40話 告白の返事
「……最近、アタシのこと避けてたよね? ……どうして今日は誘ってくれたの……?」
問われ、心臓が跳ね上がる。
核心に迫るそれはあまりにも唐突で、正直、俺は心の準備ができていなかった。
一気に動揺と焦りが心をむしばみ、手のひらには汗がにじむ。
呼吸も気付けばさっきより浅くなっていた。
「そ……それは……」
「……うん……」
「…………その……告白の返事……しないと、と思って……」
「………………うん……」
振り絞るように声を出した。
自然と手にも力が入り、残っているクレープのクリームがわずかに地面へと零れ落ちる。
一気に思いを打ち明けていい。
それで楽になれる。
けど、それじゃダメだ。ダメなんだ。
一つずつ、確かに伝えていかないと。
「……あ、秋ちゃん……!」
「は、はい……」
「と、とりあえずクレープを全部食べよう! 話はそ、そこからで!」
叫んだ。
だって、緊張の一瞬だ。
そんな時にクレープなんて食べてたら、真剣味も何も伝わらない。
だからそう叫んだんだけど……。
「ぷっ! あはははははっ!」
秋ちゃんはお腹を押さえて笑い出した。
「!? な、なんで笑うんだ!?」
「だ、だって、いきなりクレープ全部食べようって……! あはははっ! ハル君、やっぱり面白い!」
「え、えぇ……」
ムードもクソもなかった。
どうやら俺の言ったことは思った以上におかしかったらしい。
秋ちゃんは笑い、天上に向かって「はー」と息を吐いた。そしてまた、クスリと笑う。
「でもさ、秋ちゃん。こういうのってしっかりやることやって面と向かってじゃないとダメだろ? だから俺は――」
「ううん。そんなことないよ」
「え?」
「そんなことない」
秋ちゃんは、告白とかにそういった形式ばったものを必要としないのだろうか。
そう思っていた矢先だった。
「だってハル君、今からアタシのこと振る予定なんだもん」
「――っ」
「そういう時は、もうスパッとしてくれた方が嬉しいよ。先延ばしにされたら……っ……耐えられない……から」
「………………」
言葉が出なかった。
頭に思い浮かべたものはいくつもあったのに、それが音となって出て行かない。
呆然とする俺に対し、秋ちゃんは小さく笑い、それからうつむいて表情を隠す。
「……なんで、って思った? なんで今日言おうとしてたこと、アタシが知ってるのかって」
「………………」
何と答えていいかわからない。
単純な肯定でさえも彼女を今以上に傷付けてしまいそうで、無言になるしかなかった。
それを秋ちゃんは勝手に肯定だと受け取り、微かに震えているような声音で続けた。
「高岸君って、知ってるよね? ……あの人がさ、アタシに教えてくれたの。『青山春也が本当に好きなのは、瀬名川冬香だ』って」
「!?」
「それから、こうも言ってた。『それは何があっても変わらない。だってあの二人は、他の誰かが入る隙もないほど物心ついた瞬間から好き合ってるんだから』」
「……っ」
「『それでも、もしも青山春也が君に近付くようだったら、それは……傷付けないための哀れみの行動でしかない』って――」
「ふざけるな!」
「……」
「そんなことない! そんなの、あいつが全部言ってたんならでまかせでしかない! 哀れみの行動とか、絶対そんなこと――」
「でも、ハル君の『好き』はもう瀬名川さんのものでしょ?」
「っ……! あ、秋ちゃ……」
「いいの。わかってる。ハル君はそこに責任感じてくれなくていいから」
秋ちゃんは立ち上がった。
「だって、仕方ないもん。昔の思い出とか、一緒にいた時間とか、瀬名川さんに勝てるわけないもん」
「あっ……!」
暗い夜の中、電灯で部分的に照らされた彼女の表情。
秋ちゃんは泣いていた。
俺はただそこで壊れた機械のように固まるしかなかった。




