50話 生まれた時から、君のことが好きだった
誰もいない、静かな場所に行こう。
二人で、ゆっくりと打ち上がる花火を見るんだ。
俺は、冬香にそう提案した。
冬香はそれを聞いて恥ずかしそうにした後、確かに頷いてくれた。
〇
向かった先は自然公園のようなところだ。
拓かれて、歩くところは整備されており、普段は昼間にウォーキングなどで使われているような、そんな場所。
そこの奥地にあるベンチに座り、未だに打ち上がる花火を見つめる。
さっそく何かを話そうとしたのだが、それっぽい言葉が出てこないのだ。
「シュン」
「ん?」
「さっきさ、相生さんと一緒にいたでしょ?」
「え!? あ、い、いや、別にそんなことは――」
「さっそく浮気?」
「ち、ちがっ、冬香違うんだ! それは決して――」
「ふふっ、ふふふっ! あはははっ!」
「……え、ふ、冬香……さん……?」
いきなり柄にもなく爆笑し始める冬香に、俺は戸惑ってしまった。
なにこれ、処刑前の冷酷な笑いってやつ……?
「なんてね。冗談。知ってるよ、シュンが浮気なんてするはずないって」
「……わかってるなら……いいけどさ……」
「だって、前に言ってくれたもんね。……私のこと、好きだって……」
頬を赤らめているのは暗くてもわかる。
声音と、仕草で察せた。
「……うん。秋ちゃんとは、たぶんもうこれっきりなんだと思う」
「そうなの?」
「さっき話して、それで、『もう話しかけない』って言われたから」
「……そう……なんだ……」
新学期を迎えれば、クラスも一緒だろうし、また会うことにはなる。
けど、本当にこれからはただの一クラスメイトに戻るんだろう。
さっきした別れには、そんな意味が確かに込められていた。
思い出に一つ区切りがついた、というところだ。
「それにしてもだけどさ、どうしてシュンは相生さんとそこまで仲良くなれてたの? 呼び方も秋ちゃんって、かなり親しそうだし」
「……冬香さん……妬いてます……?」
「妬いてないよ。だから、質問に答えて?」
「……だったら、右手の甲をつねるのやめてもらいたいんですが……」
「早く質問に答えるの」
「……はい……」
言われた通り、俺は秋ちゃんとの関係について細かく話した。
「ふむふむ。なるほど。私の知らないところで仲良くなってて、それで久しぶりに会って、それで親密だったんだ」
「そういうことだな」
「なんでそういうこと言ってくれなかったの? 楽しそうだし、私も加わりたかった」
「いや、今でこそ秋ちゃんあんなだけど、当時はいじめられてて、ちょっとだけ暗かったんだよ」
「へー、それでも私は加わりたかったけどー?」
「お前と同じで恥ずかしがり屋だったの。ほら、そういう奴ってあんまし人増やしすぎて遊ぶとまた黙り込んじゃったり、楽しんでくれなくなっちゃうだろ?」
「…………まあ……」
「どっかの誰かさんと同じだったんだよ。……まあ、そういう意味で言うと、俺は秋ちゃんをそのどっかの誰かさんと重ねて見てたんだろうなって、今になって思ってるよ」
「……うぅ……」
「な、冬香。お前も遊ぶ時は二人でじゃなきゃ嫌だって、ずーっと言ってくれてたもんな」
「……お、覚えてないもーん……」
「ったく……」
まあ、そうやって言ってもらえて俺はすごい嬉しかったんだけどな。
本心ではそう思っていたものの、言わないでおいた。
なんかちょっと悔しいし。
「けどさ、今になって思うこと、もう一つあるんだよ」
「? なに?」
「なんだかんだ、俺たちってゲームで繋がってたんだなーって」
「ゲームで? ……あー、そっか。相生さんもゲームだし、私もゲームだ」
「そうそう。ついでに言えば、高岸もお前に惚れた理由の一端にゲームが絡んでる」
「へ!?」
「昔、小学生の時にじいちゃんばあちゃん家に遊びに行って、家の周辺ぶらついてたらお前に会って、そんで仲良くなったんだとよ。冬香、完全忘れてたっぽいけど」
「うぇぇ!? 嘘!?」
「嘘じゃないと思うよ。夏休み、誰か男の子と遊んでた記憶とかねーのか?」
「そんなの全然――…………あ、も、もしかして……ナツキ……?」
「そうナツキ。あいつ、お前に偽名使ってたって言ってた」
「な、なっ、う、嘘だよね!?」
「だからほんと。……はは、あいつがそれを何のために俺に言ってくれたのかは知らんけども」
「えぇぇぇ……な、ナツキ君が……高岸君だったの……?」
「らしいぞ。夏休み明けに会った時、声くらいかけてやったらどうだ? 久しぶりって」
「……う、うん……」
本当に世間は狭いもんだ。
秋ちゃんにしてもそうだし、高岸にしても。
それが今回の騒動に絡んだってんだから、もっとややこしい話にしてくれた。
今だから笑って流せるけど、こういうのが二回、三回と続けば、さすがにどうにかなりそうだ。今後は勘弁してほしい。
「まー……、ほんっと色々あったな。一学期」
「そうだね……。私たちに関して言えば、一学期じゃなくて、二年とか、それくらいの話だけど……」
「ははっ、確かに言えてら。今は三次元最高だから、安心していいよ冬香」
「……もぅ……。あれ、ほんとショックだったんだから……」
「ごめんごめん。けど、どうなっても俺は冬香に好きだってどっかのタイミングで告げてたと思う。嫌われていようが」
「……嘘ばっかり。前までちょっと避けてたし、私のこと……」
「あれは事故。忘れてちょうだい」
「うー、ばかっ!」
言って、俺の右肩に頭を乗せてくる冬香。
艶やかな髪の毛からは、ふわりとシャンプーのいい香りがした。
「……好きだ。冬香」
「……私も……大好き……」
一際大きな花火が上がる。
それは、終わりよければすべてよしを体現してくれるかのような、そんな綺麗なものだった。
〇
春は駆け出し、夏を迎え、秋に赤くなり冬に抱き合う。
前に、前にと進む春は、いつかうしろに振り返り、こう言うのだった。
――「生まれた時から、君のことが好きだった」と。
おわり
完結になります。
途中途中で苦しいところもありましたが、ここまで来れたのも読んでくださった皆様のおかげです。本当に本当にありがとうございました。
この作品については、また活動報告などで改めて感謝の言葉と共に触れていきたいと思ってます。よろしくお願いします。




