105話 夏祭りを見送って
「じゃあ、行ってくるけど……本当に1人で大丈夫か?」
「大丈夫だよ~多分」
「多分ってなんだ、多分って!?」
「いっちゃん、未来のことは誰にも分からないんだよ」
「それはつまり……どういうことだ?」
「つまり私も、絶対とは絶対言えないわけだよ!」
「……それで?」
「絶対何かをしでかさないとは絶対言えません!」
「つまり何かしでかす気か!?」
「さっきカエル拾ったから愛でてみようかと」
「どう愛でるつもりだ!?」
それは今から考えようかと思ってね。ちなみに5匹もいたんだよね。
どうしよっかな~とか考えていたら、クスクスと笑って、花音が浴衣姿で舞と一緒に寮の出入り口にやってきた。
「ごめんね、葉月。そのカエルさんなんだけどね。間違って入ってきたのかなと思って、外に逃がしてあげちゃった」
なんですと!?
「花音って度胸あるよね……あたし、触るのも無理なんだけど……」
「……さすがに慣れちゃって」
花音慣れちゃったの!? 最初は触るの怖がってたから油断してた! ガーンって顔してたら、いっちゃんがにんまり笑ってきた。
「葉月。いいか? 大人しくしとけよ?」
「むー。わかったよー」
「葉月、ご飯温めて食べてね?」
「ん~」
「葉月っちもくればいいじゃん」
「めんど~だからいい~」
カエルがいなくなったのは予想外だった。一気に暇になっちゃった。でも行くのは気が引けるんだよ~……。
ふと、いっちゃんが心配そうに見てきた。
「いっちゃん?」
「……やっぱりあたしも残るか?」
も~……今更何言ってるのさ。イベント見るんでしょ~? いっちゃんの為だったら一日ぐらい我慢するよ~。
「行っといでよ~いっちゃん。行きたいんでしょ~?」
「だが……」
「ちょっとちょっと一花!? 今更行かないとか!? そうするとあたし1人なんですけど!?」
「大丈夫だよ~いっちゃん。舞のナンパが全部失敗するところ見ておいで~?」
「失礼だよ、葉月っち!? あれ? 違う! ナンパしないよ、葉月っち!」
「いいから、行っといで~」
ヒラヒラと手を振って、いっちゃんを促す。
でも、いっちゃんは不安そうだ。
仕方ないな~……今回だけは、自分でもちょっと頑張ってみますかねぇ。
そう思って、スウッと自覚して、いっちゃんに微笑んだ。
「……今日は絶対しない。約束するから、ね?」
いっちゃんが目を丸くしてる。
でも分かるよね? 私はちゃんとここにいるんだよ。
「お前……」
うん……その顔は分かってくれてるね。泣きそうだもん。いっちゃんは下を向いてしまった。でも、顔をあげたらいつものいっちゃんだった。
「…………終わったらすぐ帰ってくる」
「うん」
「いくぞ、舞」
「へっ? ちょっと待ってよ一花!」
さっさと踵を返したいっちゃんを、舞が慌てて追いかけていった。
ホント仕方ないな、いっちゃんは。
どこまで抑えれるか分からないけど、
今日だけ特別ね……。
いっちゃんの小さい背中を見送る。
あれは私の我儘で我慢している背中だ。
だから、ちょっとだけでも、自分の好きな事に没頭してほしいんだよ。
さて、仕方ない。いっちゃんとのガチ約束だ。部屋でジッとしてよう……と思ったら、花音がこっちを見ていた。あれ、花音? どうしたの? ずっとこっち見ちゃって。
「……葉月?」
「ん~?」
「…………何でもない」
ええ? どしたの?
首を傾げていたら、寮長がやってきた。
「ごめんなさいね、遅れちゃって」
「いえ、私もさっき準備できたところですから」
「じゃあ、行きましょうか。小鳥遊さん? くれぐれも……くれぐれも問題起こさないようにね!」
「やだな~寮長。大丈夫だよ~。寮長の部屋に入って遊ぶぐらいだよ~?」
「入らないでちょうだい!?」
「冗談だよ~冗談。さっきいっちゃんとガチの約束したから大丈夫~」
「……信用できないって恐ろしいわね」
「私もそう思うよ、寮長」
「あなたが言わないでほしいんだけどね……」
はーやれやれ、みたいな感じで寮長が首を振ってる。そんな寮長はほっといて、花音に向き直った。
「花音~、楽しんできてね~?」
「……うん。私も早めに帰ってくるね」
「大丈夫だよ~。ゆっくりしといで~」
花音の頭を崩れないように、ポンポンとしてあげる。舞がやってくれたみたい。
だけど、花音はずっとこっちを見ていた。
何か変だな? どうかしたの?
「花音~?」
「……葉月、あの……」
「ん~?」
何かを言おうとして止める花音。どこか花音自身も困ってる感じ。どうしたんだろ?
花音が何かを言うのを待ってると、寮長が「待ち合わせに遅れるわ」って言って花音を呼んできた。ああ、会長たちと待ち合わせだもんね。
これから花音は会長とのイベントがある。
花音が行かないと、いっちゃんが見れなくなっちゃうな。それに、会長といる時の花音はちょっと楽しそうだし、折角だから今回も楽しんでほしいんだよね。
「行っといで~花音」
「………………うん」
何だか渋々と言った感じで送り出してしまったけど、大丈夫だよね? まあ、帰ってきたらいつもの笑顔が見れるでしょ。
花音を見送ってから、自分の部屋に戻る。静かだな~って思った。そういえば寮で1人って初めてかもしれない。花音かいっちゃんか、どちらかは必ずいたからね。
んーって背伸びしてからベッドにダイブした。本当は何もしないためには寝るのが一番何だけど……それはそれで厄介なんだよね~。というか、まず眠くならない。
どうしよーって、ぼーっとしてると、コンコンと音が鳴る。
誰? 花音が忘れ物とか? でもそれだったらノックしないし。
仕方ないから起き上がって、ドアを開けた。
「お久しぶりです。葉月お嬢様」
速攻閉めた。
いや、だってメイド長の幻が見えたから。おっかしいな~。疲れてるのかな……。
ガチャっと今度は勝手にドアが開く。
あれ……やっぱりメイド長が見えるような?
「本物です、お嬢様」
…………なんで!?
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