32話 雨雲と贖罪
今回は短めです! 三章の開幕ということで、プロローグみたいなものになりますが、どうかお許しください!
「相変わらず国語の点はいいのな、お前」
雨が降る放課後。電気の点けられていない二人きりの薄暗い教室。
定期テストが終わり、採点されて返された俺の国語の答案用紙を眺めながら、宮田は呟いた。
俺は窓の方へ視線をやりながら、肘を付いて適当に返す。
「数学が悪いのも相変わらずだ」
「いや、それに関しては相変わらずじゃないだろ。赤点とか、苦手とは言いつつもお前絶対取らんじゃん」
指摘され、ため息をつく。
視線の真下。机の上に置かれている数学Ⅱと数学Bの答案用紙。
そこには赤いマーカーペンでそれぞれ『23』、『21』と書かれている。
俺たちの高校では、25点以下は問答無用に赤点対象なのだ。
「……相変わらずだろ。普段から30点台だし、良くても40点台だ。それがちょっと20点台に下がっただけだから驚きはしないだろ。進級したし、色々難しくなってんだよ」
「………………」
自虐的に笑い、気だるげな声音で言ってみせるのだが、宮田からの返答はなかった。
代わりにぶつけられるのは、「そうじゃないだろ」とでも言いたげな視線だ。
「……なんだよ?」
「『なんだよ?』じゃねえよ。どうしてこうなるんだ?」
「は? 何が言いたい?」
「……あの後、瀬名川さんと高岸が付き合ってないってことは聞いた。勘違いだったってLIMEでお前が教えてくれたからな」
「……だからそれが何だってんだ?」
「……春也、お前、なんで瀬名川さんと勉強しなかったんだ? 付き合ってないってわかったんなら、もう心置きなく一緒にいれるじゃねーか」
「……いれねえよ」
「はぁ? なんで? 意味わかんねえ。お前、あんだけ後悔してたくせに今さら何言ってんだよ?」
「……何言ってんだろうな」
「………………っ」
言うと、宮田は舌打ちし、俺の机の上にある答案用紙を掴みながら眼前までそれを近付けてきた。
「いいか? ハッキリ言うが、こんなテストの点なんてものはどうだっていい。赤点取ろうが何しようが、どうだっていいんだ。なんで瀬名川さんと一緒にいない? 避けるようなことをする? 俺に理解できるよう説明しろよ!」
「………………」
「おい春也!」
答えることは何もなかった。
それがたとえ宮田であってもだ。
事のあらましを大方理解してる宮田であっても、俺の今抱えてるこの悩みは解決できない。
というか、解決なんてさせちゃいけない。
これは俺がどうにかして一人で解決しないといけない問題だ。
それが真っ当な対応であり、取るべき選択であり、贖罪でもある。
……だから、宮田には言えなかった。
「悪い。帰る」
「は、はぁ!? 質問に答えろよ!」
「………………」
俺はそのまま宮田を残し、教室を後にした。
薄暗い廊下を歩き、空に張り付いた雨雲を窓から見る。
それはどうしようもないほどに解消されない心のモヤと似ている気がして、このままずっと晴れることがないのではないかと思わせてくれるものだった。
一応次回、主人公と夏太郎君の話になります。二人がマックにでも入って会話したりする予定なので、読んでいただけると嬉しいです!




