110,建国祭当日に 6
ここ数日体調不良のため短くてすみません。
大聖堂での儀式は地鳴りが落ち着き、
建物に何も被害がないと確認した上で
再開された。
ローゼリット嬢の聖女認定である。
大司教が再度呪文の詞を唱える。
ざわざわと白い光がローゼリット嬢の回りから
浮き上がり、白い珠になってーとはならなかった。
一向に光が集まらない。
参列者からは「どうした?」
「なにをやっているの?」
「儀式が上手くいってないのか?」
などの疑問、疑念の声が発せられた。
周りがざわつく中、皇太子から大司教へ
「どうした?大司教。一体なにをやっているんだ」
と叱責が飛び、皇帝フランシスも眉根を寄せて
大司教を見つめていた。
「おかしいのです…魂の定着が…」大司教が呟いた。
参列者の貴族は元論のこと、聖女の認定を
一目見ようと集まってきた平民たちの間に
ざわめきが広がり、大きくなっていくのを
皇帝フランシスは舌打ちして見た。
そこへ、まだ式典の途中だというのにバタバタと
サヴィニアンが駆けこんできた。
「大司教さま!」
「…報告いたします!、りゅ、龍が逃げました」
――皇帝フランシスは立ち上がった。
前皇帝ルートヴィッヒ1世はアダンへ頷いた。
アダンもこくりとうなづく。
ある仕掛けを作動させるつもりだったのだ。
「どういう事だ、大司教。何故、今日この
タイミングで―…」フランシスは唸った。
「わたしにも解りません。何故あの結界に
入れるものがいるのか…」
大司教は慌てて言った。
「まさか、お前今頃になってわたしを裏切ったの
では無いだろうな!?」
「滅相もない。炎龍がいなくなったのは私共は
関係ありませぬ。そもそもフランシス様が早く
儀式を済ませようとする我らを押し止めて、
盛大に、建国祭にて炎龍の力を見せつけると
仰ったのではないですか」
いきなり始まった皇帝と大司教との口論に
まわりは皆唖然としていた。
「龍ってなんだ?」
「建国祭は通常式典だけだろう?」
フランシスは周りの貴族のざわめきを聞き、
「取り敢えず龍を探せ…!。二人が一緒に
居なければ後はどうにでもなる。
ローゼリットはまたあの部屋へ戻す」
とフランシスはローゼリット嬢の腕を
思い切り掴み引っ張った。
その時、「あっ…」とよろめいて
ローゼリット嬢のベールが床に落ちた。
落ちたベールから現れたのは
ローゼリット嬢ではなく、
ベアトリス=ランカスター侯爵令嬢だった。
わたしはロンデリルギゼを抱えながら
ひたすら上への階段を駆け上った。
「ねー、ジェニー下ろしてよ。
吐きそうだよ、まじで。
自分で飛ぶからさ」
とロンデリルギゼは言った。
仕方なくロンデリルギゼを下ろすと
「飛べるの?」わたしは彼女に訊いた。
「このペンダントのおかげでね」
ロンデリルギゼは少しずつ蝙蝠みたいな翼を
動かしてパタパタと飛んだ。
(うーん、赤いイグアナが
飛んでるように見える…)
「うわっなんだ!?龍が逃げたぞ」
出会い頭にぶつかりそうになった教団員が
ロンデルギゼを見つけて叫んだ。
ロンデリルギゼはすーっと息を吸うと、
ゴオッと真っ赤な炎を吐いた。
「うわあああああ!」
自分の身体の炎を消そうと廊下を転がっていく。
ペンダントをしてる教団員でも
あんなに炎が消えないなんて―…・。
「すごいね。ロンデリルギゼ」というと
「そお?」と彼女は得意げにふんっと
真っ黒な煙を吐いた。
「あの地下にいる男も人間離れしてるけど、
あたしが今まであったヤツだとーーーが一番…」
と言って、「…あれ?誰の話してたっけ?」と
話を止めてしまった。
(自我が保たれているか問題だ)
ーリリスが言っていたという。
早くローゼリット嬢と一つにした方が
いいのだろう。
「…あたし、どこに行くんだっけ?」
少しぼーっとしているロンデリルギゼに
わたしは言った。
「あなたの魂のところよ」
そして、続けて言った。
「絶対にルートヴィッヒ陛下に会わせてあげる
からね」
アダン等はフランシス皇帝と大司教との
一連のやりとりを大聖堂の中央から後ろにいる
下級貴族や平民たちが興味深そうにちらちらと
みているのを確認していた。
今壇上の最善列近くに並ぶ前皇帝や皇太子、
陛下のご兄弟の位置であれば、もっと
赤裸々な会話を聞く事が出来るのに…と
思っている人々は少なくはないだろう。
アダンは前皇帝ルートヴィッヒ1世の合図で、
レイモンドとアベルによりつくられた
『声を拾って増幅し、流す装置』のスイッチを
いれた。
どうやら『まいく』と呼ばれるものを参考に
つくられた、そのアイデアのソースは
ジェニファー=エフォート嬢らしい。
『すぴーかー』とやらは、今日は切ってある
大聖堂内の魔力探査装置に接続してある。
(うまくいくだろうか…?)
アダンはその装置が起動するのを待った。
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