43話 ホットミルクとコーヒーは苦手
今日、また投稿予定してます。よろしくお願いします。
「じゃあ、すぐにお風呂沸かしてくるから。上がって、ゆっくりしてて」
「……ああ」
玄関に迎え入れられ、視界は暗かったところから一転して明るくなる。
曖昧だった冬香の顔もここでしっかりと見ることができたのだが、俺が少しだけまじまじと見つめてしまっていたこともあり、なかなか目を合わせてはくれなかった。
しまいには、それに気付いた冬香から、恥ずかしそうに「……どうかした?」と聞かれてしまう。
赤面しながらの問いかけだったから、思わず俺も恥ずかしくなり、顔を別のところへやって「い、いや、何でもない」とぎこちなく答えてしまった。
そりゃそうだ。
さっき、勢いに任せてだったとはいえ、告白まがい……いや、あれはもう告白だ。告白をしてしまったところだから、お互い恥ずかしくもなる。
明るい場所に出たところで、冷静になれたのだが、俺は何をまじまじと見つめてるんだ。
慌てて、話の方向を変えることにした。
「あ、え、えっと、俺……その、濡れてるけど上がって大丈夫なのか?」
「あ、……そっか。じゃあ、ちょっと待っててね」
言うと、冬香はそそくさと靴を脱ぎ、何かを取りに行ってくれた。
俺は一人きりになり、シンとしたところに取り残される形となる。
どうやら、本当にパパさんもママさんもいないみたいだ。どうしたんだろう。今日はまだ平日だし、旅行に行ってるとか、そういうのも考えづらい。
そもそも、冬香という可愛い一人娘をあの二人が置いて旅行にどこかに行くというのもなかなか考えづらい話ではある。
俺からすれば、しっかり冬香と話したいこともあったし、嬉しいのだが、釈然としない部分もまたどこかにあった。大丈夫だろうか。
「……シュン、お待たせ」
「あ、ああ」
ゆっくりとそんなことを考えていると、廊下の先から冬香が簡単にタオルを持ってきてくれた。
「ごめんね。お風呂、あと十分ほど沸くのに時間かかりそう。濡れてて気持ち悪いかもしれないけど、お部屋で温まってて」
「こっちこそごめん。なんか色々気使わせて」
「いいよそんなの。シュンは今、そういうこと気にしないで。っていうか、そもそも気なんて使ってないし、私」
「……そうか?」
「そうだよ。じゃ、上がって」
手招きされ、お言葉に甘えて俺も家の中へ上げさせてもらう。
直近で言うと、冬香の家に上がるのは、料理の練習に協力した時以来だ。
まだあまり時間は経ってないけど、もうだいぶ昔のように思えてしまう。
それほど、この短期間の間に色々あったということだ。
「こっちだよ」
「お、おう」
誘導された先のリビングは明るく、キッチンの方から何やらいい匂いもする。
既に何か料理が作られているようだった。
「シュン、紅茶かコーヒーか、それともミルクか、どれがいい? 全部ホット」
「ん、えーと……じゃあ紅茶でお願いします」
「……ふふっ」
「え、なんだ?」
問いかけに答えただけなのに笑われてしまった。
不思議そうにしていると、冬香は楽しそうにしながら言った。
「やっぱりって思って」
「……やっぱり……?」
「うん。コーヒーは苦くて嫌い。ミルクは冷たくないとなんかヤダ」
「……! そりゃまあ……だって、なんか温かいミルクはちょっと違うだろ? コーヒーもその……苦いし……」
ごにょごにょしながら言うと、冬香はまたクスクス笑う。
「ずっと変わらないね、シュン。子どものままだ」
「……よ、余計なお世話だっつの……」
「ふふふっ」
からかわれてるのはわかってたけど、嫌な気はしない。
むしろ、こういうやり取りができてすごく俺は嬉しかった。
「それじゃあ、わかりました。紅茶の温かいの、入れてきます」
「……お願い……します……」
言って、冬香はキッチンの方へとトテトテ歩いていく。
「あ、冬香」
「ん? なに?」
「その、今日ってなんでパパさんとかママさんいないんだ? 普通に平日だけど」
「あ、……んとね、お父さんもお母さんも……そ、そう! 今日は何かのお祝いの日だから二人きりで夕飯食べに行ったの。だから、今だけ私一人」
「……何かのお祝いの日ってなんだ……? それに追及するようで悪いけど、パパさんとママさんが冬香置いていくって、ちょっと考えづらいんだけど」
「……う、うぅ……」
「? 冬香、何か隠し事してない?」
「そ、そのことについてはあとで教えてあげるから、とにかく今はゆっくり紅茶飲んで、お風呂に入ってきて!」
「あ、あと? あとなのか?」
「そう、あと! 今は何も考えず、ゆったりゆるゆるしてて!」
「……お、おう……」
まるでサプライズに勘付かれて必死に隠そうとしている子どもみたいな反応。
よくわからないが、とりあえず表向きでは何も考えないことにした。
本当は何なのか凄い気になってたけど。




