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20話 ノロノロケ

投稿遅くなってすみません!

 とんでもないことになってしまった……。これ、どうすんの……? どうなるの……?


 人通りの少ない放課後、学校の裏門前にて。


 俺は眩しい夕日が差す中、一人でボーっとしながら突っ立っていた。


 理由は簡単。あの相生秋奈子さんがやってくるのを待ってるからだ。


 あの、相生秋奈子さんと……。


「ていうか、そもそも前提からおかしいだろ……。俺、キモいことしたはずだよな……? それがなんで家に誘われてんの……? バグなの……? 現実にもバグって起っちゃうもんなの……?」


 バグを起こしてるのは俺の頭の方だった。


 だってそうだ。高いところからジャンプしたら当然下に着地するし、飯を食べれば腹の中に入っていく。

 それと同じで、キモいことを言えば、嫌われて次から邪険に扱われたり無視されたりするのが普通なんだ。


 なのに、これは非現実的すぎる。なんでキモいことしたのに家にお呼ばれしてんだよ?


 あれか? 家で秘密裏に自分の手で俺のことを処分しようとしてるとかか?


 そうか。そうに決まってる。じゃないと話のつじつまが合わない。


「は、はは……はははっ! そ、そうだよな! そうに決まってる! 今から俺たぶん相生さんにぐちゃっとやられちゃうわけだ! ははは! なるほどなるほど……って、だったら逃げないとヤバいじゃねえか――」


 ――と、狂人のごとく自己完結し、一人ツッコミを入れている最中だ。


「お待たせ、青山君」


 冬香とは違う、明るく元気な声のトーンで背後から名前を呼ばれ、つい体をビクッとさせてしまった。


 それから、ギギギ……とぎこちなく振り返り、やって来た彼女の方を見やる。


「……お、お待ちしていました相生さん……」


 想定通りというか、声のトーン通り、そこには茶褐色の髪の毛をピンで留めた相生さんが立っていた。


 立っていたのだが、何か面白かったのか、いきなりクスクスと笑い始める。


「え、な、なに? どうかした?」


「なんでいきなりそんな丁寧な対応になるのw」


 言われ、俺は「確かに」と頷いてみせる。


 すると、またそれが彼女の笑いの琴線に触れたのか、相生さんはさらに笑い出した。


「やっぱり、青山君は相変わらず面白いなーw」


「褒められてる気はまったくしないけどね……」


「褒めてるよ。褒めてるに決まってる」


「そ、そうすか……?」


「うん。ずっと変わらず面白い」


 ずっと変わらず……?


 引っ掛かりを覚え、軽く首を傾げる。


 すると、相生さんは誤魔化すように「じゃ、行こっか」と俺に歩くよう催促するのだった。



 家に着くまでの道中、努めてかどうかはわからないのだが、相生さんは俺の例の件についてまったく触れてこなかった。


 中間テストが近いから、それに対する勉強の進捗だったり、試験の予想難易度の話だったり、出題問題の話などが中心だ。


 俺はそれに対し、ずっとドギマギしながらもなんとか愛想笑いを作り、当たり障りのない返しばかりを繰り返す。


 そんなことを続け、歩くこと十五分ほど。


 赤茶色のマンション前に辿り着いた。


 ここの一室が相生さんの家らしい。


「アタシ、一人暮らししてるんだよね。だから家に親居ないから自由にしていーよ」


「あぁ、はは。そりゃ気楽だなー」


 って、んなわけあるか!


 気楽じゃねえわ! むしろ親居てくれた方がよかったわ!


 宣言されたマンションの部屋に二人っきり発言。


 動悸が早くなるのを確認しつつ、俺たちはエレベーターを使って部屋へと向かう。


 2階……3階……4階……5階ときて、ここで止まった。


 そこから少々歩き、廊下の突き当りのところが相生さんの部屋。


 彼女が鍵を開け、中へと案内される。


「どうぞー、入って入ってー」


「あ、は、ひゃい……」


 ――冬香以外の女の子の家。


 玄関の段階で香る相生さんの部屋のいい匂いが、俺の脳内をこの言葉で埋め尽くす。


 別に裏切ったわけでもないし、冬香とは付き合ってるわけでもないけど、罪悪感が半端なかった。


 手汗がすごいことになってる。俺、生きて帰れるんだろうか……?


 グルグルとそんなことを考えつつ、故障間近のロボットみたいな足取りで相生さんのうしろについて行く。


 通されたのはリビングだった。


 白基調で、ソファとテレビがあり、キッチンのすぐ目の前に一人暮らし用とは思えない四人用のテーブルがあった。


 どこもかしこも掃除が行き届いている。綺麗だ。


「あはは。あんまり見られちゃうと恥ずかしいんだけどなー……」


「あ、ご、ごめん! 綺麗だったもんで、つい!」


「そう言ってもらえるのは嬉しいけど。……うん、やっぱ恥ずかしい」


「すいません。視線の方、注意しておきます」


「お願いします」


 お互いにかしこまってお辞儀をし合う。


 相生さんは顔を上げ、クスッと笑い、それから冷蔵庫の方へと歩いて行った。



「そのソファにでも座っててよ。冷たいお茶でも出しますのでー」


「ごめん、ありがとう」


「いえいえー」


 言われた通りソファに腰掛け、一息ついた。


 動悸は依然として早いままだが、とりあえずは落ち着こう。変なたたずまいをしてればそれだけで意識してるってのがバレバレだ。


 ……まあ、もう緊張してるのは伝わってるんだろうけど。


「それにしてもあれだな。相生さん、結構いいところで一人暮らししてんだね」


「うん。お父さんが心配性でさ、高校入学を機に一人でここに住み始めたんだけど、セキュリティのしっかりしたところでーって言って、この部屋になっちゃった」


「あ、そうだったんだ。中学ってどっか遠いところに通ってたの?」


「岡山のところに通ってたの。ここ山口だから、結構距離あるよね」


「ほぇー、なるほど」


 岡山……か。


 昔の記憶だが、小学校の時、冬香以外に仲良くしていた女の子が岡山に引っ越していった。


 なんか妙なつながりがある気がするが……。まあ、気のせいだろう。あの子と相生さんは全然似てない。


「じゃあ大変だな。ホームシックとかならなかった? 初めての一人暮らしはなりがちとかって聞くけど」


「ううん。全然。こう見えてもアタシ、寂しさには強い方なんで」


「……まあ、見た目通りかな?」


「あ、ひどい青山君! 今のは失礼発言!」


 言って、むすーっとした顔をキッチンの方から覗かせてくれる相生さん。


 俺はそれを見て自然と笑みをこぼしていた。


「冗談だよ。冗談だけどさ、岡山って聞くと、昔引っ越してった仲のいい子がいたんだけど、その子はすごい寂しがり屋だったなっての思い出すよ」


「…………へー、そうなんだ」


 なんか変な間があったな。まあいいか。


 俺は続ける。


「そうそう。なんか暗い感じの子でさ、教室の隅でずっと絵ばっかり描いてたから、ある時を境にいじめられだしてね」


「……うん」


「けど、俺はその子と席が隣になったのをきっかけに仲良くなったんだ。ゲームの話とか色々して楽しかった」


「……ふーん」


 言い終えたタイミングで、肩をちょいちょいつつかれた。


 相生さんが立っており、お盆でお茶を持ってきてくれた。


「お待たせ。お茶どうぞ」


「あ、ありがとう」


 お茶を俺に渡してくれ、彼女はちょうど真横に腰を下ろしてくる。


 ドキッとしたが、平常心だ。平常心……平常心……。


「でもさ、そうやって青山君が覚えてくれてたら、きっとその子も喜んでると思うよ」


「はは。そうだといいけど」


 ただ、向こうは覚えてないだろう。


 それでも別にいいけどな。大事な思い出だが、結局はそれだけの話だ。


 その子だって新しい場所でまた新しい関係を築いてるはず。


 こうしてたまに思い出すだけでいい。


 一抹の寂しさのようなものを覚えつつ、冷たい麦茶を一口飲む。


 ……美味しい。


「……ちなみにさ、青山君。その子とゲームの話してたって言ってたけど、そのゲームのタイトルは覚えてる?」


「ん、もちろん。『俺を嫌う幼馴染が彼氏との惚気話ばかりするので、仕返しに彼女との惚気話したら様子がおかしくなった』だよ。超長いから、『ノロノロケ』って巷では呼ばれてるゲーム」


 これ、小学生にはまだ少しばかり早い気のするこってこてのギャルゲーだ。


 思い返してみると、よくこんなギャルゲーで話が合ってたな……。


 俺もあの子もマニアすぎだろ。まあ、だからこそ仲良くなれたんだが。


「ノロノロケ、ね」


「うん。それがどうかした?」


「ううん。何でもない。たださ――」


 言って、相生さんはソファから立ち上がった。


 そして、目の前にあったテレビの下の棚に手を伸ばす。


 そこから取り出されたもの。それは――


「私もそのゲームに関しては色々知ってるんだ。だから、ちょっとだけ久々にやらない?」


 ノロノロケのパッケージ。


 それを見せられた時、一際俺の中で心音が大きく鳴ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 山口…の割には方言全く出てこないな。 方言圏の学生って意外と標準語だったりするのかな?
[一言] そ、そう来たか! やっぱりアキナコちゃんでいいんじゃない? いや、アキナコちゃんがいいんじゃん!
[良い点] 更新ありがとうございます。 相生さんの意味深な反応が気になるw もしかしたらもしかするのでしょうか。 …まさかそんな小説みたいなこと(←)
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