102話 夏祭りどうしよう?
夏祭り編です。
「夏祭り~?」
「そうだよ、葉月っち! 今度あるんだって!」
舞が元気よく声をあげる。
あ~そうだね。そういや毎年あったね。行ってないけど。
あの後、花音は何も言わなかった。腕を離したら、顔を赤くしていたけど、強く力を込めすぎちゃったらしい。ごめんよ。
だめだわ~。先生と会う日は気を付けよう、そうしよう。何するか自分でも分からないもん。あ、会いにいかなきゃいんじゃない? そうしよう。絶対いっちゃんに行けって言われるけど。だって~、先生に会うと疲れるんだも~ん。頭もかなり疲れるんだも~ん。
まあ、今はもういつも通りですけどね~。今もジュース持ってきてくれてますよ。うま~。
「その日はね、花火大会もあるらしいよ!」
「ふ~ん」
「ふ~んって興味ないの、葉月っち?」
「ないよ~」
「ハッキリ言うね!?」
だって、人がいっぱいいるところは好きじゃないんだもん。いつ爆発するか分からないし~。それはそれで『発散』出来るからいいんだけどさ~。
あれ? そういえば、いっちゃんが夏祭りにイベントあるって言ってなかった? どうするんだろ。
「一花? 何か意外なんだけど、葉月っちが祭りに興味ないとか」
「……人が多いところは苦手なだけだ、気にするな」
「気にするよ!」
「なんで~?」
「皆で行こうと思ってたのに!」
「いい~」
「本当に興味なし!?」
「ないよ~」
ガックリと肩を落とす舞。何でそんなにショック受けてるの? 勝手に行けばいいのに。
「祭りとかはさ、皆で一緒がいいじゃん……そっちの方が楽しいじゃん」
何かいじけだしちゃった。いっちゃんも呆れた感じになってるけど。
「そんなに地元の友達に自慢されたのがショックだったのか?」
「自慢~?」
「夏祭りに彼氏と行くことを自慢されたらしいぞ」
え? そんな理由?
「悪い!? どうせいませんよ! 彼氏もいませんし!? 何なら彼女もいませんし!? 恋人ほしい!」
そんなに恋人ほしいんだね。どっちもいける発言しちゃったよ。いっちゃんが心底どうでもいい感じで舞を見てるし、花音も苦笑するしかない感じ。
「あ~鬱陶しい。その日はちゃんと一緒に行ってやるから、それでいいだろ?」
イベント見るためにいくんだね。舞はついでと見た。でも舞がキラキラした目でいっちゃんを見てるよ。
「一花! 大好き!」
「抱きつくな!」
「もう、一花ってば! そんなにあたしと一緒に行きたかったんだね! 最初からそう言えばいいのにさ!」
「別に行かなくてもいいんだぞ?」
「嘘です! 一緒に行こう! ごめんなさい!」
「騒がしいな、お前は!? 落ち着け!」
クスクス笑いながら、花音が空いたコップにジュースを入れて私に渡してくれる。
「葉月はどうするの?」
「ん? ん~――いっちゃん?」
「……まあ、あたしと一緒ならいいぞ?」
「でもそれだと、いっちゃん大変じゃない~?」
「今更か……」
え~これでも、いっちゃんのことは大事に思ってるんだよ~?
でもそうだな~。どっちでもいいと言えばいいんだけど。いっちゃんに隠れて『発散』してもいいしね~。あとで絶対バレるけど。
花音と会長のイベントはな~。正直もうどうでもいいんだよね~。海の感じだといい雰囲気だったし~。どうしよっかな~。
「花音は~?」
「う~ん、一応先輩たちには誘われてるけど……舞たちと回るのもいいのかなぁって思ってる」
「花音は生徒会メンバーと行ったらいいんじゃないか? 舞の相手だけでも大変なんだぞ?」
「どういう意味かな、一花? なんで葉月っちじゃないの?」
「今回に限ってはお前の方が大変だ。手辺り次第ナンパするんだろ? 部屋にナンパの極意の本があったじゃないか」
「見たの!?」
「置いてあったんだ。あたしのせいじゃない」
「う……迂闊だった……」
どんだけ欲しいの、舞? それ抜きにしても、いっちゃんはイベント見たいから、花音に生徒会メンバーと回ってほしいだよね。
ん~……でもそうなると、私が行けばいっちゃんがホントに大変になるかな……まあ、いっか。今回はいっちゃんに免じて大人しくしてるよ、多分。
「花音~会長たちと楽しんでくれば~?」
「え、でも……」
「そうだぞ、花音。寮長なんかお前がいてくれると(アホな男共をまとめられて)嬉しいってこの前別荘で言ってたし」
「東海林先輩が……そっか……」
いっちゃんボソッと言ってたけど、寮長そんなこと言ってたんだね。花音には聞こえてないみたいだけど。苦労してるんだね、寮長! この前、ネズミ捕まえて寮長の部屋で走り回るとこを観察したこと、黙っとこう!
「いっちゃん、今回はいいや~。寮にいるよ~」
「それはそれで嫌な予感しかしないが」
「大丈夫だよ! いっちゃん!」
「その言葉で一気に不安が増えたわ!? この前、寮長の部屋に入ったこと知ってるんだからな!!」
バレてた。
「何もしてないよ、いっちゃん?」
「部屋を散々散らかしておいてよく言うな!?」
「あれは元気なネズミさんだよ?」
「お前が追い掛け回したからな!? そりゃ元気よく逃げるだろうさ!!」
バレてる。どこで見てたんだろ。
「あたしがあの後全部片づけたんだ……ハア……」
あ、だから寮長、別荘行った時に何も怒らなかったんだ。知らなかったんだね。
「お疲れ、いっちゃん」
「お前が言うな!?」
「それでね、いっちゃん」
「軽く流すのか!? お前、他に言う事あるだろ?!」
「それでね、いっちゃん。今回は本当にいいよ~。ちゃんと大人しくしといてあげるよ。仕方ないから」
「スルーするな!? そして何でそんな上から目線なんだよ!?」
「花音、安定の葉月っちだね……」
「……後で玉ねぎかな、これは」
花音? 今、不穏なこと言ってなかった? 気のせいだよね?
「まあまあ、いっちゃん落ち着いて? 本当に今回は大人しくしとくよ」
「……ここまでのやり取りで、どう信用しろというんだ?」
ツッコミ疲れだね、いっちゃん。ゼーハー言ってるよ。
「……仕方ないからね。連絡しといて。中も許すって」
私のその言葉で、いっちゃんが一気に厳しい顔になった。でも、私の言った言葉が分かるのはいっちゃんだけだ。花音と舞は分からない。
要は監視の目をその日だけ寮内まで許すってことだね。普段はいっちゃんがいるから、寮内まで監視はつけない。
「でも……お前それは……」
「その日だけはいいよ、いっちゃん」
「じゃあ、一緒に来い。それでいいだろ」
「やめとくよ、いっちゃん」
「え~葉月っちもいこうよ!」
「興味ないからいいや」
これ以上はいっちゃんに負担がかかる。いっちゃんが潰れてしまう。それはよろしくないんだ。私にとってもね。
ヘラヘラ笑っていっちゃんを見る。いっちゃんが確かめる目になってるね。でも観念したかのように息をついた。
「……わかった。連絡しておく」
「うん。でもその日だけね、いっちゃん」
「ね~2人とも、何の話さ?」
「舞のね~ベッドの下にある際どい下着の話だよ~?」
「絶対違うでしょ!? 何で知ってるのかな!?」
「お前、あれで隠してたつもりなのか……?」
「か、花音! 気を付けて! この2人にプライバシーはないみたい!」
「あはは……ただ舞が片付け忘れただけじゃないかな?」
「花音に助けを求めるな。お前の自業自得だ」
舞がちょっと涙目になってる。いっちゃんの言う通り自業自得だと思うけど。
結局、夏祭りの時、私は寮でお留守番になりました。
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