表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/366

105話 夏祭りを見送って

 


「じゃあ、行ってくるけど……本当に1人で大丈夫か?」

「大丈夫だよ~多分」

「多分ってなんだ、多分って!?」

「いっちゃん、未来のことは誰にも分からないんだよ」

「それはつまり……どういうことだ?」

「つまり私も、絶対とは絶対言えないわけだよ!」

「……それで?」

「絶対何かをしでかさないとは絶対言えません!」

「つまり何かしでかす気か!?」

「さっきカエル拾ったから愛でてみようかと」

「どう愛でるつもりだ!?」


 それは今から考えようかと思ってね。ちなみに5匹もいたんだよね。


 どうしよっかな~とか考えていたら、クスクスと笑って、花音が浴衣姿で舞と一緒に寮の出入り口にやってきた。


「ごめんね、葉月。そのカエルさんなんだけどね。間違って入ってきたのかなと思って、外に逃がしてあげちゃった」


 なんですと!?


「花音って度胸あるよね……あたし、触るのも無理なんだけど……」

「……さすがに慣れちゃって」


 花音慣れちゃったの!? 最初は触るの怖がってたから油断してた! ガーンって顔してたら、いっちゃんがにんまり笑ってきた。


「葉月。いいか? 大人しくしとけよ?」

「むー。わかったよー」

「葉月、ご飯温めて食べてね?」

「ん~」

「葉月っちもくればいいじゃん」

「めんど~だからいい~」


 カエルがいなくなったのは予想外だった。一気に暇になっちゃった。でも行くのは気が引けるんだよ~……。

 ふと、いっちゃんが心配そうに見てきた。


「いっちゃん?」

「……やっぱりあたしも残るか?」


 も~……今更何言ってるのさ。イベント見るんでしょ~? いっちゃんの為だったら一日ぐらい我慢するよ~。


「行っといでよ~いっちゃん。行きたいんでしょ~?」

「だが……」

「ちょっとちょっと一花!? 今更行かないとか!? そうするとあたし1人なんですけど!?」

「大丈夫だよ~いっちゃん。舞のナンパが全部失敗するところ見ておいで~?」

「失礼だよ、葉月っち!? あれ? 違う! ナンパしないよ、葉月っち!」

「いいから、行っといで~」


 ヒラヒラと手を振って、いっちゃんを促す。

 でも、いっちゃんは不安そうだ。


 仕方ないな~……今回だけは、自分でもちょっと頑張ってみますかねぇ。


 そう思って、スウッと自覚して、いっちゃんに微笑んだ。



「……今日は絶対しない。約束するから、ね?」



 いっちゃんが目を丸くしてる。

 でも分かるよね? 私はちゃんとここにいるんだよ。


「お前……」


 うん……その顔は分かってくれてるね。泣きそうだもん。いっちゃんは下を向いてしまった。でも、顔をあげたらいつものいっちゃんだった。


「…………終わったらすぐ帰ってくる」

「うん」

「いくぞ、舞」

「へっ? ちょっと待ってよ一花!」


 さっさと踵を返したいっちゃんを、舞が慌てて追いかけていった。


 ホント仕方ないな、いっちゃんは。

 どこまで抑えれるか分からないけど、

 今日だけ特別ね……。


 いっちゃんの小さい背中を見送る。

 あれは私の我儘で我慢している背中だ。

 だから、ちょっとだけでも、自分の好きな事に没頭してほしいんだよ。


 さて、仕方ない。いっちゃんとのガチ約束だ。部屋でジッとしてよう……と思ったら、花音がこっちを見ていた。あれ、花音? どうしたの? ずっとこっち見ちゃって。


「……葉月?」

「ん~?」

「…………何でもない」


 ええ? どしたの?

 首を傾げていたら、寮長がやってきた。


「ごめんなさいね、遅れちゃって」

「いえ、私もさっき準備できたところですから」

「じゃあ、行きましょうか。小鳥遊さん? くれぐれも……くれぐれも問題起こさないようにね!」

「やだな~寮長。大丈夫だよ~。寮長の部屋に入って遊ぶぐらいだよ~?」

「入らないでちょうだい!?」

「冗談だよ~冗談。さっきいっちゃんとガチの約束したから大丈夫~」

「……信用できないって恐ろしいわね」

「私もそう思うよ、寮長」

「あなたが言わないでほしいんだけどね……」


 はーやれやれ、みたいな感じで寮長が首を振ってる。そんな寮長はほっといて、花音に向き直った。


「花音~、楽しんできてね~?」

「……うん。私も早めに帰ってくるね」

「大丈夫だよ~。ゆっくりしといで~」


 花音の頭を崩れないように、ポンポンとしてあげる。舞がやってくれたみたい。


 だけど、花音はずっとこっちを見ていた。

 何か変だな? どうかしたの?


「花音~?」

「……葉月、あの……」

「ん~?」


 何かを言おうとして止める花音。どこか花音自身も困ってる感じ。どうしたんだろ?


 花音が何かを言うのを待ってると、寮長が「待ち合わせに遅れるわ」って言って花音を呼んできた。ああ、会長たちと待ち合わせだもんね。


 これから花音は会長とのイベントがある。


 花音が行かないと、いっちゃんが見れなくなっちゃうな。それに、会長といる時の花音はちょっと楽しそうだし、折角だから今回も楽しんでほしいんだよね。


「行っといで~花音」

「………………うん」


 何だか渋々と言った感じで送り出してしまったけど、大丈夫だよね? まあ、帰ってきたらいつもの笑顔が見れるでしょ。


 花音を見送ってから、自分の部屋に戻る。静かだな~って思った。そういえば寮で1人って初めてかもしれない。花音かいっちゃんか、どちらかは必ずいたからね。


 んーって背伸びしてからベッドにダイブした。本当は何もしないためには寝るのが一番何だけど……それはそれで厄介なんだよね~。というか、まず眠くならない。


 どうしよーって、ぼーっとしてると、コンコンと音が鳴る。


 誰? 花音が忘れ物とか? でもそれだったらノックしないし。


 仕方ないから起き上がって、ドアを開けた。



「お久しぶりです。葉月お嬢様」



 速攻閉めた。


 いや、だってメイド長の幻が見えたから。おっかしいな~。疲れてるのかな……。


 ガチャっと今度は勝手にドアが開く。


 あれ……やっぱりメイド長が見えるような?



「本物です、お嬢様」



 …………なんで!?


お読み下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ