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39話 なんで?

 まず、俺たちが最初に向かったのは隣町のカラオケ店だった。


 電車に乗って移動しなければならないという弊害はやはりあったが、ここならある程度遊んでいても他の人の目に付かないし、安全だ。


 ……まあ、密室ではあるから、一応思うところもあったんだけど、元々秋ちゃんからのリクエストだったし、俺も俺で馬鹿な真似をするつもりはない。


 それに――


「ハル君、点数勝負しよ。アタシが勝ったら後でクレープおごりね」


 こんなことを言ってくるもんだから、俺はもうくだらないことを考えるより先に楽しむことにした。


 なんだかんだ言って歌唱力には自信があるんだぞ俺。


 が、しかし。


「やったー! 九十五点ー! どう、どうどう~? ハル君、これ越えられる~?」


「なっ!? う、嘘だろ……!?」


 秋ちゃんは信じられないくらい歌が上手かった。


 最近流行っている曲から、アニソンや懐メロまで、数多の曲を歌いこなし、おおよそ大半の人間が取れないような点数を連続させていく。


 対する俺は、最初こそ余裕しゃくしゃくといったところで、テンションの上がりそうな曲をセレクトしてみたりしていたのだが、徐々に本気を出さざるを得なくなり、十八番の恥ずかしい恋愛ソングを連発。


 結果としては最高が九十一点ということで、秋ちゃんの足元に到底及ばないところで終わりを迎えた。


 ムキになってムードをおかしくさせてしまうような曲を選択してしまったうえに、勝てない。完全に俺の自爆である。


「はー、楽しかった。クレープをおごる権利ももらえたし、最高だったよハル君」


「じ、地味に悔しい……」


「あははっ。悔しかろー悔しかろー。精進するのじゃぞ~?」


「何キャラなんだよ、それ……」


「歌の伝道師? なんちゃって」


 ふざけながら言い、舌をペロッと見せる秋ちゃん。


 そんな姿を見て、悔しかったのは悔しかったけど、俺はある程度満足感を得ることができていた。クスリと小さく笑ってしまう。


「……しょうがないな。じゃあ、約束を果たしに行くか。クレープ屋さん、どこだっけ?」


「こっちこっちー」


 秋ちゃんは俺の手を引き、先導してくれ始めた。



 目当てのクレープ屋には、カラオケ店から歩いて五分ほどで着くことができた。


 こじんまりとしてはいるものの、オシャレな外観で、確実に俺とは縁のないような雰囲気が至る所から漂っている。


 店周辺にいた女子高校生たちを見て、ドキッとしたが、大丈夫。うちの高校とは制服が違う。隣町でもあるし、近隣の高校生だろう。一安心。


 それでも秋ちゃんは安心する俺と違って、少し恥ずかしそうにしていた。


 なんだかんだ俺たちは男女のペアだし、気にしないよう努めてはいたものの、背後からは「カップルかな?」、「うらやまー」とか、そんな声がコソコソと聞こえてきていた。無理はない。


 とまあ、そういうわけなので、店内に入り、注文をしてからクレープを受け取り、俺たちはすぐに店から出た。


 堂々としていればいいのに、と思われるかもしれないが、それもなかなか難しい。


 秋ちゃんが意識することによって、半ば強制的に俺もそういう関係として見られているんじゃないかと、強く意識させられてしまう。


 だから、すぐに店を出て、近くにあった適当な公園のベンチに座り、クレープを食べることにした。


 時刻は十九時二十分ほど。


 梅雨時なのにも関わらず、珍しく晴れてはいたが、辺りはほぼ完全に夜闇が漂っていて暗い。


 電灯があるおかげで何も見えないってわけじゃないんだけど、しっかりとした夏の季節になれば、もう少しくらいは明るかったんだろうか。


 そんなことを考えていると、隣に座っていた秋ちゃんが俺の肩をつついてきた。


「クレープ、嫌い?」


「ん、いや、大丈夫。嫌いじゃないよ」


「ならよかった。ハル君、好き嫌いとか、あんましハッキリ言ってくれないから」


 いたずらっ子のような表情で言う秋ちゃんだが、俺はその言葉に核心を突かれたような心地になり、つい引きつった笑みを浮かべてしまった。


 本当にその通りだ。ハッキリしない。させるのが怖い。


 ……けど、今日だけはハッキリさせないといけない。


「ねえ、ハル……君……」


「?」


「ハル君さ……その……今日はなんで遊びに誘ってくれたの?」


今日、もう一話投稿します。元気があれば、さらにもう一話ほど考えてます。

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