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2話 不仲な幼馴染を部屋に入れた

 突然の来訪者の正体。それは瀬名川冬香だった。


 いきなり何の脈絡もなく俺の家に遊びに来ることは昔からよくあったが、あくまでもそれは仲がめちゃくちゃよかった時のことだ。


 今は残念ながらそうじゃないし、こいつには彼氏がいるはず。


 なのに、幼馴染だとはいえ、男の家に一人で来るなんてことは確実に許される行為じゃない。


 早急に帰ってもらいたいのだが、無遠慮に追い返すというのもできなかった。


 もしかしたら何か大事な用があって来たのかもしれないし、俺の中で冬香に対する想いが残りすぎてる。


 叶うなら、彼氏ができたなんてこと悪い夢であってくれ。叶うなら、また昔みたいに大好きだって言ってくれ。


 そんなありもしないような願望が形となり、部屋へ招き入れるという結果に繋げさせてしまっていた。


 どこまでも未練たらしい男だと、つくづく思ってしまう。


「な、なんだ……その……お、お前が俺んち来るの……久々……だな……」


「………………」


 微妙な気まずさに耐え兼ねてぎこちなく声を掛けたのだが、冬香は何も返答してくれることなく無言。


 俺の部屋に来た時のお決まりのポジション、壁際のネコ座布団にちょこんと正座し、出してやったカフェオレをストローで飲みながらムッとした表情を貫いている。


「い、いやー……はは。もう少し部屋の片づけしとけばよかったなぁ……なんて……」


「………………」


 無言。


 代わりに「ちゅぅ……」とストローを吸う音が小さく聞こえてきただけだった。


 死ぬほど気まずい……。


「……ねえ、シュン」


「! ん、な、なんだ!?」


「なんで最近私のこと避けるの?」


「……え?」


「家の周りでも学校でも、全然最近会わないじゃん。なんで?」


「……」


 そんなの決まってる。お前に彼氏ができたからだ。俺はお前のことが死ぬほど好きだったんだぞ。


 なんて本音が言えるはずもなく、気付けばこんなことを口にしていた。


「い、いやぁ、別に避けてなんかないけど? 気のせいなんじゃないか?」


「でも、一か月ずっと会わないとか普通おかしいじゃん! 家は隣なのに全然見ないし、学校でだって教室にずっといるし!」


「え、なんでそれを……?」


 俺が首を傾げると、冬香はハッとして顔をボッと赤くさせる。


 こいつは昔から赤面症ですぐに赤くなる。恥ずかしいと速攻でこうなるんだが、耳まで真っ赤になるのでうしろからでも恥ずかしがってるのがわかる。


「もしかして、B組まで来て俺のこと見てたのか?」


「ち、ちがっ!」


「お前、彼氏いるんだろ? 俺なんかに構わなくたっていいじゃん」


「うぅっ……! そ、それは……!」


「そもそも冬香さ、俺のこと……その、嫌ってるんだよな? だったらもうなおのことどうでもいいはずだろ?」


「……っ~! そ、そうだけど……そうだけど……!」


 よくわからんが、冬香は一人で「う~っ」とうつむきながら唸り、何かと戦ってるようだった。


 ストローをくわえたままだから、カフェオレがコップの中でぶくぶくとなる。


「シュン」


「ん、はい」


 もうストローから口離せばいいのに、冬香はそれをせず、上目遣いになってから俺の名前を改まって呼んだ。


「ちょっと聞きたいことがあるから、ちゃんと座って」


「なんだよいきなり? これでも結構ちゃんと座って――」


「いいからちゃんと座るの! 正座して私としっかり向かい合って!」


 マジで何なんだ……。


 仕方なく、俺は言われた通り胡坐から正座に座り直す。

 そして、しっかりと冬香の顔を見やった。なんか恥ずかしい。


「それで、何なんだ? 聞きたいことって」


「うん。えっと、シュンってさ、今好きな人いる?」


 唐突過ぎて思わず吹き出してしまった。


「すすす好きな人!?」


「そう。好きな人。いるの?」


 少し睨んだような表情で、頬をほのかに赤くしながら問うてくる冬香。


 その顔は恥ずかしさに負けないよう硬くしたものなのか、俺の回答次第では不機嫌になるよという合図なのか、その他なのかとにかくわからない。


 ただ、一番わからないのはこいつの質問意図だった。


 俺に今そんなの聞いてどうするっていうんだよ!?


「い、いや、いない……けど……」


「誰も?」


「お、おう」


「じゃ、じゃあ前まで好きだった人とかは?」


「それも……まあ、いない……かな?」


 いっそのこと言ってやろうかと思った。


 冬香が好きだ、と。


 が、それはできない。彼氏持ちですからこの人……。


「そうなんだ。じゃあ、つまりシュンにはずっと好きな人がいないってこと?」


「ま、まあ……」


 だって、生まれてこの方好きになった女子なんて冬香くらいしかいないしな。


「それはギャルゲーがあったからなの? ゲームの中だとたくさん可愛い子がいるから」


「そうだな。二次元に三次元は勝てん。不変の真理だ」


 一人を除けば、だが。


「はぁ……」


 答え終わったところで、冬香は深いため息をついた。


 そのため息には落胆しか見えてこない。がっかりさせてしまったみたいだ。


「な、なんか変なこと言ったかな俺?」


「言ってないね! うん、言ってない!」


 言ってないならなんでそんなに不機嫌っぽそうな顔して圧かけてくんの!?


 昔はすごくわかりやすくてコミュニケーションも簡単だったのに、今ではもう冬香のことが俺にはまったくわからなかった。


 これが俗に言う、『彼氏色に染められた』というやつなのだろうか。ショックでまた寝込みそうなんだけど……。


「まあいいよ。それだけわかったら、今日はもういい」


「え、も、もう帰るのか?」


「帰ります。これからシュンにどうやって接していけばいいのか、よーくわかったからね」


「……はい?」


「……ばか……」


 小さい声で罵倒文句を残し、冬香は少し涙目になって俺の部屋から出て行った。


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