17話 ツインテの秋。ごめんねの秋。
長くなったので一話のところを二話に分けました! もう一本、今日中に投稿するのでよろしくお願いします!
翌日の朝、俺はおそるおそる教室に入り、席に着いた。
最悪、入った瞬間にクラスの男子たちから白い目で見られるかと思ってたのだが、そういうことは起こらなかった。
俺なんかには目もくれず談笑を続けていたり、本を読んだり、カバンのものを取り出していたりと、それぞれだ。
大抵相生さん絡みの情報はどこから仕入れてきたんだよってくらいに男子間で出回るってのに、今回に至ってはそういう様子が見られない。
かなり気持ち悪いことをしてたってのに、ただの妄想野郎として俺は片付けられてしまったんだろうか? それともそもそも噂になってないとか? いやいや、みんな知りつつも俺を無視してるって可能性だってある。シカト作戦決行中とか……?
「はぁ……」
小さくため息をつき、ふと視線を横の席にやる。
そこに相生さんの姿はなかった。
なかったけど、机の横に学校指定のバッグはかかってる。どうやらどこかに行ってるらしい。
戻ってきた時、絶対くそ気まずい空気が流れるんだろうなぁ……。
もう一度ため息を吐く。と、そんなタイミングで背後から肩を叩かれた。
「よっ、苦労人。いや、自業自得人」
宮田だ。今日も相変わらず三白眼の猫フェイス。
「うるせーな、わかってるよ。自業自得人だ。おはよーさん」
呆れたように言うと、宮田はニッと笑った。
「おう、おはよう。どうだ? ちょっと小便行かねーか?」
「はぁ? なんで? ホームルームまであと7分くらいしかねーぞ?」
「よゆーよゆー。それよりも伝えとかなきゃいけねーことがあっからよ」
「ここで話しゃいーじゃん」
「んにゃ、便所で話す。ごちゃごちゃ言わずについてこい」
半ば強制的に宮田に連れ出され、俺は仕方なく教室から出た。
出たのだが、ちょうど扉の辺りで人とぶつかりそうになってしまう。
「――っと、ご、ごめん! ……あ」
「ううん、こちらこそごめ……あ……」
ぶつかりそうになった相手、それは相生さんだった。
今日の髪型は珍しくツインテールで、いつもの印象とは打って変わったものだ。
「あ、え、ええっと……」
「………………ご、ごめんね!」
俺がうろたえている間に謝罪の言葉を口にし。サーっと教室へ入っていく相生さん。
背後の教室内からは、「相生さん今日ツインテ!?」、「おぉぉぉぉ!」だのなんだのと、男子たちの声が上がっている。
さすがの一言なのだが、俺はあまりに唐突な出来事に遭遇し、完全に体が固まってしまっていた。
「春也、お前には俺がついてるからな?」
哀れみの目で肩ポンしてくる宮田の言葉にハッとし、俺は脱力するように肩を落とす。
「……行くんなら行こーぜ……、便所……」
「おう。今度なんかおごってやるから、元気出せな」
宮田の声はいつもより優しく感じた。
励まされるというよりは、より一層悲しさが増してくるだけのものだったのだが……。
〇
「で、結局わざわざ何のためにここまで連れてきたんだよ?」
教室からすぐ行ったところにある便所に入り、どうせならということで俺は小便をする。
宮田も並んで小便をし、「まあ、端的に言うとだな」と切り出してくれ始める。
「マッグの件、明後日って言ってたけど、もう今日にしようってりんちゃんの提案なんだ」
「え、今日か?」
ぶるっと震え、宮田は頷く。
「いやな、どーも最近りんちゃんも瀬名川さんの行動に関して怪訝に思うことが多かったらしいんだ。んで、春也と話せる機会があるなら早い方がいいって言うもんだからよ」
「怪訝に思うところ、か……」
「どうだ? お前今日なんか予定ある? あるなら無理にとは言わねえ。約束通り明日にするけど」
「いや、俺は今日でも構わんけど」
多少冬香との勉強は遅れてもいい。騙すような真似はしたくないけど、先生に放課後頼み事されたから、とかLIME送っとけばいいだろう。
「そういうことなら今日の放課後でよろしく頼むわ」
「おう。……って、なんだ? もしかして、それ言うためだけにここに連れて来たのか?」
小便を終え、俺より先に手洗い場へ行く宮田の背中に声を掛ける。
宮田は「へっ」と笑い交じりで返してきた。
「教室じゃ相生さんがいるだろ? お前、今あの人の目の前だと冷静になれなさそうじゃん」
「ぐっ……。ま、まあ、間違いないな……」
「それに、俺もクラスの男子たちがいる前でりんちゃんがどうとか言いたくねーしな。基本俺はどっちかというとモテない系キャラ、ひょうきんキャラで通してるもんで」
狡猾な奴め……。
けどまあ、世渡り上手な奴ってのはこんなもんなんだろう。
キャラをうまく使い分けて、しかもそれを一々難しく考えず、サラッとやってのける。
俺には無理な芸当だな。場面場面でならできなくもないが、ずっと貫き通すとなると必ずどっかでボロが出る。
笑える話だ。宮田みたいな奴が中学の時から俺と友達やってるっていうのも。
「本音で話したりすんのはお前だけだよ。春也」
「はぁ……。あっそ」
「なーんでそこでため息が出るよぉ~? もっと喜べっつの」
「はいはい。うれしーうれしー」
「ったくよー、可愛くねえ奴だなほんと」
そんな感じで今日の放課後の予定が急遽変わった。
その後こっそり持ってきていたスマホで冬香にそのことを伝えると、怒りのスタ爆がきたのはここだけの話だ。
『愛してる』とかいう言葉付きのブサイクなペルシャ猫スタンプだったのだが、間違えたらしく、必死に一つ一つ焦りながら削除してる様が可笑しかった。




