18話 いや、マジかよ!?
いつもより少し長めです! すみません!
そんでもって、放課後。
俺は宮田と一緒に学校から出て、裏門横にある桜の木の下で佐々木さんを待った。
待つこと五分ほどだろうか。
「二人共、しゃざーい! ごめん! ちょっと遅くなっちゃったよ!」
息を切らして俺たちの元へと走ってくる佐々木りんさん。
三つ編みヘアで、メガネをかけたわりかし可愛い女子だ。
身長も平均くらい。
平均くらいなのだが……。
「宮田、メロンって最高だよな」
「ああ、最高だな。いつ見てもあきな――って、人の彼女をやらしい目で見んじゃねえ!」
佐々木さんのお胸は平均以上。
凝視しちゃいけないのはわかってるのだが、男として自然とその二つの山に目が行ってしまうのもまた当然なのだ。つくづく宮田が恨めしい。
「はぁ……はぁ……。ごめんねー」
俺たちの元へ辿り着き、軽く膝に手を突いて謝罪してくる佐々木さん。
顔を上げて向けられた笑顔が輝いて見える。可愛い。本当に宮田が恨めしい。
「全然いいよ、りんちゃん。なに、また部活絡み?」
「うん。ちょっと文芸部この時期忙しくて」
「なるほどなるほど。そんじゃちょっと休憩してマッグまで行く?」
「ノーノー、だいじょぶだいじょぶ! 待たせたうえにさらに時間取らせるのも申し訳ないしさ。それに――」
佐々木さんの視線が俺へと向けられた。
「青山君から早く話聞きたいし」
そういうことらしい。
俺は苦笑し、おどけてみせた。
「別にそんな聞かせるような話じゃないけどね。今日はほんと申し訳ないっす」
「ううん、いいよ。私も私で冬香ちゃんのこと聞きたかったし」
「はは……。そう言ってもらえるとまあ、気が楽かな」
言って、俺は側頭部を軽く掻いた。
「オッケー。んじゃ、さっそくマッグ向かいますか」
「おー! あ、ゆー君、前のおごりの件私忘れてないからね~?」
「げっ! そうだったわ……」
「おごり癖ありすぎだろ宮田。俺も今朝、おごってやるからって言葉忘れてないからな」
「春也までかよ~!」
「あはははっ!」
そういうわけで、俺たちは三人でマッグへ向かった。
〇
マッグに着き、軽く注文を済ませ、ハンバーガーやジュースなど諸々を持って俺たちは席に着く。
俺が頼んだのはシンプルな100円ほどのハンバーガーとコーラ。
宮田は照り焼きバーガーにポテトとコーラを頼み、佐々木さんはオレンジジュースとポテトを注文していた。
「りんちゃん、マッグに来てハンバーガー食べんのもったいなくね? どしたん? 体調悪い?」
「大丈夫だよゆー君。ゆー君こそ、帰ったらお母さんが夕飯作ってくれてるのにそんなにしっかり食べて大丈夫なの?」
「大丈夫。俺、結構食べる方だから!」
「そんなこと言って、前帰りにスターハックスでサンドイッチ食べて夕飯入らなかったって言ってたよね? お母さんに怒られたって」
子どもかよ……。
「いやー、あん時は想定外でさー。今日は大丈夫だから! 安心プリーズ!」
「はぁ。私、知らないからねー?」
非常に仲がよさそうで微笑ましいのだが、カップルと共にこうして行動していると、独り身の自分がやけにむなしく思えてくる。
話を聞いてもらえるからって三人でマッグまで来たけど、軽い地獄だわこれ。
ストローを突き刺し、コーラを飲みながらそんなことを考えていると、佐々木さんが俺に話を振ってきた。
「じゃあさっそくだけど青山君、まずは状況を整理をお願いしていい?」
「あー、了解」
促され、俺は事のあらましをなるべく簡単に話してみせた。
冬香に彼氏ができたこと。
彼氏ができて、なぜかそれを俺にLIMEで自慢してくるから、俺も対抗してギャルゲーの中の登場人物、アキナコちゃんを現実の彼女だと偽ってしまったこと。
隣の席にいる相生さんの下の名前が秋奈子であることを知らなかったこと。
そもそも冬香は俺のことを中三の頃から訳も分からず嫌ってたこと。
そして、つい先日、俺がアキナコちゃんという名前の彼女がいるって嘘ついてることを相生さんに知られてしまったこと。
「――とまあ、こんな感じのことが今俺の周りで起こってんだけど……」
「はっはは! 改めてしっかり聞くと面白悲惨な話だよなぁ」
「ゆー君!」
「すいません」
笑う宮田だが、間違ったことは言ってない。本当にバカげたことしてると思うし、ひどい状況だ。
俺自身、自嘲気味に笑ってみせる。
「でも、ちょっとびっくりしたよ。冬香ちゃん、どうして彼氏なんて作ったんだろ……」
「まあ、元々可愛い方だし、高校生にもなったら彼氏の一人や二人作るもんなんじゃ?」
「声震えてんぞ、春也」
「だからゆー君! 一言余計!」
怒られる宮田と怒る佐々木さん。
二人の様を見て、俺はもう苦笑して肩を落とすしかなかった。
「なるほどね。話してくれてありがと、青山君。私も最近冬香ちゃんの様子が変だから、理由の一端みたいなもの聞けてよかったよ」
「そりゃどうも。俺も話聞いてくれてありがとうだけど、たぶんあいつの様子が変だっていうのはたぶん、ナツタロウつながりだと思うよ」
「知ってるだろりんちゃん? 文系クラスの高身長イケメンだよ。モテモテだって噂の」
宮田が佐々木さんにアシストを入れてくれた。
彼女は頷く。そして、少しばかり考えるような仕草を取った。
「高岸君でしょ? 知ってるよ。知ってるけど……、あの人が冬香ちゃんと……?」
「ない話じゃなくないか? 瀬名川さん可愛いし、春也と不仲だったってんなら、そっちに移ったって変じゃない」
「うーーーん……。言葉の表面通りならそう思えなくもないんだけど……」
言葉の表面通り?
俺は佐々木さんの言葉に軽く首を傾げる。傾げていると、パッと目が合った。
「でも、青山君。本当に青山君って冬香ちゃんから嫌われてたの?」
「……え?」
「今は文系と理系でクラス離れちゃったからわかんないけど、少なくとも一年の時はしょっちゅう青山君のこと話してたよ?」
「えぇ……? 例えばどんなこと?」
「ギャルゲーばっかりしてて二次元の女の子の名前部屋の中でずっと呼んでるとか、また数学が赤点ギリギリだったらしいとか、今日もチャック全開だったとか」
「ぶっははは! 全部恥ずかしいことじゃねえかよ!」
「うぐっ……!」
歯を噛み締めて恥ずかしさをこらえるしかなかった。なんてことを佐々木さんに報告してくれてんだあいつは……。全部本当だけど……。
「……でも、それをなんであいつは……?」
「わかんない。わかんないけど、好きじゃない人のことをずっと他人に話そうとするかなぁ? 私はそうは思えないんだけど……」
「じゃありんちゃんは俺の話ずっとしてくれてるってことだな。俺は幸せ者だわほんと」
「アー、ウンソウダネー」
「なんでカタコト!?」
隙あればイチャつく二人をよそに、俺は少し考えていた。
確かに好きな人以外のことをずっと他人に話すというのはなかなかあり得ない話だ。
そうなると、冬香は俺のことが嫌いではなく、好きだということになるが……。
「いやぁ……、さすがにあり得ないと思うけどなぁ……」
考えていたことが口に出てしまう。
佐々木さんは苦笑し、首を軽く傾げた。
「私は未だに青山君のこと、好きに一票だよ?」
「俺もだな。りんちゃんの話聞いて、さすがに嫌いだとは言い切れねえわ。考えすぎなんじゃねえか春也?」
言われ、俺は首を横に振った。
「でもだぞ? 俺は中三の時に確かに嫌われてるの自覚してたから、嫌ってる理由を直接聞いてみたんだよ。そしたら、『自分で考えてみろ』って言われたんだ」
「「えぇぇ……?」」
「で、俺のことが……まあ、その……す、好きだって言ってくれるんなら、ナツタロウっていう彼氏だって作らないし、報告だってしてこないだろ?」
「た、確かに……それもそうだよね……」「ま、まあ……」
考え込む二人。
飛び交う推測に終わりはなさそうだ。
「ちなみにだけど、佐々木さん。最近冬香の様子が変だって言ってたけど、それはどんな感じになんだ?」
「ん、なんかね、ずーっと会うたびにそわそわしてて、落ち着きがないの」
「ナツタロウに対する恋の病か……?」
「まあ、否定はしきれないのかも。ちょくちょく二人で話し込んでるとこ見るし」
「なら付き合ってるの確定じゃね?」
宮田の言葉に、佐々木さんは釈然としない様子だ。
「でもさ、高岸君と誰かが付き合ってたら噂が回ると思わない? 二人共そんな話聞く?」
「いや、聞かないな」「聞かんなぁ」
「でしょ? だからそれもまだ確定事項にするのは私的にはどうかと思うんだけど。あれだけ青山君のこと好きだった冬香ちゃんだし」
「「「うーん……」」」
俺たちは三人で首をひねった。
考えても考えても、憶測の域は飛び越えない。
「だったらもうよ、思い切って直接聞くとかどうだ? 瀬名川さんとナツタロウに」
「は!?」
「……まあ、もうそれしかないのかもね……」
「ちょっ、佐々木さん!?」
二人して極論みたいなことを言い出した。
慌てふためく俺に、宮田が指さしてくる。
「それ以外はもう考えられん。男なら当たって砕けろって前言っただろ? 今がその時だよ春也」
「いや、ちょい待ってぇ!? さすがにそれは飛躍しすぎだって! 具体的な状況改善案考えてくれるんじゃなかったのかよ!?」
「頑張るしかないよ青山君! ふぁいとっ!」
「そんなぁ!」
グッと胸の前で拳を作る佐々木さんだが、間違ったことを言ってるわけじゃない。
俺も内心こうするしかなかったとわかっていた。わかっていたけど……。
まじぃ……?
「そういうこった。なんかあったらまた俺が助けてやる」
「うん。私も協力するから」
「えぇぇぇ……嘘でしょぉ……?」
「「ほんと!」」
グッジョブポーズを二人して俺にぶつけてくる。
人の気も知らないで……。
とまあ、こんな感じで冬香とナツタロウの件については終わり、次は相生さんの件について話し始めるのだった。
〇
――駅前にて
「なーんかまたお前の噂されてたなナツタローやい」
「はっ。いっつも僕のこと誰かが話してるみたいな言い方やめてくれって」
「大変だなーしかし。あることないこと話されるってのは本当に大変だ」
「………………」
「? どしたよ? 突然黙り込んで」
「ん、いや、まあ、ないこともないから。今のあいつらの話さ」
「はぁー? なに言ってんのお前? 瀬名川さん……だっけ? 付き合ってるわけじゃないじゃん」
「うん。付き合ってないけど。まあ、はは。付き合ってないな。確かに」
「? 訳わかんね。それよりもさ、今度東高の子たちと合コン行くんだけどさー」




