28話 ジッと見られたら……恥ずかしい……
夜にもまたもう一本投稿します!
夢を見た。
暗い夜道の中、一人で泣いている女の子に手を差し伸べるような、そんな夢。
不気味であるはずなのに、誰かもわからないはずなのに、なぜか俺はその子のことをずっと前から知ってるみたいにして助けた。
声を掛け、手を差し伸べると、暗闇の中の見えない彼女は驚いていた。
どうして来てくれたのか、そんなことを俺に小さく言ってくれた気がする。
だから、俺も気付けば口を開いていた。
ずっと前から決まり決まっていたような、当たり前のことを言うように。
『春は――』
その刹那、頭上で花火が上がる。
そこで夢は覚めた。
〇
翌日、俺は冬香のお誘いを受け、朝から自宅にてそわそわしていた。
『明日、朝からシュンの家行ってもいい?』
『いいけど、朝から勉強するってことか?』
『そうじゃないの』
『? 勉強じゃないなら、何するんだ?』
『いったんシュンの家に行って、それからちょっと出かけない?』
『え? 出かける? どこに?』
『城下町通り。その、ちょっとした観光……みたいな』
『それって、二人で?』
『うん』
これが昨日の夜交わしたLIMEでのやり取りだ。
正直に言ってめちゃくちゃ急だったし、テスト前のこんな時期にってのもあるし、何よりも秋ちゃんの家から帰ってきていきなりだったから、困惑に困惑を重ねていた。
そもそも、俺は冬香とナツタロウが仲良さそうに夜の公園で過ごしていたのをつい先日目にしたばかり。
嬉しいという感情よりも、疑問がまず頭によぎる。
彼氏はいるけど、幼馴染という俺との関係もそれなりに続けていきたい。
そんなことでも考えているのだろうか。
だったら、別にもうそんなことをしてくれなくてもいい。
嫌いになったとか、腹立たしいとかではなく、俺に時間を割く暇があったら、彼氏である高岸夏太郎との関係を深めていくべきだと思うからだ。
余計な幼馴染と一緒にいるところを夏太郎に見られて、それで関係が悪くなったらどうする。
しばらく俺には絡んでこなくていい。
冬香は冬香の幸せをしっかり掴むべきなんだ。
俺が関係して、それで不幸せになるようなことだけは絶対に避けないといけない。
だから、もしもあいつが幼馴染の俺に気を使ってたりしているのであれば、もうそれは不必要だと今日言ってやろう。
それが一番いい。冬香にとっても、俺にとっても。
そんなことを考えつつ、出掛ける用意をし終わった朝の九時半。
相変わらずそわそわしていたところ、スマホがバイブし、冬香からのLIMEチャットが飛んできた。
『今から家出るね』
すぐさま既読を付け、『おう』と簡単に返す。
返し終わってすぐ、家のインターフォンが鳴った。
お袋が出ようとするも、冬香だからと制止させ、俺が玄関まで向かうことを告げる。
その際、お袋はニマニマして「デート?」と問うてきたのだが、そんなはずはない。
鼻で笑って、適当に「さあ」とだけ言ってやった。
で、玄関まで行き、扉を開けてやる。
「あ、お、おはよ……」
「おう、おはよう。悪いな、わざわざこっちまで来させて。俺が行くべきだった」
「う、ううん。誘ったの私だし……、それに……い……インターフォン鳴らすの……したかったし……」
「? ごめん、今なんて?」
「っ! な、なんでもない! 聞かなかったことにして!」
「……?」
……まあ、別にいいけど。
なんとなくいつもの冬香とは違う気がした。
いや、もちろん可愛さはやっぱり飛び抜けてる。
いつものツインテールの髪型に、涼し気な白のワンピースと白のリボンが付いた麦わら帽子。そして、すらっとした脚の下にはシンプルながらも可愛さを引き立てるかのような黒基調のサンダル。手元にはバッグが持たれている。
ただ、恥ずかしがり屋なのは知ってるけど、会うや否や俺の方を挙動不審にチラチラ見てはうつむいたり、他のところを見たりを繰り返してるってのは明らかに今までと違った。
俺相手にこんなそわそわするような奴じゃないし、こういう時の冬香ってのは、何かを隠してたり、何かを言わなきゃいけないことがある時の冬香だ。
けど、言わないといけないこととか、隠し事とかってのもパッと浮かんではこない。
何かあるんだろうか? それとも、俺の顔に何か付いてるだけとか、そういう――
「あ、あの……、そ、そんなにジーッと見られたら……恥ずかしい……」
「――! ご、ごめん!」
赤面する冬香に言われ、俺は顔をバッと速攻でよそへやる。
思わず見入ってしまっていた。
確かにジッと見られたら恥ずかしいもんな。失敬失敬。
何を言おうとしてるのか気になるところではあるが、仕切り直すように俺は咳払いをし、再び口を開いた。
「じゃ、じゃあまあ、とりあえずもう出るか? 俺、出掛ける準備は済ませてるし」
「……う、うん」
「なら、俺もバッグ取ってくる。ちょい玄関入って待っててくれ」
こくんと頷く冬香を招き入れ、俺はバッグの置いてあるリビングまで走った。
すれ違ったお袋は相変わらずニヤけたままだったのだが、スルー。
バッグを片手に、また玄関まで向かった。




