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9話 主人公は可愛い


 寮長は花音に「いつでも希望を出していいから。あと何かあったらすぐ呼びなさい」と言い含めて帰っていった。いっちゃんもいっちゃんで、自分の部屋の荷物を片付けに出て行ってしまったよ。今は花音と2人きりだ。


「じゃあ、私たちも片付けよう、花音」

「そうだね」

「ちなみにベッドそっち使う? こっち使う? それともくっつけて一緒に寝る?」

「私はどっちでも……って一緒!?」

「あはは、いい反応だね~。冗談だよ~。じゃあ、私こっち使うね~」


 すぐ赤くなる花音。ちょっと面白い。


 それにしても意外だった。花音は知らないとはいえ、私は実は結構学園でも寮でもやらかしている。興味があってやったりと、本能に従ってやってみたりと、好き放題しすぎて寮長やいっちゃんにも散々怒られてきた。


 具体的には? 言い出したらキリがない。おかげで、周りの人たちからは敬遠されがちだ。全然それは気にならないけど。


 知らないって凄い事なのかもしれない。けど、私は自重する気は実は全くないのだ。


 花音に迷惑をかけるつもりはないけど、ホントに花音はそれでいいのだろうか? 寮長の言うように、部屋をさっさと替えた方が彼女の為かもしれない。


「ねえ、花音?」

「ん? 何?」

「私が言うのもなんだけど、嫌になったら部屋すぐ替えてもらっていいからね?」

「……」

「寮長の言う通りなんだよ。私は頭おかしいからね。まあ、花音に迷惑はかけないつもりだけど」

「……」

「嫌な思いさせるのもあれだし。替えたくなったら、すぐ言ってね?」

「……」


 全然反応がない。これはあれかな? やっぱりそうしようか考えてるのかな?


 どの道、花音じゃなかったら中等部と同じようにいっちゃんがルームメイトになる。花音が乙女ゲームの主人公だから、傍にいればいっちゃんも接点を持てて喜ぶかと思って、私もこの部屋割りを承諾したのだ。

 まあ、替えるなら今の内の方がいいかもね。今なら荷物もすぐ運べる。


 そう思って花音の方を見てみると、彼女は微笑んで私を見ていた。何故に?


「花音?」

「ねえ葉月。私ね……ホントは今日凄く緊張してたんだ」

「んん?」


 何の話だろ?


「親元離れるのも初めてだし。しかも星ノ天(ほしのそら)学園はエリートでお金持ちの人がいっぱい通ってるって有名だし。私の家はお金持ちなんかじゃないし、親も普通のサラリーマンなんだよね。私みたいな平々凡々な人間が、そういう人たちの中でやっていけるのかなって。ルームメイトの人もきっとお嬢様みたいな人なんだろうなって、話合うのかなって、ドキドキしながら今日来たんだ」


 私やいっちゃんはともかく、そういうお嬢様連中も確かにいるけど。でも一つ訂正したい。特待生に選ばれるぐらい頭良くて、容姿も超絶可愛いのに、平々凡々は当て嵌まらないと思うよ?


「だけど、会ってみたら昨日助けてくれたあなたで、ちょっと安心しちゃった。だから、寮長さんに言われた時も大丈夫じゃないかなって思ったの」


 何か一気に話が飛んでない?


「寮長が言ってたように花音は知らないだけなんだよ? 私、結構やらかしてるよ?」

「ん~……私は葉月がやらかしたっていう事を確かに知らないけど、でも昨日、雨で困ってる私を助けてくれたでしょ?」

「うん? まぁ、そだね~……」

「フフ。葉月、気づいてないの? 昨日葉月が私に服と傘を貸してくれた事って中々出来ない事だと思うよ?」


 そう? 誰でもそうするんじゃない?


「普通は知らない人にあそこまで親切にしないと思うけど? しかも葉月、自分が濡れるの前提で傘まで貸してくれたし」

「それは、いっちゃんにも呆れられたけど……」

「自分の身を顧みないで他人に親切にできるなんて、優しい人なんだなって思ったの」


 優しい? 私が?


「優しいなんて初めて言われたなぁ……」

「そうなの? 私は、葉月は優しい人なんだなって思ったよ。部屋替えだって、私が嫌な思いしないように自分から勧めてくるし」


 花音がニコニコして語っている。はて? 何だか知らないけど、自分が花音の中で優しい良い人に美化されている気がする。いっちゃんが今の花音の話を聞いたら「騙されるな」というツッコミを入れるぐらいには。


 まぁ、いいか。花音も明日からの学園での現実を知ったら、変わるかもしれない。


「だから、大丈夫だよ、私は。それとも葉月は私と一緒じゃ嫌かな?」

「それはないよ? 花音、美少女だし。可愛い子と一緒の部屋でラッキーみたいな?」

「っ……! だから……美少女じゃないってば……」


 そう言って顔が赤くなる花音は可愛いと思う。うん、ホントにラッキー。こんな可愛い子が攻略対象者の彼女になるのだ。今は私がその可愛さを堪能しておこう。


「ホント、花音は可愛いね~」

「か……!? ……葉月……からかってるでしょ……?」

「やだな~、本心だよ~」

「もう……それより、片付け終わらせよう?」

「は~い」



 耳まで赤くしている花音は、いそいそと自分の作業に戻っていった。私もそんな彼女を見ながら、自分の段ボールに手をつけたのだった。


お読み下さりありがとうございます。次話、花音視点です。

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