表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/366

103話 夏祭りのために

 


「あの……皆……ここ入るの?」

「そうだが?」

「そうだね~」

「そうだけど?」


 1人顔を青褪めさせてる花音。


 ここは街中。今日は夏祭りに行く浴衣を皆で買いにきた。私は行かないし、いらないんだけどね。いっちゃんが行くから付いてきた。


 そして私たちの前には、いかにも高そうな服や靴が並んでいるブティックが建っている。


「ね、ねえ……私、こんなところで買えないんだけどな……」

「大丈夫だよ~、花音~?」

「いや、葉月? 私、そんな手持ちなくて」

「大丈夫だ、心配するな」

「あたしらだってそんな持ち歩いてるわけじゃないからさ! ほら行くよ、花音!」

「舞、ちょっとまっ――」


 花音が舞に引っ張られて入っていく。若干、引き摺られてる感が出てるよ。まあ、花音は金銭感覚が私たちと違って普通だからね。物怖じしちゃうのも分かるけども。


 いっちゃんと私も舞たちを追いかける。行先は3階だ。そこが今の季節は浴衣売場になっている。


「ごめん! 無理!」


 先に行った花音の無理発言が聞こえてきた。おろ? どしたの?


 2人を見つけると、ある場所で舞と花音が浴衣を見て止まってる。


「そ、そう? ここら辺だったら花音でも大丈夫だと思ったんだけどな~」

「いや、舞!? さすがに無理!! ごめん!」


 花音がここまでハッキリ言うのも珍しいですね。


「おい、舞。何を見せた?」

「あ、一花。ここら辺だったら金額的に花音でも大丈夫だと思ったんだけどね」


 舞が見せてくれた値礼は桁が6桁だった。うん。花音には無理じゃないかな。いっちゃんも呆れてる。


「お前の金銭感覚がおかしいことはわかった」

「え? でも一花たちが普段着てる服はこれ以上してるんじゃない?」

「それはそうだが……花音の感覚とお前の感覚は違うってことは覚えとけ」

「い、一花ちゃん……!」


 救世主を見るような目でいっちゃんを見てるよ。やれやれだね、舞は。こんな金額、私たちはともかく、普通の一般家庭がポンっと出せる金額じゃないでしょ~。


「花音~、こっちおいで~」


 呼んだら花音がちょっとビクついてる。大丈夫だよ~。ここ、いっちゃんとも来てる店だから。この店はね、幅が本当に広いんだよ。


「大丈夫だから~おいで~?」

「一花ちゃん……」

「大丈夫だ。安心しろ」

「わ、わかった」


 何でいっちゃんに確認するの? 本当に大丈夫だってば~。


 いっちゃんに促されて、私がいる場所まで来る花音。恐る恐るといった感じだ。


「ほら、ね~? こっちだと大丈夫じゃない?」

「あ、本当だ……うん……これぐらいなら……」


 納得したような感じで値段を見てる。うんうん。ここら辺りのだと花音でも買えると思うよ。


「色々見てみよ~花音~」

「うん。ありがとう、葉月」

「へ~この店こんなコーナーもあったんだね。いつも来てるけど知らなかった」

「それはお前の感覚がズレてるからだ。あたしと葉月もこういう値段の服は持ってる」

「いや、だっていつも値段見ないで買ってたからさ」

「それでよく入ってくる時に、花音に大丈夫だって言えたな……」

「いや、手持ちはあたしも持ってないよ? いつもカードだもん」

「……お前の父親はお前にカード預けたのか。あたしだったら怖くて持たせられない」

「あっはっは! そういえば、前に買いすぎてパパに怒られたことあったわ! 今思い出した!」

「遅いわ!?」


 いっちゃんと舞が何やら話をしてるけど、2人も買うんでしょ? 見なくていいの?


「いっちゃんも舞も選ばなくていいの?」

「そうだね葉月っち。一花、ちょっと向こうも見てみようよ! さっき見たら、一花に似合いそうな柄があったんだよね!」

「いや、あたしもここらで大丈――って引っ張るな! わかった! 行くから! あっ、おい、葉月! お前は大人しくしてろよ!」


 いっちゃんの責任感の素晴らしさ。あんなに強引に引っ張られても、私への注意を忘れないなんて……わかったよ! いっちゃん!


「大丈夫だよ! いっちゃん! 前みたいに糸引っ張らないよ! 切っておくね!」

「不安を煽るな!? 待て、舞! 離せ!」

「花音がいるから大丈夫だって! ほら行くよ!」


 何かを叫びながら行っちゃった。同じフロアだから大丈夫だと思うけど。それにいっちゃん、ここ店内だよ。そんなに大きな声出しちゃダメだと思う。ん? 花音? どうしたの? 怖いよ、その笑顔。


「葉月? 今日、何かやったら玉ねぎサラダ決定だからね?」


 あ、これ本気だ。しません。そして話題をさっさと逸らそう。


「それより、どれにするの~?」

「話題逸らしても駄目だからね?」


 失敗。


「あら、葉月お嬢様? 来ていたんですか?」


 後ろから声を掛けられた。ああ、店長さんだ。


「今日は何をお求めですか?」


 にっこり笑っている。この人、私が来たの気づいたら、ピッタリ張り付いてくるんだよね。多分、前に10着ぐらい糸を無理やり引っ張って駄目にしたの、根に持ってる。でもあの時全部買い取ったじゃんね~。あ、花音が首を傾げている。


「花音、ここの店長さんだよ~」

「あら? 今日は一花お嬢様と一緒じゃなかったんですね」

「いっちゃんも来てるよ~。向こうに引っ張られてった~」

「ひっぱ……? ……葉月お嬢様より厄介?」


 なんでそれで厄介になるの? 店長の中でいっちゃんが引っ張られるってそういうことなの?


 少し思案顔になった店長が気を取り直して、また営業スマイルを浮かべている。


「それで、今日はどういったご用件でしょう? わたくしが見繕いますので、はい」


 あ、これ私に触らせない気だ。でも店長に選ばせると高いの売ってくるんだよね~。今日は私の買い物じゃないんだけどな~。


「花音~? どうする~? 店長に見てもらう~? 高くなるけど」

「遠慮します」


 即答だった。そだよね。無理だよね~。店長は目をパチパチとさせて花音を見てきた。あ、これ全然花音のこと見てなかったね~。


「葉月お嬢様、その子は……」

「ルームメイト~」

「葉月お嬢様の!?」


 えっ、どうしてそんな口を押えて驚いてるの? そしてどこか哀れんだ目で花音を見ているよ。なんで?


「心中……心中お察しします……」

「へっ!? いや、あの、えーとー……」


 いやいや店長。大げさ過ぎない? なんで涙も出てるのさ。っていうか、これじゃ浴衣花音が選べないよ。


「店長~邪魔しないで~。花音が浴衣見れないよ~」

「浴衣? 夏祭り用ですか、もしかして?」

「そう。手頃な値段で買いたいの~。だからここらにいるんだよ~。店長に任せると、とてもじゃないけど買えないんだよね~」

「まあ、葉月お嬢様? 何か勘違いなさっていますが、このお店は本来誰でも買える服を売っているのです。葉月お嬢様は金づ――じゃなかった。如月(きさらぎ)沙羅様から頼まれてるので、相応の物を選ばせてもらっているのですよ」


 今、叔母さんのこと金づるって言わなかった? いいの、そんな本音ポロっとして?


「とにかく、ちゃんとお客様に合わせてプレゼンするのがわたくしの仕事ですので。では、こちらのお嬢様に合う浴衣を見繕わせていただきますね?」


 何か勝手に話を進めてるけど、花音がこっち見てブンブンって不安そうな顔を横に振ってるよ。


「花音~予算ちゃんと言えば、似合うの選んでくれるみたいだよ~?」

「でも……」

「安心してください。さあ、行きましょう。こちらへどうぞ」

「えっえっ、葉月!?」

「店長、花音に無理させちゃだめだよ~?」


 店長が花音をどこかに強引に連れて行ってしまったよ。一応言っといたけど、あんまりな値段だったら、花音に言わないで私が払ってもいいしね。いっか。


 ということで、暇になった私はちょっと近くをブラブラ。髪飾りのコーナーでキョロキョロ見てみる。どうせだったらこっちも揃えた方がいいかもね~。


 ん、これ……花音に似合うんじゃない?

 ちょっとシンプルな白い牡丹の花飾り。花音って白が本当似合うんだよね~。清楚なお嬢様コーデでガッツリ着飾らせてみたい。


「葉月お嬢様。こちらへどうぞ」


 花飾りを手に持って見てたら店長が戻ってきた。というか花音は? 何でそんな満足気なの?


 とりあえず店長についていったら、まあびっくり。しっかり着付けられた花音がそこにいましたよ。


 というか、

 

 綺麗。


 浴衣の色は淡い青。ガラはそれこそ牡丹柄。シンプルだけど、そのシンプルさが、花音を儚げなお嬢様にしてる。


「……どうかな?」

「ふふ、ちゃんとお嬢様の予算をお聞きして、見繕わせて頂きました」


 うん。店長、やるね。これは完璧ですよ。


「可愛いよ~花音~」

「あ……ありがとう……」


 あっ真っ赤になっちゃった。でも本当に似合ってるよ~。そうだ。


「あと、これもかな~?」


 手に持ってた花飾りをつけてあげて、出来上がり。花音がきょとんとしてたけど。


「似合いますね」

「店長もそう思う~?」

「ええ、ですが葉月お嬢様。そちらの花飾りを入れると予算がオーバーしてしまいますが」

「いいよ~。花飾りぐらいだったら私が払うから~」

「畏まりました」

「って――えっ!? 葉月!?」


 困惑してる花音に、私はにっこり笑ってあげた。


「プレゼントだよ~花音~」

「いや、そんな悪いよ……! 受け取れない……!」

「むー。たまにはいいんだよ~」

「でも……」

「ご飯のお礼~」

「それは……私が好きでやってることで……」


 遠慮はなしだよ~?

 花音の頭を撫でてあげる。


「似合ってるからいいんだよ~」


 それぐらいはしてあげなきゃね~今の内に。

 会長のところにいったら、こういうのも会長にしてもらってね。


 ニコニコして褒めてあげると、花音はまた顔を赤くさせて口元を手の甲で隠してた。



「……ありがとう」



 ふふ~ん♪ かっわい~。




 花音はその浴衣を買うことにして、先に会計を済ませてから、いっちゃんたちと合流した。


 勿論、花飾りはちゃんとラッピングしてもらってから花音にあげたよ。嬉しそうだったから、喜んでくれたかな?


 ……あと何故かいっちゃんが激怒してたけど。舞、何やったの? え? セクシー系? それをいっちゃんに試着させた? やるね~舞。

お読み下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ