1話 大好きなあの子が……
新連載です! 完結まで頑張ります!
「しゅ、シュン! 私、彼氏ができた!」
高校からの帰り道、幼馴染である瀬名川冬香にそう告げられて、俺――青山春也の脳内活動は完全にストップしてしまった。
俺と冬香は家が隣同士だったということもあり、幼稚園、いや、生まれた時からずっと一緒だった。
恥ずかしい話だが、そんな幼い時に「大きくなったら結婚しようね」なんて誓い合ったこともある。
互いの家に何度も泊まり合ってるし、家族ぐるみの付き合いだってあるし、女子にあまり理解を示してもらえないギャルゲーや萌えアニメ趣味だって「シュンが好きなら」なんて言って、冬香は進んで受け入れてくれたのだ。
以降は、冬香自身ギャルゲーと対極をなすであろう乙女ゲームやアニメにドはまり。
オタトークにもガンガンついてこれる上に、俺の知らない知識なども教えてくれるほどになった。
そうやって趣味を受け入れてくれる優しさに加えて、冬香は見た目だって可愛い。
艶やかな黒のロングヘアをツインテールにし、整った顔を象徴するかのようなぱっちりとした茶色の瞳は宝石のようで、身長は俺より10センチ低い153センチで小動物っぽさがある。
少しドジなところはあるけど、俺はそんな冬香の何もかもが好きだった。
なのに、現実ってやつは非情なもんだ。
今、俺たちは高校二年なんだが、中学三年辺りから突然冬香は俺のことを嫌い始めた。
理由はわからない。
何かをしたのかって聞かれるとまったく身に覚えがないし、直接聞いたってしっかりと答えてくれず、「自分の胸に聞いてみればいいじゃん」の一点張り。
結局、俺はひたすら訳の分からないまま生活するしかなかった。
で、迎えた高校二年の春。四月の下旬。久しぶりに帰り道で呼び止められたと思えばこれだ。
彼氏ができたって……マジかよ……。
ショック過ぎて頭はうまく回らなかった。
「はは……は……。そ、そりゃめでたいな……」
「う、うん。そう! イケメンで身長が高くて勉強もできてスポーツもできて、とにかくシュンより全然かっこいいんだからっ!」
「そっか……。おめでとう……」
それくらいの当たり障りのないことしか言えない。
楽しかった過去や思い出が音を立ててぐちゃぐちゃになっていく感覚を、俺は確かに自分の中で感じていた。
だからもう、以降短く交わした会話の内容も覚えていない。
俺の頭の中にグルグルと巡り続けていたのは、
『どうしてこんなことになってしまったんだ』
という言葉だけだった。
〇
それから、俺と冬香の縁は完全に切れたと思った。
だって、そうだろう。
元々嫌われてた上に、絶縁宣言と受け取ってもいいような彼氏ができたよ発言。
あれはもう完全に近付くなという意思表示だ。
だから、俺はそれを悟って意図的に冬香を避けた。
単純に嫌われてただけの時は、多少の気まずさを感じながらも、朝家を出る時に鉢合わせてたりしてた。
けど、それを絶対にしないため、時間ギリギリまで家に留まり、冬香が家を出てから俺は家を出るようにした。
他にも様々なシーンで冬香を避け続けた。
学校内では、クラスは違うものの廊下に出れば会う確率が増える。
だから、休み時間も昼休みも極力教室にこもり、時間を潰す。
その際、中学からの友人である宮田雄大から怪訝に思われたりもしたが、長い付き合いだ。事情を話せば理解してくれ、色々とアシストしてくれたりもした。
やはり持つべきは友人といったところだろう。
感謝しかない。
帰り際も同じだった。ギリギリまで教室に留まり、同学年の奴らみんなが下校やら部活やら、それぞれ移動しただろうというタイミングで帰路に就く。
そんな生活を続けていたせいで変な疲労を被ったりしたが、それでも冬香に出くわすようなことに比べれば、何でもない。
いつまで続ければいいのか、そんなことを考えたりもしたし、宮田に問われたりもしたが、それでも「知らねえよ」と返すことで逃れ続けた。
こうして、ゴールデンウィークを挟み、冬香と一切会うことも話すこともなく一か月ほどが経過した五月の休日。
その日、俺は外が晴れているのにも関わらず、自室にこもって買ったばかりのギャルゲーをプレイしていた。
平和なひと時。
誰にも傷付けられないし、警戒しなくていい。こんな時間がいつまでも続けばいいのに。
そう思って着々と推しキャラの攻略を進めていたのだが、15時あたりを回ったタイミングで事件が起きる。
――ピーンポーン。
突如、ギャルゲーのプレイBGM以外の音声が俺の耳に届いた。
どうやら我が家に来訪者がやって来たらしい。
「……誰だ? 配達か?」
不審に思いつつも、俺は関係ないとばかりにコントローラーの丸ボタンをプッシュする。
どうせお袋辺りが出てくれるだろ。
なんてことを考えるが、
――ピーンポーン。
早く出ろと言わんばかりに二度目のインターフォン。
なんだ? お袋今家にいないのか?
「あーもう、ちくしょう。せっかくいいところだったのに」
仕方なく立ち上がり、部屋から出て階段を下り、玄関へ向かう。
その際にリビングへと目をやったが、オヤジもお袋も二人共いなかった。姉貴は大学の友人と遊びに行くって言って朝早くから家を出ていた。
「ったく、可愛い息子を残してどこ行ったんだよ……」
――ピンポーン。
「はいはい。今出ますよー」
ブツブツと愚痴りながら、玄関の扉を開ける。
「……え?」
と、そこには……。
「は、早く開けてよ……」
顔を赤くさせてうつむく冬香の姿があった。