プロローグ
初連載始めます。どうぞよろしくお願いいたします。
昼下がりの午後。たまたま入った喫茶店で遅めの昼食を取り、食後のコーヒーの香りを楽しみながら、ゆっくり口に含んだ。
ちょっとほろ苦い味を口の中で味わいながら、窓の外の景色を眺めてみる。遠くでゴロゴロと音が響いてきていた。今朝の天気予報は正しかったらしい。
寮を出る時には快晴だったので傘を持って出ると、ルームメイト兼幼馴染に呆れた口調で「傘いらないんじゃないか?」と言われた。けれど、これで帰ったら堂々とドヤ顔できるなと思う。
ふと時計を見ると、午後14時ぐらいを指していた。もうこんな時間になっていたのかと、帰り支度を始める。まだ部屋の掃除を全くしていない。
明日は高等部の寮へのお引越しがある。
今は中等部の寮に住んでいるが、高等部の寮は場所がまた違うのだ。帰ってから「ほら~傘持って行って正解だったでしょ~!」と幼馴染にドヤ顔しても「明日の準備のために早く帰って来いって言っただろ~が!」という返しがきそうだ。というか来ると思う。絶対怒られる。
何て言い訳しようか考えながら会計を済ませ、カランという音を鳴らしながら、外に出た。
「あ~……降ってきたなぁ……」
午前中とはすっかり変わった空を見上げながら、言葉を漏らした。雨がポツポツと降ってきて、地面を濡らしていく。
雨を見ると、自分が生きてた“前の世界”を思い出す。
私には今の記憶とは違う別の人間の記憶があるのだ。
所謂、転生というものらしい。幼馴染が言っていた。彼女もそうなんだって。
確かに、今私が生きているこの世界と前の世界とは少々異なることがある。
些細なことだが、前の世界であったアニメや漫画がないとか、学んだ歴史とか、歴代の総理大臣の名前や各国の大統領の名前が違うとか、科学の発展の違いとか。似ているようで似ていない世界なのだ。
幼い頃、遊んでいる時にこの世界にないアニメの名前を喋ったら、隣にいた幼馴染が「え!? なんで知ってるんだ!?」と素っ頓狂な声を上げて驚いていた。まあ、それでお互いが転生者だとわかったわけだけど。
私の前の世界で住んでいた場所は、よく雨が降るところだった。その世界の幼い時に、雨が降る中、濡れながら遊んでいたのを覚えている。
そういえば、よく母に怒られていた。兄弟たちと泥だらけになりながら遊んで、母に服を汚して怒られ、父は知らんぷりしてお酒を飲んでいた。
ちょっと懐かしく思う。楽しかった記憶だから。
だけど私は今、“小鳥遊葉月“という名前でこの世界にいる。
ということは、前の世界の”私“は死んだということだ。
正直、楽しかったのは幼い時ぐらいで全体的にはいい記憶ではない。死に際の事は覚えていないけど、たぶんいい死に方ではなかったと思う。
気が付いたらこの世界に生まれていて、知らない人が母親になっていた。最初は戸惑っていたけど、人は慣れる生き物だ。今ではすっかり、そういう事だと納得できている。
少しだけ前の世界を懐かしんでいると、パタパタと2人ほど喫茶店の軒先に入ってきた。
お読みいただきありがとうございました。