9話 ウイスキーボンボンと冬香の本音
何度もすみません! 21時ごろと書きましたが、タイミングがよくなったので投稿します! 感想などなど、頂けるととてもうれしいです!
「んで、何なんだこの展開は……」
「ふへへ~。うにゃ~、シュンたんのお膝の上~」
宴会も終わり、オヤジとお袋も帰ってしまった冬香の家にて。
俺は白基調で可愛らしい小物が並ぶ部屋の中で、一人の美少女に甘えられていた。
「あ、あの、冬香……さん?」
「いーやー。昔みたいに冬ちゃんって呼んでくれなきゃヤなの~」
「………………」
落ち着いて状況を整理しよう。
宴会が終わった後、俺たちはまず交代で風呂に入った。
寝床だが、冬香の部屋にママさんが布団を持ってきてくれて、そこで俺は寝ることになっている。
で、とりあえず行く当てもないので、冬香の部屋をノック。
すると、中から入っていいよとの声が聞こえたので、入室。
そしたら唐突に抱き着かれ、甘えられ、俺は今冬香に膝枕をしている。
対する冬香は、なぜか酔っ払っていて確実に正気ではない。
床には今日の昼、俺が冬香ママに渡したウイスキーボンボンの包装紙が2、3個散乱している。
こうなってくると、浮かび上がる答えは一つだ。
「ね~、シュンたん、結婚しよ~?」
こいつ、ウイスキーボンボン食べて泥酔しやがった。
マジかよ……。アニメキャラ並みに酒に弱いんですが……。
「ちょ、ちょっと待て冬香。いったん落ち着け」
「だーめぇ! 冬ちゃんって呼んでくれなきゃヤって言ってるのにぃ~!」
「わ、わかった! ふ、冬ちゃん! ちょっといったん落ち着こう?」
「えへへ~。は~い、シュンた~ん」
ふにゃふにゃな口調で何とか了承してくれ、頭をグリグリと俺の太ももにこすりつけてくる冬香。
まるで自分の匂いをくっつけようとする猫みたいだ。さっき髪洗ったばかりでリンスのいい香りがすごいし、クラクラしてくる。
「ねえ、シュンたん」
「ん、なんだ?」
「覚えてる~? 昔はね、シュンたんよくこうやって膝枕してくれてたの」
「……。うん。覚えてるよ。幼稚園の時だけどな」
シュンたんって呼び方も幼稚園の時のものだ。
どうやら冬香は酔うと幼児退行してしまうらしい。
「どうして最近はしてくれなくなっちゃったの? ふゆ、寂しいよ……」
「……そりゃまあ、もう俺たちも高校生だろ? 小っちゃい時みたいにはいかないよ」
「どうして……? 高校生だと、膝枕しちゃいけないの……?」
「うっ……、ま、まあ……」
「お父さんはお母さんにしてもらってるよ? 高校生だと、どうしていけないの?」
「え、ええと……」
ヤバい。なんて言い訳しよう……。
「もしかして……ふゆのこと、嫌い……?」
「そ、そんなわけないだろ!?」
「じゃあ、好き?」
「そ、それは……」
「……嫌い……?」
「ち、違う! 大好き! もう、冬ちゃん超好き!」
どうにでもなれ。その思いで言ってやった。
冬香の表情が一気に幸福感へ包まれていく。
「……っ。どれくらい……?」
「もうめちゃくちゃにしたいくらい! 誰にも渡したくないくらい! 世界で一番好き!」
完全にヤケクソだった。
相手は酔っ払いで正気じゃないからって、吐き出したいことをありったけに吐き出す俺。
これをもし冬香が覚えていたらどうしよう。
冷静に考えてみればそう思うのだが、雰囲気に流されてか、何もかも考えずに本音を言ってしまっていた。
「……ふゆも、シュンたん好き……。大好き。ずっと。ずーっと」
「! でも冬香、お前は――」
ナツタロウっていう彼氏がいるだろう?
そう言おうとして、冬香の顔を見やった。
冬香は今の短い間隔で眠りに落ちてしまっていた。
小さく寝息を立て、俺にその身を預けてきている。
「……はぁ……」
一気に脱力し、息を吐く。
緊張状態だったのか、体のこわばりがすごかった。
思い出したかのように、足のしびれが襲い掛かってくる。
とりあえず、冬香はベッドに寝かせよう。
俺は立ち上がり、冬香をお姫様抱っこでベッドへ運んだ。
そして、布団をかけてやる。
「シュン……」
「――!」
寝言か……。
「頭……撫でて……」
「……ははっ。はいはい」
俺は言われた通り、冬香の頭を優しく撫でてやった。
〇
翌日の朝、俺は冬香ママお手製の朝食をごちそうになり、自分の家へと帰った。
冬香はこの日、誰かと約束があるみたいで、10時ごろ、俺と一緒に家を出る。
どうせナツタロウとのデートだろう。わかり切っているので、追及はしない。追及したらその現実を突き付けられるだけだからな。
「なあ冬香、昨日の夜のこととか……覚えてるか?」
「? 昨日の夜のこと? 何かあったの?」
「ああ、覚えてないならいいんだ」
「なに? もしかして私が寝てる間にエッチなこと――」
「違う! 断じて違う! 彼氏持ちのお前にそんなことするわけない!」
「……っ。な、ならいいけど?」
軽いやり取りを交わし、俺たちは家の前で別れた。
別れ際、微かに冬香の耳が赤かったのが気になるが、それもまた、ナツタロウとのデートへの高揚感と緊張感からくるものだろうと思う。
俺はため息をつき、自分の家の玄関を開けた。




