45話 それから
それからのことだ。
色々あったわけだけど、俺と冬香は付き合うことになった。
ここ最近は特に色々あって、すごく苦しかったこともあった。
けど、最終的に振り返ってみると、俺達にはそういうものが必要だったんだと、強く思った。
〇
「じゃあまた明日な。一緒には帰れるのか?」
『うん。一緒に帰って勉強しなきゃでしょ? 追試会があるんだから』
「……まあ、そうだな。思い出したくなかったけど……」
『何言ってるの。それ終わらせないと進級できないし、夏休みもちゃんと迎えられないよ?』
「わかってますよ……。はぁ……」
『元気出すの。これ終わったら夏休みで……花火大会とかもすぐあるんだから』
「お! ってことは冬香、もしかして浴衣!?」
『うん。着る予定。嬉しかろー?』
「おう! 嬉しい! 一気に楽しみなってきた! 勉強も頑張れそう!」
『でしょー? じゃあ明日はちゃんと勉強なんだから』
「はい!」
『終わったら、その……ご、ご褒美あげるね』
「――! わかりました! ありがとうございます! さらにやる気が湧いてきました!」
『……うん。じゃあまた明日ね』
「了解! おやすみ冬香」
『おやすみ』
LIME電話を切って、スマホを机の上に置こうとした時だ。
再びスマホがバイブした。
冬香が何か俺に言い忘れでもしたのだろうか、と思ったのだが、スマホの画面を確認したところで、かけてきたのが全くの別人であることに気付いた。
「……秋ちゃん……」
LIME電話をかけてきたのは秋ちゃんだった。
ここ最近、LIMEでのやり取りは交わしてなかったから、久しぶりということになるのだが、気まずさは拭えるはずもない。
話をするのは二人で出掛けて以来だ。
「……もしもし、秋ちゃん……?」
『……ハル君、こんばんは』
「う、うん。こんばんは」
『いきなりでごめん。夜も遅いし……』
「いや、時間のことなら大丈夫。まだ全然寝ようとか思ってなかったし」
『なら、よかった』
「うん」
「………………」『………………』
大丈夫、とはいったものの、それは時間に限った話だ。
流れる沈黙と決断してしまったことへの申し訳なさで、俺はさっそく押しつぶされそうになってしまっていた。
……が、
『ハル君』
その沈黙を秋ちゃんが破ってくれた。
『……えと……その、さ……』
「……うん」
『すっごい単刀直入に聞くんだけど…………いいかな……?』
「う、うん」
単刀直入に、か。
生唾を飲み込む。
気付けば手のひらは汗で濡れていた。
『ハル君、瀬名川さんにあれから告白とか、したの?』
「っ……」
確かに単刀直入だ。
いきなりのことで、思わず息を呑んでしまう。
どう答えるのが正解なんだ。
「……えーと…………」
『その反応は、したってこと?』
「……ま、まあ……」
と、正直に言うほかなかった。
嘘をついても仕方ない。それは今回の一件で嫌というほど思い知らされたことだ。
『……そっか……そうなんだ……』
「………………」
『……じゃあもう付き合ってるんだね』
「…………そういうことになる……」
一応、暗い雰囲気を紛らわせるための努力として、「前まで嫌われてるとか、散々言ってたのにな」なんてことを笑い交じりで付け加えるように言ってみるものの、それはあまり効果がなかった。
というより、むしろ地雷的発言なのでは、と思わせてくれるほどの沈黙がまた訪れてしまう。
テンパりすぎだ。それにしても、なんて言っていいかわからない。
『……でも、よかった。思った通りで』
「……え?」
俺の疑問符に対し、秋ちゃんはクスッと笑うだけだ。
『お幸せにね。おめでと。アタシからはそれだけ』
「……秋ちゃん……」
一瞬、口から「ごめん」という言葉が出かかった。
けど、それは言わずに踏みとどまる。
何がごめんだ。どれだけ偉そうなんだよ。
『でもさ、ハル君』
「……?」
『もう少しで夏休みがあって、花火大会があるじゃん?』
「うん」
『そこでアタシはとびっきりの浴衣姿で行くから、それをハル君に見せつけるね』
「……なっ……!?」
『それじゃね。おやすみー』
そこで電話は切られた。
想定してなかったことを言われ、俺は少しだけの間そこでボーっとするのだった。
〇
それからの時の流れは早い。
憂鬱だった追試会だが、冬香に毎日付きっきりで手伝ってもらい、何とかクリア。
七月に入り、あとはもう夏休みを迎えるだけというムードがクラス中、いや、学校中から漂っていた。
その間のことだけど、もちろん冬香とはそれまでの溝を埋めるかのように、色々な話をした。
といってもまあ、新しくハマったギャルゲーのジャンルだったり、可愛いヒロインの話だったり、不人気ヒロインの可能性だったりと、オタクチックな話題が大半ではあった。
それでも、晴れて恋人同士になったわけだから、好きということを遠慮なく俺は幾度となく伝えたし、冬香もそれに応えるように俺のことを好きだと言ってくれた。
そのたびに赤面する冬香が可愛くて仕方ない。今思い出すだけでも、軽く悶えてしまう。
きっと、俺たちはこれからもこんな感じなんだろう。でも、それでよかった。
〇
そんな風に過ぎ去る時の中で、やはり少し触れておかなければならない奴がいる。
高岸夏太郎だ。




