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冒険への二歩目:出題編

 ミントが自己紹介をしたのを聞いて、お互いにそれぞれそれなりに自己紹介をした後。

 仕切り直し、とばかりにヴィオラが咳払いを一つした後、言葉を続けた。


「さて、武器を選び終わったら次は当然防具なんだが……正直、これは問題にするのが難しいくらいわかりきっている」

「おうっ、当然プレートアーマーだよな!」

「……エイジ……だから、彼女がそんなものを着たら防具屋から出てこれないだろ……」


 元気よく割り込んできたエイジへと向かって、ヴィオラは容赦の無いジト目を向ける。

 いや、ミント以外の全員が、大体そんな感じで彼を見ていたのだが。

 そんな空気を強制終了させるかのように、ヴィオラがまた一つ咳払いをした。


「エイジの意見はともかく。防具には大きく分けて三種類、布製、革製、金属製がある」

「え、布製、ですか??」


 ヴィオラの説明に、ミントはきょとんとした顔になる。

 その反応自体は珍しいものでもないのか、ヴィオラも笑いながら頷いて。


「ああ、布製の防具、というと意外に思うかも知れないが、魔術師なんかは腕を自由に動かさないといけないため、ローブくらいしか装備できないことが少なくないからな」

「あ、なるほど……あれも、防具と言えば防具ですね……」

「ちなみにミント、お前、魔術が使えたりするか?」

「使えるわけありませんよ!?」


 唐突な問いかけに、ミントはぶんぶんと首を横に振った。

 というか、そもそも彼女は魔術そのものを見たことがない。

 そんなミントの反応に、ヴィオラはやはりかと納得顔だ。


「まあ違うとは思っていた。魔術師の弟子だったら、師匠によってそれらしい格好をさせられてる事が多いしな」

「そうなんですか? わぁ、見てみたいなぁ、お弟子さんもですけど、魔術師の方も!」


 魔術師、と聞いて目をキラキラと輝かせる姿に、リブラや他の面々はどこかほっこりとした顔になる。

 彼ら彼女らにもそんな時代があった……などと言ったら流石に怒られるだろうか。


「今日は来ていないが、このギルドにはノイズという魔術師がいる。いずれ紹介してやろう」

「はいっ、お願いします!」

「素直というか、なんというか……いやまあ、いいんだがな」


 先程までは初めて来た冒険者ギルドに緊張していた様子だったのに、いまやすっかり元気になってしまっている。

 見た目は十代半ばか、前半か。年相応と言えばそうなのだろう。


「そんな魔術師のローブ以外にも、クロースアーマーといって、文字通り服のような布製の防具がある。

 綿を入れるキルティングを施しているため、キルテッドアーマーということもあるな。

 殴ってくる武器相手以外の防御力は期待できず、音を立てることを嫌うシーフや身体の動きが阻害されることを嫌うモンクなんかが身に着けることがほとんどか。

 どちらかと言えば、その上から金属鎧を装備する際の、擦れたり衝撃を防ぐためのものとして使われ方が最近では多いかも知れない」


 ヴィオラの説明に頷いて見せたのは、ドワーフのアイゼンだった。

 なるほど、彼なら普段から金属鎧を着けているだろう、と納得したところに、意外な言葉が投下される。


「実際、ワシも鎧の下にはカミさんお手製のキルテッドアーマーを着とるぞ」

「え、アイゼン結婚してたのか!?」


 思わぬ言葉に、全員の心を代表してツッコミを入れたのは、エイジだった。

 あまり空気の読めない彼が、だからこそ無遠慮に入れたツッコミ。おかげで口にせずにすんだと、ある意味この場にいたアイゼン以外の皆が感謝に近い言葉を胸の内でつぶやく。

 あくまでも胸の内で、言葉には誰もしなかったのだが。


「なんじゃ、ワシが結婚しとったら何か拙いのか」

「いや、そんなことはないんだが……」


 と、流石にエイジも意外すぎるという本音はぼやかしたのだが。


「この髭もじゃと結婚してくれるくらい慈悲深い人がいたなんて驚き」

「なんじゃと!」


 容赦の無い毒舌をぶつけてきたリームに、アイゼンは食ってかかる。

 険悪な空気にミントはおろおろとするが、しかし周囲はやれやれと諦めたような空気。

 どうやらこの二人の衝突は、日常茶飯事らしい。だからか、ヴィオラもフォローを入れずに軽く手を振りながら仕切り直しを図っている。


「あ~、なんだか別方向に行きそうだから、話を戻すぞ。

 次が革製の鎧。これには大きく分けて二つの種類があって、なめした皮をそのまま使うソフトレザーアーマーと、皮を特殊な薬品で煮込んで硬くしたハードレザー、あるいはリジッドレザーアーマーと言われるものがある。

 防具としてはもちろんハードレザーの方が性能がいいんだが、ソフトレザーに比べると少々重たいし、窮屈で動きを阻害する部分もある。

 逆にソフトレザーの防御力は正直低いが、それでも動物の牙くらいに対してなら十分有効だ。

 もしオーダーメイドできるなら、動きが少なく重要な臓器が多い胸部だけをハードレザーにする、なんていうのも手だな」

「胸……心臓、とかありますもんね……」


 言われて、ミントは胸に手を当てる。

 その奥にある、心臓や肺などの重要な臓器の存在が、なんとなく感じ取られて。

 ここを守ることの重要さを、今更ながらに感じてしまう。


「そして最後に金属鎧だが、今のミントには文字通り荷が重い。

 将来的にはチェインメイルかブレストプレートを装備できるようになればいいか、くらいかな」

「そうねぇ、チェインメイルは私もよく使うけれど、防御力の割に動きにくさもそんなになくて使いやすいわよ」

「いやまあ、リブラは……うん、そうだな、確かに使いやすい金属鎧の一つではある」


 ヴィオラの説明に、隣に座るリブラがうんうんと頷いている。

 今彼女が着ているのは修道女などが着ている清楚なワンピース状の服だが、この上からチェインメイルを着るのだろうか。

 そんな想像をしていたところに聞こえた声は、どこか歯切れの悪いものだったのが気に掛かるが。


「強いて言えば突き刺す攻撃に弱いと言えば弱いんだが、それでも革鎧よりは硬い。

 板金鎧よりも軽いが弱い。中途半端と言えばそうだが、わかっていて使う分には十分有用だ」


 何事もなかったかのように、どこか胡散臭いくらいにハキハキと語るヴィオラ。

 それを見て、ミントは思わず声を潜めながら手近にいたアイゼンに声を掛けた。


「……リブラさん、何か秘密でもあるんですか……?」

「あ~……ああ見えてリブラのやつ、チェインメイルを着込んだまま半日歩き通すくらい体力があるからのぉ……」

「え、そ、そうなんですか……?」


 思わず声を上げそうになったのを、口に手を当てて堪えながら。

 まさかと思って視線を向けたリブラは、やはり楚々とした美しいプリーストにしか見えず、ミントは混乱してしまう。

 そんなミントを知ってか知らずか、むしろ意図的に流そうというのか、ヴィオラはそのまま話を進める。


「後は、ミントが将来的に着用する可能性があるのはスケイルメイルか。

 これはうろこ状にした金属片を革鎧などに縫い付けた物で、やはりプレートメイルに比べて軽く動きやすい代わりに防御力は少々劣る。後、造りによってはチェインメイルよりも音がするのも難点だな」

「でも、あの音が熊避けになったりすることもあるそうよ。私は着ないけど」

「そうなのか? それは初耳だが……エルフならではの知識というかなんと言うか。熊が避けられるのは良いが、場所によっては余計なモンスターを呼び寄せるかもなぁ」


 金属鎧をほとんど身に着けることがないエルフであるリームの意外な知識に、ヴィオラは素直に驚きを見せた。

 レンジャーの彼女は山野によく立ち入るわけだから、知っていてもおかしくはないのだが、はて、あまり人と交流を持たない彼女が一体誰から聞いたのだろうか。

 流石にプライバシーに関わるとそれ以上は立ち入らず、締めへと入る。


「最後は、プレートメイル。あるいはプレートアーマーとも言われる板金を配置した鎧でとても防御力は高いのだが、これはエイジみたいな筋力バカじゃないと着けられないものだから、ミントは考えなくて良い。私だってブレストプレートにハードレザーなくらいだしな。

 いや、成長してムキムキになったら別だが……」

「さ、さすがにムキムキは遠慮したいです……」


 ヴィオラの言葉に、プルプルとミントは首を振った。

 冒険者である以上、筋力もあった方がいいとは理解している。

 だが、ムキムキまでいくのは流石に行きすぎだろうし、彼女の乙女な部分がそれを拒否している。

 例えば目の前に居るヴィオラなど、熟練の冒険者であり必要な筋力を持ちながら、決してムキムキなどではないのだから。

 そんなミントの葛藤を知ってか知らずか、ヴィオラの解説は続く。


「板金鎧の中でも、フルプレート、あるいはスーツアーマーと呼ばれる、一から身体に合わせて作ったものもあるんだが、これは凄まじい防御力を持つ反面、キルテッドアーマーの上にチェインメイルを着て、さらに板金鎧、という代物だから徒歩ではとても使えず、騎士など騎乗する人間にしか装備できないので、尚更ミントの選択肢には上がらない。

 値段も、下手したら家を買えるくらいになるものもあるくらいだからな」

「え、俺あれ着て走れたけど。窮屈だから着てないけど」

「もういい、エイジはいいから黙ってろ」

「正直、エイジは時々人間か疑わしくなるのぉ。ワシでもスーツアーマーはきついぞぃ」


 茶々入れではなく、本当に心の底から不思議そうに言うエイジへと、ついにヴィオラはさじを投げた。

 聞いていたドワーフのアイゼンも首を横に振りながら同意するくらいだ、余程のことなのだろう。


「とまあ、ここまで延々説明したわけだが、今のミントが装備すべき防具は、わかるか? 理由も含めて説明してみてくれ」

「え、今のお話を考えると、多分……」

「ついでだから、いくつか選択肢も用意しておこうか」


 そう言いながらヴィオラが提示したのは、以下の四つ。


・クロースアーマーに布の手袋(軍手)

・ソフトレザーアーマーに布の手袋(軍手)

・ソフトレザーアーマーに革の手袋

・ハードレザーアーマーに革の手袋


 ミントが装備すべきなのは、どれだろうか。

※:解答編は3/6(土)に更新予定です。


もし解答してみる!という方がおられましたら、感想欄やメッセージなどでいただけると大変嬉しいです。


その際は、理由まで書いていただけるととってもとっても嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  前回の出題傾向まで考えると、ソフトレザーに軍手、さらに革のグローブ。でしょうか。  採取物を摘み取るのに革のグローブだと邪魔になるものもある反面、毒があったりトゲがあったりするものを取り扱…
[一言] 防具は咄嗟に獣等から身を守れる程度に防御力を抑えつつ軽さ・動きやすさを重視したソフトレザーを 手袋はグリップや耐突刺を考慮して革手袋を……という感じだと思います 軍手はビニボツのような滑り止…
[一言] 更新お疲れ様です。 ソフトレザー+革手袋と予想します。 戦闘ではなく採集が目的ですが、野生動物やモンスターとの遭遇の可能性に備えると、防具は長袖長ズボンに革鎧、頭用の防具、首を守れてない場合…
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