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14話 ウソは己の身に降りかかってくるものです。

「……それで、結局こんなところまで来て私に何するつもりなの……シュン……?」


「何をするかって? そんなの決まってるだろ?」


「っ! だ、ダメだよ! 私たち……こ、恋人がいるのに……///」


「ああ、知ってる。でも仕方ないだろ。もう、これ以上は限界なんだ」


「そ、そんなぁ……」


「お前の全部、俺に教えてくれ」


「うぅ……。全部だなんて……恥ずかしいよぉ……///」


「大丈夫だ。なんだかんだ言って幼馴染だろ俺たち。何もかも曝け出し合ってた仲じゃんか」


「さ、さらっ……!? で、ででで、でもっ、それでもお互い色々成長したし……///」


「そんなの関係ないよ。冬香、教えてくれ」


「だ、だめぇぇぇっ!」


「――数学を!!!」


 冬香を相生さんから引き離し、入ったもう一つの空き教室の中。


 そこで俺はとある交渉を冬香に持ちかけていた。


「……ふぇ……?」


「頼む! この通りだ! たぶんもう相生さんには教えてもらえない! だから、頼れるのはもう冬香しかいないんだ!」


「な……なに……が……?」


「数学だよ数学! 俺が数学を苦手にしてるの知ってるだろ!?」


「…………………………知ってる」


「だよな!? すまん、だから頼む! この通りだ!」


 俺は冬香の華奢な両肩を両手で掴み、懇願。


 それから一歩下がって土下座までして見せた。


 そうやって床に額を擦りつけている時だ。


「いいよ」


 どこか冷ややかな声音だったが、了承したことを確認。


 喜びのあまり顔をすぐさま上げようとするのだが――


「ぶっ!」


 足で頭頂部を踏んづけられ、俺は再び地面に肌を擦り合わせることになった。


 痛い。けど、上履きを脱いで踏んでる辺り最低限の配慮が見て取れる!


「いいけど、ちょっとイラっとしたから踏む! ばかっ! シュンのあほっ!」


「好きなだけ踏んでください。悪いのは何もかも俺です」


 ――相生さんのことも含めて……。


「でも、なんでいきなり相生さんが数学教えてくれなくなったなんて言い出したの? シュン、相生さんに教えてもらう予定だったんでしょ? アキナコちゃんっていう彼女がいるのに」


 踏む力を強めながら言ってくる冬香さん。どうやら本当に相生さんの下の名前をご存じないよう。


 これは不幸中の幸いだと言えるだろう。


 俺は口を動かすため、押さえつけられる力になんとか抗いつつ、返す。


「あの子が教えてくれるってのは元々一回きりだったんだよ……! 雨で髪が濡れたって言うもんだから、タオル貸してあげたんだ……! そしたらそのお礼に少しだけ数学の勉強見てくれるってことになって……!」


「ふーん、二人っきりでねー」


「ふ、冬香さんなんか誤解してらっしゃらない……!? たまたま流れでそうなっただけだし、俺は意図的に相生さんと二人きりで勉強しようとは言ってな! ……い!」


 またしても踏む力が強くなった。


「あっそ! そんなことなら自慢の彼女アキナコちゃんにでも頼めばいいのに! この女たらし!」


「なっ! ば、バカ野郎……! 俺は生まれてからずっと冬香ひとす――うがくだけを愛してきたんだよ! 苦手だけど数学が俺の恋人だ! 女たらしなわけがあるかぁ!」


「嘘ばっかり!」


「ううう嘘じゃねえよぉ!?」


 危ない。勢い余ってとんでもないことを口走りそうになってた。


「ていうか、大体そういう冬香はどうなんだよ! 俺にばっか構ってたら自慢の彼氏ナツタロウ君が嫉妬するんじゃないのか? それともなんだ? 一足早い倦怠期に入って、俺という幼馴染と一緒にいるところを見せびらかして嫉妬させる計画でも練って動いてんのか? あーあー、ヤダヤダ。俺はどうせそういう役回りだもんなー」


「ち、違うしっ! 私はシュンが一番す――うがく苦手だって知ってるから、わざわざ見てあげようとおおお思っただけだしぃっ!」


「うぼっ!」


 叫んだ勢いでかはわからないが、冬香の踏みつけは本気の領域に入る。


 俺は完全に地面に顔をくっつけてしまう状態になった。床とキスしまくりである。


「わ、わかった! わかったから冬香さんもう許して! 解放してぇっ!」


「シュンのばかっ! ヤリ〇ン! 女たらしっ!」


「うぼああc@pwだ@wだっっっっっ!!!」


 声にならない俺の苦悶の叫びが空き教室に響くのだった。



 ひと悶着あった後、俺たちは相生さんの待つ空き教室へと戻った。


 戻ったが、雰囲気は当然ながら最悪だった。


 アキナコちゃんが彼女なのだという嘘を冬香に吹聴し、それが相生さんにバレてしまってずっと挙動不審な俺。


 俺を踏んづけていたばかりで呼吸がまだ荒く、不機嫌なままの冬香。


 そして、自らを知らず知らずの間に青山春也の彼女にされていた事実を知り、うつむいたままの相生さん。


 そこにあったのは永遠とも思われるような沈黙のみだ。


 俺はもう軽く涙目だった。


 もちろん、自分のやったことがすべて身に降りかかってきてるだけだから、自業自得といえば自業自得なのだが、こんな地獄を体験して、泣かない奴がいるだろうか? いや、ない。


 この調子だと、俺は明日からクラス中に後ろ指を指される羽目になるんだろう。


『青山の奴、相生さんが彼女だとか嘘ついて自慢してたらしいぜ?』

『えぇ~? まじぃ? きっもw 妄想野郎じゃんw』


 とか言ってな……。


 けどまあ、仕方ないか……。


 何度も言うが、すべて自分のやったことだ。受け入れて、耐えるしかない。


 相生さんにも本当に申し訳ないことした。たいそう気持ち悪い男だと思われていることだろう。


 ……はぁ……。


 心の中でため息をつき、俺は時間が過ぎるのをひたすらに待つのだった。


次回、波乱の展開続きます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。頭踏まれるなんてシュンくんにとってはただのご褒美やんけ。 あいおい損保さんはシュンくんの助けになれるのか。 それはそれで悩ましいのだけれど(´・ω・`)
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