表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/368

100話 星

 


 プシュン


 と、音が鳴って、ロケット花火が打ちあがる。


 それを見て、「わあっ」って皆から歓声が上がっている。


 今は別荘の中庭でバーベキューしながら、舞たちが買ってきた花火をしていた。楽しそうだ。


 その輪に入らずに、少し離れた場所から、ボーッと皆の楽しそうな様子を眺めた。バカな事を率先してやる私だけど、今日は先生との会話があったから疲れている。


 先生と会った時はいつもこうだ。疲れすぎて、頭が回らない感じ。いっちゃんもそれを知っているからか、今日のツッコミは少ない。


「さっき兄さんから連絡あったぞ」

「……そっか」

「今度は予定通りだと助かると」

「……」

「今日もまたか……」

「いっちゃん」

「ん……?」

「もうやめたい……」

「……無理だ」

「…………そっか」


 ハァと息をついて、ジュースを飲んだ。また先生に会わなきゃいけないと思うと、自然に出るよ。


「……いっちゃん」

「何だ?」

「もう叔母さんとお兄ちゃんに頼まれてもだめだよ……?」

「…………」

「最近……抑えがきかないんだよ」

「……知ってる」

「いっちゃん……」

「何だ?」

「ごめんね……」

「……やっぱり、兄さんと会った日は疲れてるな」


 ……そうだね……その通りだよ。


 空を見上げる。

 星が目一杯に広がってる。


「いっちゃん」

「今度は何だ?」

「ちょっと出てくる」

「1人でか?」

「大丈夫だよ。そこの砂浜……星、ゆっくり見てくる」

「……わかった。見える所にいろよ」

「……わかってる」


 いっちゃんに許可を取って、1人その場から離れた。ちょっとした喧噪から離れると静寂が訪れる。


 砂浜に着いて裸足になった。砂を踏む感触が奇妙だ。波打ち際まで行くと、いっちゃんからは見えなくなるね。適当なところでゴロンと転がった。


 目の前には、星が広がっている。


 何だかゆっくり見たくなったんだよ。

 都会だとここまでハッキリ見えないから。


 海風が少し気持ちいい。潮の香りを運んで、鼻をくすぐってくる。


 ぼーっと星を眺める。キラキラしてる。


 実家にいた時は、よく夜は星を眺めてた。

 あそこは余計な光がないから、良く見えたんだよね。


 そう、あの時も。



 ああ……どうせだったらって……。



 そう願いながら、星を眺めた。



 でも、もうあそこで見ることはないかな。

 戻るつもりないからね。


 今日は満月じゃないから、少し月が欠けていた。

 ぼーっと眺める。

 瞬く星を見つめる。



「葉月」



 声がしたと同時に、花音が上から覗き込んできた。

 またぼーっとしながら、見下ろしてくる花音を眺める。

 クスっと笑って、花音が手に持っていたものを差し出してきた。


「上着。潮風はさすがに体が冷えるよ?」

「……ん~」

「星を見てたの?」

「……そう」


 寝た状態で花音から上着を受け取って、そのまま適当に体にかけた。花音から視線を外して、向こう側にある星を眺める。


「隣いい?」

「ん~」


 何故か許可を取って、花音が私の隣に膝を抱えて座った。横目でチラッと見てみると、顔が上に上がっている。星を見てるみたい。私もまた視線を星に戻した。


「あんまりこうやって見ることないよね」

「……そだね~」

「綺麗だね……」

「……うん」


 花音と2人、ぼーっと星を眺める。

 ああ、そういえば。


「花音~?」

「ん?」

「思い出できた~?」

「……うん、楽しかった。葉月は?」


 う~ん。今日の先生とのあれがなければなぁ。もう少し何か面白い事出来たんだけどな~。でもな~昨日の釣りはちょっと面白かったかな~、足りないけど。まあでも……。


「……魚、おいしかったかな~」

「そう、良かった」

「うん……」


 海ってやること限られるからな~。もうほとんどやっちゃったんだよね~。だから今回、釣りぐらいしか思い当たらなかったんだよ。


 でも、花音は違うよね? 夕方、見た感じだと会長と楽しそうだったし……うん、花音にとってはいい思い出になったのかな。あ、でも、昨日のは駄目だけど。


「花音?」

「うん?」

「もう溺れちゃ駄目だよ~?」

「……気を付けます」


 うんうん、気を付けてね? いつも助けにいけるわけじゃないからさ~。


 あ~でも、


 そっか~。



 これからは会長がいるじゃん。



 そっか。



 会長がいるんだよ。



 会長に助けてもらえばいいんだよ。



『花音さんを離すべきじゃないと僕は考えてる』



 午前の先生の言葉が頭に過った。



『君は花音さんに心を許している』


『眠れる場所を見つけたんだ』



 だけど先生?


 花音には会長がいるんだよ。

 それでいいんだよ。



『……花音さんに知られたくないんだね?』



 そうだね……だって知ったら――



 レイラみたいに壊れちゃう。



 花音は普通の女の子だから。



 でも、


 もし知ったらどうしようか。


 隣にいる花音を見上げる。横顔が視界に入る。


 花音……?

 もし私が、

 私がね、


 花音が視線に気づいた。


「……?」


 知らずに花音の服を掴んでいた。


「どうしたの、葉月?」


 言葉は出てこない。

 口に出せない。


「葉月?」


 花音、


 私がもし、




 戻れなくなるぐらい、()()()()って知ったら、




 もう、自分でも止められないと知ったら、



「葉月……」


 花音が私の顔に触れてきた。そっと優しく頬に触れる。

 その手を握って、キュッと掴んだ。



 花音は知ったら――どうする?



「……花音」


 ピクッと掴まれた手が震えた。

 その手を引き寄せる。バランスを崩した花音が「えっ」っと小さく声をあげた。


 私に倒れ込んできた花音の背中に腕を回して、ギュッと抱きしめた。


「は……づき……?」


 花音の細い体に回していた腕に、力を込める。

 花音の香りが広がって、温もりが伝わってくる。


 知らなくていい。


 花音は知らなくていい。



 花音には会長がいる。



 トクントクンと花音の鼓動が伝わってくる。


 それに、


 花音じゃ私は止められない。


 誰にも私は止められない。


 いっちゃんでさえ、本当は止められないんだから。



 そして、私は止める気がないのだから。



 ギュッと力を強くする。


「葉月……ちょっと苦しいよ……」

「うん……」

「……どうしたの?」


 困惑してる花音を抱きしめる。


「花音……」

「……何?」


 知らないでいて?


 そのまま会長のところに行って?


 花音の首元に顔を埋めると、少しだけ肩が動いた。



「そのままで……いて……?」


「っ……」



 花音が息を呑んだのがわかった。



「何があっても……そのままで……」



 そのまま、花音は黙ってしまった。


 込めていた力を緩めた。

 花音の温もりを腕の中に感じて、星を見上げる。

 背中をソッと撫でながら眺める。




 花音は腕の中からしばらく動かなかった。


お読み下さり、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ