?」

「家との連絡は――いっちゃんがしてくれてるから……頼めば送ってくれる……はず」


 言いにくそうに、でもゆっくりポツリポツリと言葉を紡いでくれる。


 家の事、こんな風に話してくれるのは初めてかもね。それがすごく嬉しく感じる。


「そっか。葉月はこれ好きなの?」

「……まぁ、懐かしい……かな」


 ふふ、好きとは言わないんだ。でも気に入ってるんだね。懐かしいって思わせてくれるハーブティーなんだ。


「じゃあ、一花ちゃんに頼んでみるね」


 こればっかりは頼りにさせてもらおう。いつでも葉月に飲んでほしいから。


 また一口飲む。うん、やっぱりおいしい。どこかホッとする味と香り。気に入るのも分かる気がする。


「花音……? 夏祭り行く時、何言おうとしたの?」

「え?」

「寮長に急かされる前。何か言おうとしたでしょ?」


 ……あれは……あの時の葉月が、見たことない顔しているから不思議に思ったの。


 辛そうにも見えて、

 悲しそうにも見えて、

 だけど優しい穏やかな微笑みをしていて、

 目が離せなかった。


「あれは……ううん。何でもない」

「そう?」

「うん」


 そんなこと言えないよ。


 あの顔を見て、胸がギュッと締め付けられたなんて言えないよ。



 ドンドンッ!



 また花火が上がる。


 綺麗に夜の空に花が咲く。



 ふと、隣の葉月の横顔が視界に入った。



 ……あ。


 一花ちゃんに見せたあの微笑みを浮かべながら、


 葉月は花火を見上げている。


 これ。

 この笑顔。


 胸をギュッと締め付けてくる。


「花音……」

「ん?」

「…………綺麗だね……」


 花火を見て、葉月は感動しているような声を出す。

 花火はどんどん上がっていく。

 その光が、葉月の顔を照らしていく。


「…………うん……」


 綺麗。


 その優しい瞳も、

 どこか切なげな表情も。


 音が鳴る。


 花火が夜の空を照らしていく。


「そうだね………………葉月……」


 その光が葉月の横顔を照らしていく。


 その光が余計、葉月を綺麗に映す。


 ドクンドクンと心臓が早鐘を打っていく。



 ドンッ!



 と、特大の花火が上がった。


 音が、振動が、屋上にいる私と葉月にも届いてきた。


 だけど、


 だけど私は葉月を見てた。


 葉月に魅入られていた。



「綺麗………………だね……」



 綺麗で、眼を離せない。

 心臓の鼓動が鳴りやまない。

 締め付けてくるのを押さえられない。


 もう誤魔化せない。


 誤魔化せないよ。


 どうしよう、葉月。



 どうしよう。




 私、




















 あなたに恋してる。





ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

これで5章終わりになります。

そして、ここでやっと物語の中盤かなというところです。


今後の展開についてなのですが、6章後半から起承転結でいう“転”に入ってまいります。シリアスな展開も入ってきつつ、あらすじで書いた、人によっては気分が悪くなるかもしれないシーンもあります。なので、そういった話数の前書き、後書きに注意書きをさせていただきたく思います。無理に読まなくてもいいように〇〇話まで飛ばしてくださいと書いてありますので、ご承知いただければ幸いです。


長々とすいません。最後まで二人を見守っていただければ嬉しい限りです。

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