ダンジョンへの第一歩:出題編
エイジが勝利の雄叫びを上げ、ミント達がドン引きする。
そんな、極めて温度差が大きいその空気が漂う中。
ビシッ! と鋭くも大きな音が響いた。
「なんだ!?」
周囲に警戒をさせるような声を上げながら姿勢を低くしたのは、ヴィオラ。
流石歴戦の傭兵、こういった時の反応は人一倍速い。
「多分今のは、岩が割れた音。……岩、というか岩盤?」
ついで聞こえたのは、自然に親しむレンジャーであるリームの声。
それを受けて、『ライト』の魔術を使っているリブラが周囲を探るように光を動かして。
「あ、あそこです! あそこの壁に、裂け目が!」
言われて全員が見れば、確かに広場の奥の壁に大きな裂け目が刻まれていた。
高さで言えば3m、幅は1m以上と大柄なエイジも楽々通ることが出来るほど。
「こりゃあれか、おいでませって神様が言ってらっしゃるのかなぁ!」
激戦の興奮冷めやらぬエイジは、人ならざるオーラを纏ったまま声を昂ぶらせる。
そして、ゴブリンキングと一騎打ちが出来た程の男であれば、確かにこのまま突き進んでも問題ないだろう。
敵がモンスターだけであれば、だが。
「待ってくださいエイジさん! これは私でもわかります、多分このまま進んじゃだめなやつです!」
慌てた声でミントが叫べば、流石のエイジも動きを止める。
いくら彼が猪突猛進な性格で、かつそれでも今まで生き残ってきたとはいえ、可愛くも未熟な後輩がいることを思い出せば足も止まろいうというもの。
はぁ~と大きく息を吐き出した彼は、手にした両手剣を肩に担ぎ上げた。
「すまねぇ、ミントの言う通りだな。この先は、このまま進んじゃいけねぇ場所だ。
なんでか、ってわかってるから言ってるんだろうが……なんでそう考えた、ミント」
いまやすっかり馴染んでしまった、出題形式の問い。
エイジに聞かれ、ミントはほとんど考える間もなく答える。
「はい、この先は……この洞窟と違う、人の手によって作られたダンジョンになっているみたいです。
であれば、このまま進んだらだめです、絶対に必要な人がいません」
「おう、その通りだ。じゃあ、誰が必要なんだ?」
ミントの目を見れば、その答えもとっくに出ているはず。
なんとも頼もしい後輩だ、と彼女に目を掛けているエイジなどは楽しくてたまらない。
ミントには、冒険者に大事な何かがある。そう思えてならないのだ、先輩としてこんなに嬉しいことはないだろう。
「それは、カルタさんのようなシーフ職の人です。人の手によって作られたということは、罠とかが仕掛けられている可能性が高いんじゃないかと」
「正解だ、その通り。なんせ罠のタイプによっちゃあ、俺ですら危ないからなぁ」
「普通の人間は大体の罠が危険なんだ、お前を基準にするな」
うんうんと満足げに頷くエイジへと、ヴィオラの冷たいツッコミが入る。
実際の所、普通の人間であれば落とし穴程度でも深さや構造によっては致命的。
なのに、エイジが落ちて命の危険がある場面が、想像出来ない。
ひょっこり落とし穴の底から登ってきても、『エイジだから』で済んでしまいそうな空気がある彼に対して、ヴィオラは最早諦めの境地に入っていた。
「となると、一度戻って準備し直す必要があるわね。カルタちゃんが居ないのはもちろんだけど、保存食なんかもちょっと心許ないし」
「そうだな、ゴブリン達の拠点を見つけることが最優先だったから、長期間の行動に耐えられる準備はしていないし」
「これが森の中なら、私はいくらでも食べ物を見つけられるけれど……ダンジョンは流石に、ね」
リブラが懸念を示せば、ヴィオラやリームも同意する。
何しろ今回はゴブリンの拠点を探すのが主目的。一気にゴブリンキングを倒すことも出来たが、場合によっては一時撤退も視野に入れていたのだ、保存食も一日二日分程度しか用意していない。
「あ、あの、保存食ってそんなに必要なんですか?」
「そうか、ミントはまだダンジョンに潜ったことがないものな。
普通は一日二日で踏破出来ることが多いんだが、場合によっては一週間以上潜る羽目になる場合だってある。
噂に名高い『迷宮都市ウ・メチーカ』なんて、一ヶ月かかっても底が見えないなんて言われているしな」
「そ、そんなダンジョンがあるんですか!? そんなの、とても突破出来ませんよ!?」
さも当然のようにヴィオラが言うも、初心者であるミントからすればとんでもない話である。
一ヶ月、と聞いて最初に浮かんだのは、大量の保存食を背負いきれずに潰れた自分の姿だったりするくらいだ。
「ああ、普通は無理だな。だがそこは、普通じゃないダンジョンだから普通じゃないことになっていてな……。
なんと、迷宮の中に街があるし、そこに食料を買える店もあったりするんだ」
「迷宮の中に、街!? え、だから迷宮都市なんですか!?」
「それも含めて、だな。迷宮を中心に都市が形成され、迷宮の中にも都市がある。
二重の意味で迷宮都市なんだ、ウ・メチーカは」
「す、すごいとこなんですね、ウ・メチーカ……」
その常識外れな話に、ミントは絶句する。
まだ、ヴィオラいわくの普通のダンジョンにすら潜ったことのない彼女からすれば、ウメチーカの規模は想像できない。
出来るわけがない。
だから。
「……いつか、行ってみたいなぁ……」
ミントはぽつりとそんな言葉を漏らした。
それを聞き漏らさなかったヴィオラは、小さく笑いながらポン、とミントの肩を叩く。
「ウメチーカの話を聞いてそんなことを言うなんて、ミント、お前は冒険者の才能があるよ、きっと」
「えっ、そ、そうなんですか? よくわからないですけど……」
思わぬ言葉に目をぱちくりと瞬かせるミント。
けれども、そう言われた彼女の顔には、ほんのりと嬉しさも滲んでいた。
「じゃ、そんな未来ある冒険者のためにも、準備のために一度戻ろうぜ?」
話が一段落付いたとみて一応今回のリーダーであるエイジが声を掛ければ、全員が頷く。
「そうだな、そもそも折角これだけの収穫があったんだ、まず利益を確保しないとな」
そう言いながら、ヴィオラがゴブリンキング達の魔石を回収していく。
その大きさは、大振りだと言われたゴブリンのそれよりも遙かに大きく、確かに価値が桁違いだろうとミントの目にも一目でわかるほど。
「そういうところはしっかりしてるよなぁ。つっても、確かに準備するには元手もいるし。
っと、それで思い出した。ミント、街に帰ったらダンジョン攻略のために絶対買っておいた方がいいもんがあるんだが、何かわかるか?」
「ええ!? そ、そんなの、保存食も必要でしょうし、色んな道具も必要でしょうし……たくさんありすぎてわかりませんよ!?」
唐突な、そして漠然としたエイジの出題にミントが悲鳴を上げる。
それを聞いて、エイジは思わずポリポリと頭を掻いた。
「そりゃそっか、すまねぇ、そもそもミントは持ってないもんばっかだもんなぁ。
んじゃ問題を変えよう。絶対買っておいた方がいいもの、それは10フィート、3mくらいの長さの棒なんだが、何故かわかるか?」
「3mくらいの、棒、ですか? 普通の、です?」
「そうだ、普通の、何の変哲もない。出来れば丈夫な方がいいかな」
エイジが捕捉をするも、ミントは首を傾げるばかりなのも仕方のないところだろう。
さて、何故ダンジョンの探索には10フィート、3mくらいの棒が必要なのだろうか。
使用用途などを考えてみて欲しい。
※大分久しぶりの出題となります。
こちら、解答編は来週の土曜日9/16頃を予定しております。
もしも解答くださる方がいらっしゃいましたら、感想掲示板の方まで!
……といっても、今回の出題はほとんどの方がおわかりではないかと思いますが……。




