表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/51

38話 放課後デート

 高岸と二人きりで会話した日の翌日、俺は朝から落ち着かなかった。


 理由は簡単で、ちょっとした勇気を振り絞り、行動に移してみようと決心したからだ。


 いつまでも悩んでいたって仕方ない。


 現実を変えるのはいつだって行動した時だ。とにかく動かなければ。


 ――というわけで、


「秋ちゃ……じゃなくて、相生……さん。……ちょっといいかな?」


「! う、うん……」


 俺は秋ちゃんに声を掛けた。


 二人きりでも何でもない。朝のホームルーム前の賑やかな教室の中で。


「……今日さ、放課後は暇?」


「うん。……暇だよ」


「よかった。じゃあ、その、い、一緒に……どこか遊びに行かない?」


「……へ?」


「あ、あ、あんまり高校周辺で遊んだら、誰かに見られるといけないし、電車で隣町までって感じになるんだけど……!」


 周囲の連中に悟られないよう、小さくも、懸命に伝わるよう語気を強めてみせた。


 秋ちゃんはそんな俺を見て、少しだけ呆気にとられた後、クスッと笑みを浮かべる。


 そして――


「わかった。じゃあ、こっそり一緒に遊ぼ」


 口元に手を添えて、内緒話をするみたいに、こそっと言う秋ちゃん。


 交渉は成立だ。


 俺たちはその日の放課後、遊ぶ約束をした。



 時間というのは、早く流れればいいのに、と思えば思うほど、流れずにそこで漂うような遅さを見せてくれるものだ。


 性格の悪そうな掛け時計が動かす針をじーっと見つめ続け、なんとか一日の終わった放課後を迎えた。


 ざわめく教室の中、俺は先に外へ出ていくことをジェスチャーだけで秋ちゃんに伝えた。


 彼女はコクリと頷き、それを了承してくれる。


 出ていく最中、ふと宮田とも目が合った。


 いつもならおチャラけて手招きしたり、すぐさま俺の名前を呼んでくるが、今回は違う。


 何か言いたげな目で俺を見つめ、「もう行けよ」とばかりに視線を逸らした。


 俺はそれを確認し、止めていた歩みを進め出す。


 そして、教室の外へと出た。



「……お待たせ、ハル君」


「あ、うん」


 桜の木の下。


 前に宮田と共に佐々木さんが来るのを待ったところでもある。


 待ち合わせ場所として最適なそこで、俺は秋ちゃんと合流した。


「じゃ、じゃあ、行こっか」


「うん」


 余計な言葉は交わさない。


 何か一言言われるかと思ったけど、秋ちゃんは前髪をくしくし触りながら、特に何も言わず、素直に返事をするだけだった。


 その様が、俺には穏やかなようで必死に見えた。


何かに触れないように、波風立てないように。


 それがどうも居心地悪く、けれど、俺も俺でそのことに関して言及できるはずもなく、二人して歩き出した。


「……ねえ、ハル君」


「ん、ん? なに?」


「数学のテストだけどさ、あれ何点だった?」


「あ、え、数学のテスト?」


「そ。数学のテスト。一応アタシも勉強少しだけ手伝ったし、どんなものだったか聞きたくてさー」


「……な、なるほど……」


 言われ、俺は歩きながら横の方へと視線を外した。


 結果は……正直最悪だったから……。


「あははっ。その様子だと、あんましよくなかったねー?」


「……ま、まあ……」


「ふふっ。で、何点だった? アタシは七十二点」


「結構いいな……。俺、二十三点」


「あー。なるほどなるほど。だったら、赤点君ってわけだ」


「そういうことです……」


 すっかり忘れてたけど、赤点の場合、追試がある。


 追試会なる強制勉強会に一週間ほど無理やり参加させられ、最終的に課せられる試験で五十点以上取らなければいけないのだ。


 取れなかった場合、そこで留年確定。


 マジで次こそは真剣に勉強しないと……。夏が迎えられんぞ……。


「まあ、追試会で頑張んなきゃだね」


「だなぁ……。はぁ……憂鬱……」


 肩を落とし、げんなりとした時だ。


 俺の制服の肘の部分を、秋ちゃんがつついてきた。


 わずかに紅潮した顔で。


「次は……ちゃんとアタシが力になるから……大丈夫」


「……っ! あ、ありがとうございます……」


 反射的に返事をしてしまう俺。


 バカだな、と思いつつ、またやってしまったと、軽く落ち込んでしまうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ