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4話【春也視点】 夜のチャット交流

 その日の夜、俺は自室にて、過去最高なんじゃないかってくらいに緊張していた。


 スマホを握っている手はプルプルと震え、汗が止まらない。


 画面に表示されているのは、LIMEのチャットルーム。チャット相手は冬香である。


 ここ一年半ほど不仲だったとはいえ、奇跡的にアカウントブロックはされてなかったから、何かを送りさえすれば返信が来るだろう。


 だが、俺は緊張のせいでその何かすら未だに送ることができないでいた。


 かれこれ三十分ほど、どんな感じで会話を切り出すのか死ぬほど悩んでいたのだ。


 文字を入力しては消し、入力しては消しを繰り返していた。


「くぅぅっ……、も、もうこれでいい! 送れ! 送っちまえ!」


『ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいか?』


 悩み続けた結果として送ったものがこれなのだが、絶対に三十分もかけて悩むほどのものじゃない。緊張とは恐ろしいものである。


 一仕事終えたように椅子の背もたれにもたれかかり、天上を見上げる。


 恐らく、メッセージが返ってくるのは早くて一時間後とか二時間後だろう。下手をすれば返ってこない可能性もある。


「……変な期待せずに風呂でも入ってくるか……」


 ため息をつき、椅子から立ち上がった時だ。


 ――ピロリン♪


「――!?」


 返信が来た。


 すぐさま机の上に置いていたスマホを確認。


『あほ』


「うぇぇ……?」


 送られてきたのは超絶そっけない二文字。


 そっけなさすぎて、つい変な声が漏れてしまった。


『悪い。忙しかったか?』


 高速で打ち込み、送信。


 すると、瞬間的に既読文字が表示された。どうやら冬香はチャットルームを閉じることなく開き続けてくれているようだ。


 それが半端なく嬉しい。迷惑かけたかもしれないのに、口元が微かに緩んでしまう。


『忙しくないよ(-“-)』


 忙しくないならその微妙そうな顔文字は何なんだろうか……。まあいい。


『なら聞くけど、昨日冬香、俺んちに何の目的があって来たんだ?』


 少し直球過ぎたかもしれないと送信した後に気付き、すかさず補足チャットを送った。


『もちろん嫌だったとかそういうわけじゃなくて、単純に気になったから質問しただけだ。いつでも俺んちには来てくれていいからな』


 これまたすぐに既読は付く。


 ……が、なぜか返信がすぐに返って来ず、少し間を置かれてチャットが届いた。


『別にそんなの何でもいいじゃん』


『何でもいいけど、気になるんだよ』


『なんで?』


 なんで、か……。


 質問返しされ、文字を打つ手がはたと止まってしまった。


 なんでって、そりゃあがっつり本音を言うなら『やっぱり俺のことが好きだから家に来てくれたのか? 彼氏ができても忘れられなかったからとか』とか思っちゃってるからだ。


 勘違いも甚だしいし、バカげてるってこともわかってる。


 けど、いきなり何の気も無しに家に来られて、訳わかんない質問されたまま帰られたら、そうも思いたくなる。


 好きな人いるの? とか、それもう好きな人にしてみたい質問ランキングトップ3には入ってそうな質問じゃん。


 マジでどう思ってるのか、そこんとこハッキリさせたいんだ俺は。


『だって、よくわからん質問されたまま俺取り残されたんだぞ? 家に来た理由聞きたくもなるよ』


 割と本音に近いチャットを送ってやった。既読はすぐ付く。


 しかし、今度はさっきよりも長い間があった。


 時間にして五分ほど。


 その間、ずっと俺は画面を凝視したまま待ち続けた。


 そして――


 スポッ。


 間抜けな音とともに送られてきたのはブサイクなペルシャ猫のスタンプ。


 下がり眉で、俺を煽ってきてるかのような顔をし、付属文字には『ええねん』なんてものが書かれている。


「なんもよくねーわ!」


 思わずツッコむも、冬香には聞こえるはずがなく――


 スポッ。スポッ。スポッ。スポポッ。


 スタンプがいくつも連投されてきた。スタ爆ってやつだ。


 そして、極めつけには、


『わかんないなら、ちょっとは自分で考えてみればいいでしょ? ばか』


 罵倒である。


『ナツタロウ様はすぐに何でもわかってくれるよ? シュンとは全然違う』


『ナツタロウ様? 誰だよそれ?』


『私の彼氏』


 やめてくれぇ……。見せつけないでぇ……。


『今日もシュンのいないところですごく私に優しく接してくれたし、イケメンボイスでささやいてくれた』


 うがぐっ……! だ、ダメだ……それ以上は……!


『ナツタロウ様が世界で一番好き。シュウは大嫌い』


 ああああああああああああああっ!


 確実に俺の脳は破壊されてしまった。


 ぐったりと椅子にもたれかかり、その場で溶けてしまいそうだった。ていうか、彼氏の名前ナツタロウっていうんだ……。様付けで呼んでるんだ……。


 俺の知らないところで着々とナツタロウは冬香を調教してるらしかった。絶望しかない。


『幸せ過ぎて困ってたから、部屋になんで来たかよりもナツタロウ様との話してあげる』


 こいつ、鬼なのか……?


『それはいい』


『でしょ? じゃあ、明日もまた夜になったらLIMEするね!』


 肯定の意味じゃねーよ!


 速攻で拒否しようとしたが、それを許さぬ早さで冬香はチャットルームから退出していった。


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