24話 月光の中の少女
「おい、春也。俺だ俺。宮田」
自室のベッドに横たわり、布団をかぶっていたのだが、ドンドンと扉を叩く音で意識がはっきりとする。
時刻はわからないのだが、恐らく宮田が来てくれたということは、学校終わりの夕方くらいなのだろう。
俺は今日、学校を休んだ。
表面的な理由は、頭痛、体調不良ということにしておいたが、本当のところは違う。
昨日の帰り道、公園で見た冬香と男の抱擁。
それが予想以上に自分の中でショックだった。
たぶん、あれはナツタロウなんだろう。
決定的過ぎて、冬香に話を聞けるレベルじゃなくなったってわけだ。
ナツタロウという彼氏がいる。そうやって本人の口から言われたのに、バカみたいに疑って、現実から逃げて、それでダメージを受けた。
心の底から笑える。つくづくバカだなと自分でも思う。
……まあでも、そんなバカな俺の見舞いにわざわざ来てくれた親友を邪険に扱うのも違う。
重たい体をベッドから起こし、部屋の扉を開けてやった。
「よう、春也。今日はどしたよ? いきなり体調崩すとかお前らしくねーな」
「……まあ、とりあえずこんなところじゃなんだ。入ってくれ……」
「お、おう……」
扉を大きく開けてやり、宮田を室内へと通す。
なんとなく俺のテンションの下がり具合で何かを察してくれたのか、声のトーンも、動きも、いつもみたいに元気なものじゃなく、静かな感じだった。
「適当なとこで座ってくれ」
「ああ……」
俺の言葉を受け、宮田はちゃぶ台があるカーペットの上に腰を下ろした。
「な、なんかすまねえな。いきなり訪問しちまって……」
「いや、別にそれはいいけど。……ってか、今日は佐々木さんいないんだな」
「……? なんだ? りんちゃんになんか用でもあったか?」
「……まあ」
「何の用だよ?」
「一昨日は相談に乗ってくれてありがとうってことが言いたくてさ。それと…………」
「? それと……?」
首を傾げる宮田。
言いかけたところで一瞬止めようかと思ったが、それでも俺は口にした。
「……もう、冬香のことはいいかなと思って。だから、あんま詮索するようなこともしてやらないで欲しいって言いたくて」
「……は?」
なに言ってるんだ、とでも言いたげな宮田の怪訝な表情。
そして、一瞬遅れて奴はハッとした。
俺は空気が悪くなるのを本能的に避けるべきだと悟ったのか、意図せず作り笑いを浮かべてしまっていた。
「ほ、ほら、冬香にはナツタロウがいるって話だっただろ? あれ、どうも本当っぽいからもういいんだよ。はは……」
「……やっぱもう付き合ってたのか……?」
「みたいだ。夜の公園で仲良くハグしてた」
「…………そうだったんだな…………」
わかりやすく落ち込み、肩を落としてうつむいてくれる宮田。
俺はそんな宮田とは対照的に笑った。
「ま、でももうせいせいしたね。あそこまで見せつけられちゃー俺の入り込む隙なんてねーや」
「………………」
「冬香は冬香で幸せになってくれればいいよ。俺ももう変に色々無駄なこと考えたりせずに済む」
「………………」
「てかさ、聞いてくれよ宮田! 相生さんいるだろ? 俺、昨日あの人から――」
「春也」
俺の言葉を遮るようにして、名前を呼んでくる宮田。
その声は短く、静かなものだったが、同時に力強さと確かな何かが込められているような気がした。
大事なことを言おうとしているのが一瞬で伝わってきて、俺は言葉の続きを喋るのをやめてしまった。
「……なんだよ?」
問う。
すると、宮田は顔を上げ、ジッと俺を見つめながら口を開いた。
「せいせいしたってんなら、なんでお前は今日学校休んでんだよ?」
「――! はっ、そ、そりゃ単純に体調が悪かったからだよ。仮病で学校休むの許してくれるほど、うちのお袋は甘くないからな」
「嘘つくんじゃねーよ。今お前はピンピンしてるし、お前の部屋に行く前にお袋さんから話は聞いた。体調自体は悪くないはずってな」
「なっ……!」
気付いてたのかよ、お袋……。
「正直に言えよ春也。お前、まだ瀬名川さんのこと諦めきれてねーんだろ? 諦めきれないから、あの子に会いたくないって思いで学校を休んだ。正解だろーが」
「っ……!」
「俺、お前に前言ったはずだよな? 仮に彼氏ができたとしても、それを奪い取るくらいの気合見せろって。本気で好きなんだろ? 瀬名川さんのこと」
「……うるせーな……」
「うるさくても結構だっつの。お前、今簡単に瀬名川さん諦めたら一生後悔するぞ!? 適当な間男に好きな子盗られてよ!」
「うるせえ、黙れ!」
「黙らねえよ! ウジウジしてねえで奪い返せバカが! お前のそういうとこ見てるとこっちまでイライラしてくるんだよ!」
「っ……!」
舌打ちし、宮田は立ち上がる。
「『お前に何がわかるんだ』って今思ってんだろ? わかるに決まってる。中学の三年まで、お前らは凄く仲が良かったんだからよ」
それから俺に背を向け、扉へと向かい――
「あがけよ。あがいてみるだけで充分だろうが、お前らは」
言い残し、部屋から出て行った。
〇
その夜、俺は家にいるのが辛くなり、外へと出掛けた。
家にいれば、窓から見える冬香の家が目に映るし、カーテンを閉めたとしても生活音が聞こえてくる。
気持ち悪い話だが、そんな生活音からも冬香の気配がまざまざと感じられ、どうにも耐え切れなくなったというわけだ。
LIMEでは、相変わらず冬香から勉強をしようというものが送られてきている。
いつもと変わらない、普段のあいつ。
付き合ってるナツタロウの存在を俺の前では消し、振舞う姿なんて見てられない。
だから、スマホも何もかも置いて、俺は夜風に当たりに行った。
あてはない。とにかく冬香の気配を感じられない場所まで歩く。
そうして、歩いている時だ。
「――ハル君……?」
声が聞こえ、俺はそっちの方へと振り返る。
そこには、月光に照らされた美少女の姿があった。
前話はたくさんの感想ありがとうございました!
一つ一つ拝見させてもらい、作者自身、読者様がどんなことを思いながら読んでくれているのか知れて本当に嬉しく思っています!
ここが嫌いだ、こいつは好きになれん、などなど、マイナスなことでも気にせず書き込んでいただいて結構です!
これからも感想お待ちしています!




